第236話アランとアーサーと、そして心優しき聖女
「アーサー、そして皆のものも……久しぶりだな。リチュオル国までの旅は大変なものであったと聞いていたが元気そうで安心した。それにしても危険な道を抜け国の為によく辿り着いてくれた。君たちの頑張りで我が国は必ず救われる。もう安心して大丈夫だぞ」
「……アラン……様……」
アランの姿と言葉を聞き、アランを知る者たちは目の前にいる人物が ”偽物” ではないかとそんな気持ちになってしまう。
国にいる時に見かけたアランは、頼りなく国王に意見を聞き指示がなければ動かず、自から行動しようとするような者ではなかった。
だが今アーサー達聖女支援要請一団に向けるアランのその笑顔には、強い意志と優しさが見てとれ、アラン自身が自分の力を信じている……そんな風に感じられた。
そう、まさに別人。
いや、そっくりさんだろうか。
もしかして生き別れたアラン王子の双子のお兄さんではないか?
それはアーサー達が現実逃避をしているのではなく、そう言われた方がしっくりくる程アランは以前の弱気な王子とは比べ物にならない程様変わりをしていた。
もしやこれもリチュオル国に住まう天使の影響なのだろうか?
アレク国王がアラン王子も救われた……と言っていたのはこの事なのだろうか?
アーサー達がアラン自身の努力の結果で成長したとは到底思えない程、今のアランのその姿は頼もしいものに変わっていたのだ。
そして……
アランが ”生きている” 事にこそアーサー達は何よりも驚いていた。
「ア、アラン様……そんな……ご病気で亡くなったはずでは……?」
「ふむ……アーサーはそう聞いていたのか……他に、この中で私の不在理由を別の理由で聞いていたものはいるか?」
聖女支援要請一団の面々が視線を泳がせる。
そして最初に副団長らしき人物が小さく手を上げた。
遠慮気味の副団長に、アランが頷き答えるようにと促す。
副団長はリチュオル国の重鎮達に視線を送り、彼らの様子を伺いながら小さく答えた。
「は、はい……アラン様が王位を得ようとし失敗して処刑されたと……私は事務方の者たちよりそんな噂を耳にしておりました」
「そうか……他には?」
リチュオル国の重鎮たちの様子とアランの笑顔を見て、正直に答えても大丈夫だと安心した聖女要請一団の面々がアランの噂を次々と答えていく。
弟王子イアンの婚約者に手を出して処罰された。
義母である王妃に毒を盛り牢に入れられた。
父親である国王に自分を王にしろと駆け寄り処刑された。
と、噂は様々だがそれらは全てアランが悪いように語られていた。
「アラン、これ以上の話はここではなんだろう……懐かしき友人達とゆっくり話が出来るよう部屋を準備する。そちらへ行って皆で語り合うが良い。私も後から話を聞きに部屋へと向かおう……」
「はい、アレク国王陛下ありがとうございます。彼らにはじっくりと我が国の情報を教えてもらいます」
「ああ、そうするが良い……そうすれば誤解も解けるだろう」
「はい……」
アランがリチュオル国にいた事に驚きすぎている聖女支援要請一団を落ち着かせるため、アレクが部屋を用意してくれた。
まあ、実はこれは予定通りの行動だ。
アランが追放されニーナに拾われた話を、ここに集まるリチュオル国の余計な者達にまで聞かせる必要はない。
なので国王との謁見を終え、アランと共にアーサー達は移動する。
アランが慣れた様子でリチュオル国の王城内を歩く姿にまた驚く面々。
そして部屋へと通されると、そこには見た事のあるアラン付きの従者が待っていた。
それはベルナールと呼ばれる ”第一王子の腰巾着” と揶揄されていた男だった。
「ベルナール、皆にお茶を準備してくれ」
「はい、畏まりました」
日に焼けなんだか少し精悍になったように見えるベルナール。
余裕のある笑みを浮かべるベルナールの姿に、もしかしてこの男も別人なのでは? とそう思えってしまう。
確かこの男もアラン王子と共に亡くなったはず……とアーサーはそう聞いていた。
腰巾着だけに病気まで貰ってしまったのだろうと、亡くなってまで笑われていたことも知っている。
だが今のベルナールは、まったく病気とは無縁なほど元気そうに見える。
それに体つきも……なんだか少し逞しくなったような気がする。
そしてアランと共に、ベルナールの悪い噂も聞いていた者達は驚きが隠せないようだった。
