第116話 そうだ、王都へ行こう! 11 ベスVS蒸気の飛龍様


「みんな起きろ! やばいぞ、これ!」




 俺は皆のベッドを揺らし起こす。




「ふぃ……どうしたんですか……眠いです」


 ロゼリィがぼーっとした目で起き上がる。



「蒸気モンスターだ! ロゼリィは車掌さんに伝えてくれ!」


「ふぃ……? わ、分かりましたー……」


 もそもそベッドから出て、ロゼリィがふらふら個室から出て行く。




 ハイラインさんはすぱっと起き上がり、装備を整えている。


 さすがに騎士さんだ、イレギュラー対応が早い。



「ハイラインさん、蒸気モンスターです。見えますか!?」


 ハイラインさんが窓から後ろを確認。少し顔を青ざめさせる。


「あ、あれ……フラウムドラゴンです。動きは鈍いのですが、ものすごい頑丈でやっかいな奴です……ラ、ラビコ様! 起きて下さい!」




「むぉー……むひぃー……いひひ……」




 ラビコは寝相悪く寝ていてピクリとも反応しない。


 備え付けのテーブルの上には空になったお酒の空き瓶が数本転がっている。こいつ、酒飲んで寝やがったな……。



「だめだ、ラビコはあてに出来ん! ベス、行くぞ!」


「ベスッ!」


 ベスが元気よく俺の足に絡みついてくる。



「え……? あの、その犬……? ですか……?」


 ハイラインさんが不思議な顔で俺達を見てくる。


 そういえばハイラインさんは、ソルートンの戦いでのブランネルジュ隊にはいなかったな。





 アプティは静かに窓の外の龍を眺めている。







 個室から廊下に出て非常用の扉を開ける。電気が通っているわけではないので、簡単に開くな。前方の安全を確認してから、少し身を乗り出し後ろを見る。



 二つの目が怪しく光り、完全にこの列車をロックオンしている。


 動く物を襲うってことか? それとも何か別に引かれる物があるのだろうか。


 そういえば街での戦いで、農園のおじいさんが言っていた。


 蒸気モンスターは強い魔力に引き寄せられる、と。


 強い魔力、今ラビコは酔っ払って寝ている。魔法は使っていない……魔力……魔晶列車……これか? しかしそれならこの列車いつも襲われていることになるよな。


 数は一、集団での行動ではない? はぐれのたまたまの行動か? 


 分からん……しかし狙われていることは確かだ。この列車には多くの人が乗っているんだ、追い払わないと被害がすごいことになる。




 月の光で全身の姿がはっきり見えた。



 黄色の鱗に覆われた飛龍、か。頭にヤギみたいな太い角が見えた。口から漏れた蒸気が雲を引くように飛び、列車にゆっくり近づいて来る。


 翼の羽ばたきは遅い、ハイラインさんが言っていた動きが鈍いは納得。


 大きさは以前隣街からの帰り道で見た、アーレッドドラゴンと同じぐらいか。翼を広げた大きさはこの列車二両分はありそう。



 飛龍が大きく口を開け、蒸気の塊を作り出した。まずい、行くぞベス!




「翼を狙うぞ、ベス! 撃て!」


 ベスが吼え、前足の振りからかまいたちを飛ばす。


 右の翼に命中、当たっただけでたいしたダメージはなさそうだが、体のバランスを崩し、放つ蒸気の塊は遥か上空に飛び、消えた。


 しかしこれじゃあ、追い払うこともきついな。列車に当たったら終わりだし……。



「す、すごいんですね……あなた達。フラウムドラゴンに臆することなく立ち向かうとか、ベテランの冒険者さんなんですか?」


 ハイラインさんが驚いた顔で聞いてくる。いいえ、初対面ですあいつ。



 だが、銀の妖狐に比べれば恐怖はない。





「ハイラインさん! あなたの出来ることはなんですか!?」


 戦力が欲しい、この限られた場所からの遠距離攻撃と列車を守りながらの戦いは不利だ。


「は、はい……! わ、私はブランネルジュ隊の一人です! 飛車輪を扱うことが、で、出来ます! 槍は持って来ていませんがこの剣があります!」




 ハイラインさんが開け放たれたドアから外に向けてジャンプし、叫ぶ。


「来なさい……! シューティングスター!」


 俺がドアから飛び出したハイラインさんに驚いていると、上から空飛ぶ車輪が現れ、ハイラインさんがその上に着地。


 うーわ、びっくりしたぞ……走行中の列車からいきなり飛び降りるとか心臓に悪いっす。




「ハイラインさん! 俺を列車の屋根に運んで下さい」


「わ、分かりました! あ、私のことはハイラとお呼び下さい。戦闘時は短いほうが便利です」


 車輪がドアのギリギリまで近づいて来る。俺はベスを抱えながら慎重に飛び乗った。



「い、行きますよ! 掴まって下さい!」


「頼む、ハイラ!」


 列車の速度はどれぐらいだろうか、一歩間違えたら吹き飛びそうな風圧だ。屋根の凹凸で良い感じのところに降ろしてもらう。ちょうど掴まる棒もあり、ここなら体が固定出来そうだ。




「気をつけて下さい! で、ではペルセフォス王国ブランネルジュ隊所属……新人、ハイライン=ベクトール、参ります!」









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