『偉人魔導士のめんどくさレシピ』
やよ
Appetizer 魔王討伐戦
美と堅牢を兼ね備えていた魔王城が、今まさに崩れ落ちていた。
凄まじい音が、魔界の森に響いていた。
城を瓦解させたのは、他ならぬ、
「ヒャーッハッハッハッ!! この攻撃を受け止めるたぁ、なかなかやるじゃあねーか!!」
視界を覆っていた土煙が晴れてくると、魔族の王の姿が見えてきた。
禍々しいほど紅く大きな
「結界張ってンのは、ボウズの方か、嬢ちゃんの方か? ……あぁ、ボウズの方か。〝
魔王は、乗りこんできた勇者パーティへの激励とばかりに、派手な大魔法をぶっ放してくださった。玉座どころか、魔王城すべてを瓦解させるほどの魔法である。
勇者たちは即座に対応した。魔法の防御壁で自分たちを守った。
それを素早く行ったのは、魔導士のソランだった。
「……このくらいのものがなければ、太刀打ちできないと思ったものでね」
ソランは、爆風で少しズレた黒縁のメガネを押し上げながら、そう言った。
ソランの持つ「
それを見た美しい魔王は、嬉しそうに笑った。
「そーかそーか。そんじゃあ……その苦労に報入れるよう、楽しい戦いにしてやろうじゃないか。なぁ? 『勇者』よ」
ソランの背後で、光が瞬く。
白く輝く光の剣は、その瞬きを増し、所有者の精悍な顔立ちを照らし出した。
「――楽しいかどうかは、わからないが、世界の平和のため人々のため……お前はここで倒させてもらう! 魔王バース!」
「いいぜいいぜ!! ハデにヤろうぜ――!!」
かくして決戦の火蓋が落とされ、勇者パーティと魔王の激しい戦いが始まった。
魔界を揺さぶるほどの衝撃が何度もあった。勇者フェイドが光の聖剣を振りかぶり、バースの腕と斬りあう度、衝撃波が魔界の森を駆け抜けた。ここまでに重臣のすべてを失った魔王はもはや単身だというのに、ソランや女魔導士ラジェンナ、高僧ソーン、拳闘士ガイの攻撃にも対応してくる。
光の加護がなければ、表界が滅ぼされるというのも、頷ける強さだった。
しかし、今代の勇者パーティは歴代でも最強に分類される。
数の差もあり、徐々にバースが劣勢へと向かっていった。
そして……
「……あーあ、表の連中は……〝光〟は、いつも独り占めしやがる……」
地へと倒れたバースは、夜の明けない魔界の空をつまらなそうに眺めていた。もう、指一本動かせない。
「ズルイじゃねぇか……。キラキラしたもん、全部お前らのモンでさ……」
「バース……」
フェイドの目に、憐憫が浮かぶ。それをバースは、笑って跳ねのけた。
「トドメを刺せよ……『勇者』」
「ッ……」
迷う勇者に、魔王が失笑する。
「仕方ねぇか……『光の勇者』だもんなぁ」
ばぎりっ、と、嫌な音がした。
驚くフェイドたちの前で、魔王の体が黒ずみ、朽ちていく。
「これは……」
うろたえるフェイドに、ラジェンナが顰めた顔で言った。
「自分の〝魔力炉〟を壊したのね。魔力炉は魔族にとって第二の心臓よ。失ったら、命を保てない」
後味の悪い最期だった。
だが、それでも、勇者パーティの役目は無事に終えられた。
国へ戻った彼らは盛大に迎えられ、王より『偉人』の称号を賜る。
およそ、1年前の話だ。
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