第252話大きな迷子

「えーと、喫茶店、喫茶店、喫茶店……? ふむ、やはりどの店も閉まっているなー。喫茶店などどこにも見当たらないが? パッセロとオモルディアはどの店で待ち合わせと言っていたのだろう? 店名を聞いておけば良かったなー」


 ラベリティ王国の高級宿屋を勝手に飛び出したバーソロミュー・クロウは、一人待ち合わせ場所である ”喫茶店” を探していた。


 パッセロとオモルディアからは 「宿屋の喫茶室で待ち合わせ」 と言われていたのだが、ミュー得意の聞き間違え&思い込みからか、街へと飛び出したバーソロミューは、寂れた王都の街で一人喫茶店を探し回っていた。


 だが、現在のラベリティ王国は荒れに荒れている。


 開いている店も限られているため、嗜好を楽しむ喫茶店など開いているはずが無い。


 だったらさっさと宿へと戻れば良いのだが、そこはニーナの補佐官としてのプライドがあるバーソロミュー。


 折角なのでラベリティ王国の王都を調べて見せましょう! と意気込んでいた。


「ねー、ねー、おじさん。おじさんってサーカス団の人? この街にサーカスが来るのー?」

「はぁ? サーカス?」

「うん、おじさん、ピエロさんでしょう? だって面白い服装してるもんねー」


 自慢のピンクフリフリシャツを抜いだバーソロミューは、兄バルテールナーから借りたお古の黄色いフリフリシャツに、膝にチェックのパッチワークを入れたラクダ色のズボンを履き、それを青と赤の縞模様で出来たブレイシーズで止め、バーソロミューが思い浮かべる ”平民” のフリをしていた。


 子供がピエロだと間違えても仕方がない。


 第一、バーソロミューは元からネズミ顔という面白い特徴がある。


 兄バルテールナーは母親似のお陰でステキなネズミ顔なのだが、ミューはといえば、残念ながら父親に似たためちょっと笑えるネズミ顔なのだ。


 なので街の子供がバーソロミューをピエロだと勘違いするのも頷ける。サーカス団が来ると勘違いしても仕方がない。


 ただし、今のラベリティ王国のこの現状では、サーカス団が来るとは考え辛い。


 なのでバーソロミューを見て怯える(気味悪がる)母親に「行きますよ!」と手を引かれ離れていく子供を、バーソロミューは呆然顔で見送っていた。


 私がピエロ?!


 兄上から借りたこのシャツがおかしいのか?!


 やっぱり黄色は私には似合わないということか?!


 いや、違う! 私が紳士に見えないという事は、平民のフリが完璧だという事じゃないか?


 だからあの子供も話しかけてきたのだ!