「アーサー、そして皆も、本当に良く頑張ったね。ここまでの旅は大変だったろう? 私は知らなかったとはいえ王子として何も出来なくて申し訳なかった……」
そう言って聖女要請支援の一団に頭を下げるアラン。
ラベリティ王国では立場が上である王族が頭を下げるなどあり得ない事。
やはり別人なのでは? そう思いながらも、自分たちの苦労をアランが理解してくれている嬉しさがアーサー達の心を占めていた。
「アラン様! 頭を上げて下さい! アラン様が生きていて下さればと、私達は旅の途中何度も何度も思ったのです! それが現実になった、我々はそれだけで嬉しいのですから……」
アーサーの言葉にアランが顔を上げれば、ラベリティ王国の面々は期待が篭ったような表情でアランを見ていた。
情け無い王子と呼ばれ蔑まれていた自分に期待してしまうほど、今ラベリティ王国は荒れているのかとアランは肩を落とす。
それと共にこれから自分が進む道の厳しさと重たさをアランは実感する。
王が道を誤れば国は迷うしかない。
その重責をアランは今、垣間見た気がした。
「あ、あの、それで、アラン様はどうしてこの国へ? まさか我々よりも先に聖女要請の為にリチュオル国へと送り込まれていたのですか?」
アーサーは半信半疑でそんな事を問うてみた。
アランがいなくなった時期とではどう考えても計算が合わないが、留学を兼ねたものだったのでは? と、自国の国王を ”信じたい” という淡い気持ちもあった。
だがアランは首を振る。
それだけで彼らは大体の事を理解した。
アランがラベリティ王国にいたころ、父である国王や義理の母である王妃から軽んじられていたことはこの場にいる皆が知っていることだったからだ。
「私は、父に……いや、国王陛下に追放されたのだ……」
そう答えたアランの言葉を、疑うものはこの場にはいなかった。
やはりそうだったのか……
アランが生きている事を知らなかったことで、アーサー達がラベリティ王国の王族が行った行為を想像するのは容易かったのだ。
「アラン様……良くご無事で……」
「ああ、そうだね……運命の出会い……アレが無ければ私は死んでいた……それは確かだとろう……」
「運命の出会い……ですか?」
「ああ……私は死を覚悟した森の中で、運命的な出会いをした。そう、一人の素晴らしい聖女と出会ったんだ……」
「聖女……様?」
「ああ、彼女がいなければ今この場に私はいない……彼女は私とベルナールを救う為、自分の命を顧みず恐ろしい魔獣に立ち向かってくれたんだ……」
確かにあの時、ニーナはアランとベルナールを助け出した。
だが実際は自分の命を顧みないどころか、金目の魔獣に目を輝かせ、恐ろしいと言われる魔獣相手に余裕を含んだ笑顔を浮かべ瞬殺していた。
ニーナの見た目は最高級の美少女と言える姿だが、あの笑顔で魔獣を倒す姿を見てニーナに恋心を抱くなどどう考えても無理がある設定だ。
だがそこは話を上手に盛るアランのおかげで、アーサー達にはか弱き聖女が見も知らぬ旅人の為命を掛け魔獣と戦っているように聞こえていた。
あの時ニーナが嬉しすぎて高笑いしていた事など、きっと純粋な彼らには想像出来ないだろう。
知らぬことは幸せな事。
ニーナの恐ろしさをアーサー達は今現在全く気付きもしていないようだった
「ベルナール、ニーナさ、ゴホンッ、ニーナをここへ……」
「ハッ」
今アランが 「ニーナ」 と呼んだ女性が件の聖女なのだろう。
ベルナールが指示を受け席を外す中アーサー達の期待が高まる。
一体どれ程の美しい聖女様なのだろう。
そしてどれ程美しい心の持ち主なのだろう。
そしてそしてどれ程美しい魔法を使うのだろう。
そんな期待が膨れ上がる中、戻って来たベルナールが連れてきた聖女は、アーサー達が想像する以上の存在であったのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
クッ……今日も甘いものを食べてしまった……誘惑に抗えない自分が憎い。
さてさてアランとベルナール、アーサー達と談話タイムです。それと共にニーナと会うまでのカウントダウンが始まりました。まあ、ニーナは本性を出さないと思いますが……次回どうなるか。色んな意味で頑張って貰いたいと思います。
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