龍ちゃんとおっさん

富本アキユ(元Akiyu)

第1話 龍ちゃん、おっさんに出会う

安くて美味い行きつけの蕎麦屋で飯を食っていると、隣の席に座っていたおっさんが立ち上がった。


「あれ?ええ?ない!!ないぞ!!財布がない!!参ったな、どこかに落としたか!?」


どうやら会計前に財布がない事に気が付いて焦っていた。


「あのさ、おっさん。これで払いなよ」


俺は500円玉をおっさんに渡してやった。まあ親切心というやつだ。

飯代を貸してやると、おっさんは……


「兄ちゃん。すまんな。すぐ金返すから今から俺についてきてきてくれ」


と言った。家が近所なのかな?

俺はそう思い、おっさんについていくと、そこはなぜか競馬場だった。


「4-2の馬単だ。絶対当たる。間違いねぇ。これで100円だけ買ってくれ。それで当たったら飯代になる」

「はぁ!?俺ギャンブルなんてしねぇぞ!俺は慎重派なんだ!」

「大丈夫だから!1回だけ!1回だけ俺を信じろ!」


何度断ってもおっさんは、必ず当たるから信じろの一点張り。


「ほら!!あと3分で投票が締め切っちまうよ。兄ちゃん、急いで4-2で買えよ」


俺は渋々、100円だけ馬券を買わされる羽目になった。

そしてすぐにレースが始まった。


「4番は先行逃げ切り型の馬だ。スタートと同時に一気にトップを走っていって、そのままグングン伸びていって追いつかれる事は絶対にねぇ。強い馬さ。それから2番も最近、調子が良いんだ。4番には及ばねぇが、2着は2番で決まりだ」


レースは、おっさんの言ったとおりの展開になった。

4番の馬は、スタートダッシュを決めると物凄い差をつけて最初から最後まで抜かせなかった。そして2着もおっさんの読み通り、2番が後半で一気に追い上げてきて、そのままゴールした。

馬券は的中し、100円が1200円になった。確かに飯代は回収できた。


「勝った。マジかよ……」

「ほら、見ろ!俺の言ったとおりだろう?くー!俺も財布さえ落とさなけりゃ大儲けできたのに!!分かりやすいレースだったのに残念だ」

「それじゃ、俺は行くよ。飯代は返してもらったからな。じゃあな、おっさん」

「兄ちゃん。ちょっと待ちな」

「なんだよ。まだ何か用があるのか?」

「兄ちゃん。見ず知らずの俺に金貸してくれて、競馬でも俺を信じてくれる。良い奴だな。気に入ったぜ。また今度、当たるレース教えてやるよ。連絡先教えてくれ」

「え?別にいいよ。俺、ギャンブルなんてやらないし。それにギャンブルなんて今日は偶然勝てただけだろ。いつも勝てるもんじゃねぇよ」

「じゃあ今度、安くて美味い飯屋連れてってやるから。飲みに行こうや。な?連絡先教えてくれよ」

「安くて美味い飯屋か……。……まあそれは嬉しいな」


俺は安くて美味い飯屋の情報に釣られ、おっさんと連絡先を交換した。


「矢島龍一……か。じゃあ龍ちゃんだな。じゃあな、龍ちゃん。また連絡するわ」

「ああ、わかったよ」


俺の携帯に登録されたおっさんの名前を見た。「田村」とだけ書いてあった。


「やれやれ……。まさか蕎麦屋で飯食った後に競馬やらされるとは思わなかったな。まあちょっと儲かったし、まあいいか」

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