第7話 お風呂回様
「うわっ、すごい食材! どうしたんですか、これ!」
「うへへ、やりましたよお姉さん! 俺達二人で勝ち取ってきた戦利品です!」
正確にはベス一人で、だが。
宿屋の前で俺、ベス、お姉さんの三人で盛り上がる。
「これは調理の人が喜びますよー! すぐ呼んできますね!」
お姉さんの呼びかけで調理の人が飛んで来て、興奮しながら品定めをしている。
部屋に戻り一休み、夕飯までは少し時間あるからお風呂行ってくるか。
「お姉さーん。俺お風呂行って来ますねー」
受付のお姉さんに声をかけてお風呂に行こうとしたら、お姉さんに呼び止められた。
「ちょ、ちょっと待って下さい! わ、私も行きます!」
「え?」
お姉さんが慌てて中に引っ込み、お風呂道具一式を持ってきた。
この世界は家にお風呂は普通ついていない。街の何箇所かにある大きなお風呂屋さんに行くのが普通なのだ。まぁ、一部お金持ちさんはお風呂付住宅らしいけど。
「えへへ、新しいシャンプーを買ったので自慢しようかと思いまして」
お姉さんが綺麗な入れ物に入ったシャンプーを見せてくれた。へぇ、こういう文化は発展しているんだな。蓋を開けて匂いをかいでみる。
「おーすっごいいい匂いだ。柑橘系ですかね。俺好きですこの柑橘の感じ」
「! ほ、本当ですか!? 良かった! ちょっと奮発したかいがありました!」
お姉さん、俺より年上なんだろうけど、すっごい可愛いなぁ。美人だし、モテるんだろうなぁ。
他に薔薇の香り、ラベンダー、桃の香りがあって迷ったが、柑橘のこれにしたらしい。
お風呂。
お風呂。
お風呂。
ああ、分かっている。慌てるな男達よ。
男湯、結構混んでいる。体に傷がある人が多い。さすがに危険な商売だしな、冒険者って。
しかし、いい筋肉をした男達がわんさかいる。その肉体一つで稼いでるって感じで格好がいいなぁ。体の傷自慢とか、いかにもって感じ。
うは、あの人の背中の筋肉すげぇな。重い武器振り回す系の人かなぁ。
え? 男湯の細かい描写はいらないって? あ、そう? じゃあ……。
女湯。見えない。以上。
……いや無理だって! 真ん中にでっかい壁あるし!
俺だって見たいよ! あんな美人のお姉さんの体とか! 服の上からでもいい体なのは分かるって!
仕切り壁を念入りに調べてみたが、覗くのは無理そう。
歴戦の勇者ががんばってみた跡があったが、なんか血の跡があったのでそれ以上調べるのはやめた。
「お、お待たせしました!」
外で買った牛乳を飲みながら待っていると、お風呂屋さんからお姉さんが慌てて出てきた。
「いえ、どうでした? 新しいシャンプー」
「ふふっ……どうでしょう! 三十Gもしたシャンプーの威力は!」
そう言ってお姉さんは、長い髪をぐいぐい俺の顔に押し付けてきた。
「さ、三十……結構したんですね。うは、こりゃあ柑橘だ! いいですね! うっとりしちゃいそうです」
「ふふふふ! いいんですよ! うっとりしても!」
お姉さんがすげーいい笑顔で決めポーズをしている。ははは、いやぁ楽しいなぁお姉さんと一緒にいると。いい人と出会えて良かった。異世界にベスと二人でどうしようか不安だったが、お姉さんといると、笑顔でいれるぞ。
「ありがとうございます」
俺は聞こえないようにぼそっと呟く。
「え? なんです?」
「なんでもないっす」
お姉さんが俺の腕をつかんでブンブン左右に振ってきた。
「何か言いましたよ絶対! いいんですよ、照れなくても。ほら存分に褒めて下さい。さぁ、目一杯!」
「ははは、年上で言っていいのか分かりませんが、お姉さん可愛いなぁ」
お姉さんがピタっと動きを止めて、顔がどんどん真っ赤になっていく。耳まで真っ赤だ。
「か、かかかかか……可愛いとか! ひいいいいいい……!」
お姉さんは走って宿屋のほうに行ってしまった。
「俺、変なこと言ったか? やっぱ年上に可愛いってのは失礼だったのかな」
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