第77話 ソルートン防衛戦 10 車輪円舞と銀の妖狐様
空飛ぶ車輪部隊が放射状に飛び立ち、構えた槍から伸びる光の刃が触れた蒸気モンスターを切り裂く。
「そこの二人、動かないことを薦める。我がブランネルジュ隊の編隊奥義、大車輪をお見せしよう」
お姫様を先頭に、飛び立った空飛ぶ車輪が集まり円状に周回を始める。
「変態奥義だってよ、きっとあの変態女の性癖が詰まったエロいやつだぞ」
「フォーメーションだ、思わず手元が狂ってもいいんだぞ? ラビィコール」
十の空飛ぶ車輪が大きく円を描くように同じコースを周回し、速度を上げていく。
車輪に乗った騎士達が光る槍を突き出し、輝く天使の輪のように俺達の真上にゆっくり移動してくる。
「六秒間の円舞をお楽しみいただこう。拍手の一つでも頂ければ幸いだ」
光の輪が速度を上げ俺達を中心に円状に飛び回る。
まるで巨大な円月輪が飛び回っているような光景。
次々と地上を蠢いていた魚ゴーレムが光の輪に触れ、蒸発していく。光の輪は角度を上げ螺旋状に上空に上がっていき、上空の紅鮫、巨大エイをも切り裂き蒸発させていく。
「す、すげぇ!」
気付けば砂浜を埋め尽くしていた蒸気モンスターが、俺達の周囲百メートルぐらいの空間だけぽっかりと消え去った。俺はその六秒間の出来事に思わず拍手を送った。
「お気に召されたようで。そちらの女性も拍手ぐらいは頂けないかな?」
「……ち。助かったよ、お姫様」
ラビコが俺の腰に回していた手で少し拍手をした。
「ラビコー!! 無事かい!?」
「ああ、良かった無事だね。おお、王都の車輪部隊じゃないか。大規模戦闘以来だよ」
街のほうからジゼリィさん、ローエンさんが走ってきた。
「がっはっはっは! 残りの小魚の始末は任せな」
海賊のおっさんも来てくれた。
と言うことは街と港のほうはもう大丈夫ってことか。
「なんとかなりそうだぞ、ラビコ」
ラビコはまだ俺の胸に顔を埋めて離れようとしない。
「がっはっは、お前らと一緒に戦うと色々思い出すな! ジゼリィ、ローエン!」
「相変わらず豪快だね、見惚れるよ」
「お互い錆び付いちゃいないみたいだね! さぁ、やろうか!」
海賊おっさん、ローエンさん、ジゼリィさんが息の合った戦闘を始めた。
長く共に戦った仲間のような動き。この三人、知り合いだったのか。ラビコもこの三人と知り合いだし、何か昔にあったのだろうか。
お姫様の車輪部隊も加わり、もはや勝利は確実といった状況。よかった。
「…………? なんだろう、海の上に人……」
ふと海のほうを見ると、海の上に人らしきものが佇んでいる。
少し目を凝らさないと見えないレベルのかなり濃い靄の向こうの海の上に立つ人影。
「人……いや、尻尾……。一、二、三……九つの銀色の尻尾」
「!?」
俺の言葉にラビコが驚いた顔をした。
いつもの何かを企んだような余裕の笑顔ではなく、血の気の引いた焦った顔で叫んだ。
「ジゼリィ!! 全員に防御魔法! サーズ! こいつを連れて逃げ……」
遥か沖にいたさっきの人影が、ポーンと軽く上にジャンプしたと思ったら波打ち際に瞬間移動でもしたように着地。
その姿はとても綺麗で美しい男性の容姿。
御伽噺に出てくるような色鮮やかな着物を纏い、銀の長い髪に狐の耳、口から蒸気を吐き、吸い込まれそうな綺麗な瞳に銀色の九本の狐の尻尾。
「こいつ……! まずい! サブルファルゥ!!」
ジゼリィさんがラビコの声とそいつの存在に気付き、光の粒のシールドを全員に展開。
その男はそれらの動きに目も向けず右手を構え、一瞬で波打ち際から俺の目の前に現れた。
「な、んだ……こいつ……がはっ!!」
右手で首を掴まれ、俺は空へと持ち上げられる。
「がっ……! ぐっ……かはぁ……」
呼吸が出来ない……これは……マズイ……。
「ずっと見ていたんだ。君だ、君がいなければこの街はとっくに半壊ぐらいは出来ていたはずなんだ」
獣の目をしたそいつはニヤァと笑い、俺を見る。
「ねぇ、君……この世界の住人じゃないだろう。僕等と同じだ」
な、何を……こいつ……。
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