 フッ。


 私も遂にファブリス殿を超える時が来た。


 第一補佐官としてニーナ様に信用され、ラベリティ王国への使者の役目を与えられる訳だ。


「アーハッハッハッハッハ!」


 街中で突然笑い出した気味の悪い男。


 ただでさえ荒れている街中だ、王都民皆が皆、バーソロミューの側から逃げるように消えて行った。


 笑いが落ち着き周りを見回したミューは、人っ子一人いない事に首を傾げる。


 だが何の情報も得ず宿に帰る訳にも行かないし、実際の所……宿の場所がちょーっと分からなくなっていたりもする。


 仕方なく鼻をきかせ、行く先を決めるバーソロミュー。


 クンクン、クンクンと、辺りの匂いを嗅ぐと、遠くから食べ物の匂いがする気がした。


 その方向は西区。


 ディランジュールの元婚約者、ペネロペリアが炊き出しを行っている場所だ。


 なのでバーソロミューの勘は非常に正しい。


 ニーナからもペネロペリアのペタバイト侯爵家とは縁を持つように言われている。


 ただし、西区はただでさえ貧しい者が多い場所。


 つまり治安があまり良くは無いということだ。


 バーソロミューは本人の意図せぬところで、危険な場所へと勝手に足を向けていた。


 流石ニーナが認めるトラブルメーカー。


 鼻が良く効くようだった。





「おい、こら、待ちやがれ!」

「へへへっ、お嬢ちゃんよー、逃げても無駄だせー!」

「おい、そっちからも追い込め! おめーら、邪魔だ、邪魔だー!」


 テクテクと街を歩くバーソロミューの横、風を切る素早さで一人の少女が駆けていく。


 バーソロミューが大好きなピンク色の髪を綺麗にツインテールにまとめたその少女は、ディオンと変わらないぐらいの年齢の子供に見えた。


 そしてその後ろから複数の男達が追いかける。


 皆醜く厭らしい笑みを浮かべ、獲物(少女)を追う姿は悪漢そのもの。


 バーソロミューにはどう見ても、悪い男達がツインテールの少女を捕まえようとしているように見えた。


 ここは英雄ミュー様の出番というところだろう。


「君たち! 待ちなさいっ!」


 そう叫んだバーソロミューは、少女の後を追う男たちを追いかけていく。


 自慢の瞬足を活かし、バーソロミューは男達の背を追い凄い速さで走って行く。


 これも死ごき部の訓練のお陰だろう。


 だが少女は、恐怖からなのか、街を知らないからなのか、どんどんどんどん治安の悪い道へと逃げ込んで行った。


 後を追う男たちは 「しめた!」 という顔だ。


 どうやらこの辺りは男たちの縄張りらしい。


 そして遂に、少女は袋小路に追い詰められた。


 絶対絶滅の危機。


 ここでこそ、ヒーローの出番であろう。



「へへへ、嬢ちゃんー、あんた良いとこの娘だろう?」

「昼間だからって油断して一人で出かけてたのか? げへへ、俺たちが可愛がってやるぜー」

「おい、おい、こいつは商品にするんだ、あんまり傷を作るなよー」

「分かってるって、ちょーっと可愛がってやるだけさ、へへへ、見ろよ、震えてるぜ。可愛いもんだよなー。へへへ」


 少女を囲みニヤニヤする男達。


 どうにか追いついたバーソロミューは「とうっ!」とその場でジャンプし、男達を飛び越え……られなかったので、でんぐり返しをし、「なんだこいつ」と驚く男達をどうにかすり抜け、少女の前に立ちはだかった!


「君たち! やめないか! 幼気な乙女に何をする! 悪いものには鉄鎖いを、このミュー様がお見舞いして見せようぞ!! 覚悟せい!!」


 ピエロっぽい変な男の登場に、悪だくみをしていた男達でも流石にポカンとし、動かなくなる。


 バーソロミュー的にはカッコいい男(ミュー)の登場に、男たちが怯えているのだろうと思っているようだが、実際はただただ「なんだこいつ?!」と驚いているだけだった。


「おい、変な奴が出たぞ、気持ち悪いからコイツもやっちまえっ!」

「お、おう!」


 そんな掛け声とともに、男達がバーソロミュー目掛け、攻撃を仕掛けてきた。


 残念な事に、バーソロミューには攻撃力がない。あるのは特筆した防御力だけだ。


 なので勿論殴られれば、バビューンと飛んで行くしかないのだが、男達の攻撃がバーソロミューに届くことは無かった……


「アイヤーッ!」


 そんな掛け声と共に、少女から美しい蹴りが出される。


 その上少女は複数の男などものともせず、次々と男達をのして行く。


 集まった男達は10人ぐらいだったのだが、少女は一人で全員を倒してしまった。


 バーソロミューはまったく必要なかったようだ。残念。



「ふぅ、貴方達、人攫いのくせに大した事なかったわね。これなら先週の人攫い達の方がまだ手ごたえがあったわ」


 パンパンッと手を叩きながら、倒れた男達を見下ろす少女。


 どうやらかなりの武術の達人らしく、これだけ暴れたのに全く疲れも見せていない。


 その姿にバーソロミューは苦笑いを浮かべる。


 助けに入ろうとしたが、余計なお世話だったと分かったからだ。



「えーと……私の助けはいらなかったようですね……申し訳ない……」


 頬を掻きながらそう呟いたミューに、少女は可愛らしい笑顔を向けた。


「いいえ、そんな事ございませんわ。貴方は私を心配して追いかけて来て下さったのでしょう? 志の高い方がまだこの街にもいるのだと分かって、嬉しゅうございました。私は、フィンレイ・クラウドと申しますの、助けようとして下さったこと感謝しておりますわ。有難うございました」

「いえ、そんな、なにも出来ませんで……あー、その、私は、バーソロミュー・クロウと申します。実は私はこの街の者ではーー」

「お嬢様ーーー!!」

「ヤバッ! ばあや! ミューさん、助けてね」

「へっ?」


 フィンレイと名乗った少女は、騎士や使用人、そして乳母らしき者達の姿が見えると、サッとミューの後ろに隠れた。


 そしてやって来た乳母らしき老メイドに、「この方に助けて頂いたのよ」と、何食わぬ顔でバーソロミューの事を紹介した。


 訳も分からないバーソロミューだったが、お嬢様を助けたという事で皆から大いに感謝を受けた。


 そしてお礼をしたいとの事で、フィンレイの屋敷に招待される事となった。



「ウフフフッ、ミューさん、先程は有難うございましたですわ。ばあやは心配性で私が暴れ……ゴホン、無理をしますと五月蠅いのですわ。今日は助けて下さったお礼に、是非我が家で寛いで行って下さいませね。それから、さっきの事は家族には内緒にして下さると助かりますわ」


 可愛い女の子に耳打ちされたバーソロミューは、大人しく頷き招待を受けた。


 クラウド家の屋敷。


 それはパッセロとオモルディアも向かう場所でもあるのだった。




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

ミューちゃん大活躍! ……は残念ながらできませんでした。そしてアランのいとこ、フィンレイ・クラウドちゃんの登場です。続きのお話は次章となります。宜しくお願いします。

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