第228話ディオンの真実

「流石お兄様ですわ、学園にたった数日通っただけでこれだけ沢山のご友人方と交流されるだなんて……本当にご立派です。誰でも出来る事ではございませんものね……」

「えー、そうなのー! お兄様凄ーい! カッコイイねー! 私も学校へ行ったらお兄様みたいに沢山のお友達作りたいなー。ウフフ、なんだか早く学園へ行きたくなっちゃった。その時は皆も私のお友達になってくれる? 一緒に遊ぼうね」


 ディオンの妹であるシェリーとニーナ。


 二人の可愛らしさと、ベンダー男爵家の仲の良い兄弟話を聞きながら、友人達は相変わらず姉妹に目を奪われたままだ。


 そんな中、シェリーに本気で恋してるウィルフレッドとクリスは目と目でバチバチと会話をし、お互いに牽制を掛けていた。


『(※ウィル) シェリーは私の妻にしてみせる!』

『(※クリ) シェリーには堅苦しい王妃の立場など似合いませんよ』

『(※ウィル) シェリーの美貌があれば歴代一位の人気を誇る王妃になるはずだ』

『(※クリ) シェリーは親戚である我がナンデス侯爵家に嫁ぎ、ベンダー家の家族と変わらず交流することが幸せなのです』

『(※ウィル) シェリーは渡さないぞ、クリス!』

『(※クリ) シェリーの事だけは殿下だとて譲りません!』


 と、貴族の子息らしい笑顔の下で、ウィルフレッドとクリスはそんな戦いを行っていた。


 そしてもう一人ディオンの妹に本気で恋してしまった可哀想な被害者が……いや、人物がいる。


 それは勿論ニーナを『理想だ』と言い切った、コロケーション侯爵家の息子ザカライ。


 何の因果か分からないが、ニーナのその見た目に騙されノックアウトされてしまったザカライ。


 勿論シェリーの事も可愛いとは思ったが、ニーナのそのディオンによく似た見た目が運の悪い事にザカライの理想そのものだった。


 その上ニーナには品があり、貴族令嬢としての所作も完璧だ。


 コロケーション侯爵家の者は貴婦人を妻にと望む。


 なのでザカライにとってニーナが理想の中の理想であることは当然だったともいえる。


 そしてそんな被害者ザカライの恋のお相手である? ニーナの方は……


 ディオンの友人だと思っているザカライに対し、普段以上に優しくキラキラ笑顔付きで接している。


 そんな事も有り可哀想なザカライは、尚更ニーナしか見えなくなっている状態だ。


 父親の『ナレッジ大公家の子供(娘のどちらか)を手中に……』という思惑をはずれ、自分自身がベンダー家の……いや、ナレッジ姉妹の虜となり、すっかりニーナに夢中になっていた。


 恋は盲目。


 被害者ザカライは、もう他の令嬢など好きになれない……そこまで来ている様だった。



「あ、あの、ニ、ニーナ嬢は……ど、どの様なご趣味をお持ちなのですか?」

「フフフッ、ザカライ様、お兄様のご友人ですもの、どうぞ気軽に ”ニーナ” とお呼び下さいまし、私の趣味でございますか? そうですわねー……色々とございますが、強いて言えば研究でございましょうか? ナレッジ大公領にはまだまだ未知の領域がございますから、そこを開拓して行く事が今の私の一番の楽しみ……と言えますわねー」

「そうですか……研究! それは素晴らしいご趣味ですね! ニ、ニ、ニ、ニ、ニーナ……」

「はい、有難うございます。この私の全人生を掛けて尽力を注ぎ込みたいと思っておりますわ」


 ザカライはニーナに 『ザカライ君なら特別にニーナ♡呼びして良いよ♡てへっ(※幻聴あり)』 と言われ、すっかり舞い上がっていた。


 なので8歳の少女であるニーナの趣味が研究だと聞いても、可笑しいなどとは微塵も感じていない。


 そしてニーナの中身を知るウィルフレッドとクリスが、ザカライに向けて同情するような視線を送っているが、ザカライはその事にも全く気が付いていなかった。


 ニーナからすると玄孫でも相手にしているようなそんな気持ちだったのだが、ザカライはニーナが自分に好意があるのでは? と ”ニーナ♡” 呼びと笑顔を振り撒かれたことでそんな可哀想な勘違いをしていた。


 今ニーナと会話をしているザカライの脳内では、ニーナとの結婚へ向けてのカウントダウンならぬ、シュミレーションが浮かぶ始末。


 今日の内にニーナの事を父親に話し、明日には婚約だー!


 と、ザカライはすっかりそんな気持ちでいた。


 ベンダー三兄姉妹に惑わされ過ぎておかしくなり始めたザカライの横で、無駄に美し過ぎる三兄姉妹をちゃんと『観賞用』だと理解している二人の少年が、8歳のニーナの言葉に疑問を持った。


「あ、あの〜、ニーナちゃん?」

「はい、デイゴン様、いかがなさいましたか?」


 ディオンの友人相手と言う事で今日のニーナはやっぱりハチャメチャキラキラしている。


 大切な兄の友人達!


 絶対に好印象を持って貰いたい。


 なので無意識ながら高価な魔獣を前にした時並みに輝く笑顔を浮かべているニーナ。


 そんなニーナを正面からみてしまい思わず「ヒィッ……」と息を呑むデイゴン。


 ニーナちゃんは可愛いはずなのに何だか恐ろしくも感じる。


 それに少しだけ自分が小さな生き物にでもなったような気がする。


 ニーナの笑顔を前にし、体中に広がる寒気をどうにか誤魔化しながら、デイゴンは勇気を出してニーナに疑問をぶつけた。


「はい、えーと、あの……今ニーナちゃんはナレッジ大公領って言った気がするけれど……ベンダー男爵家はナレッジ大公領の中にあるのかなぁ?」

「まあ、デイゴン様は博識ですのね。ええ、そうなのです。私の男爵領はナレッジ大公領の中にありますの。セラの森一帯を私の領地とさせて頂いて、最近では研究所も作りましたのよ。宜しければ今度是非遊びに来て下さいまし、ナレッジ大公である父も、そして母も、お兄様の友人である皆様に会えればきっと大喜びすると思いますわ。夏休みにでも是非お越しくださいまし」

「はい! 行きます!」


 ニーナの言葉に元気いっぱいに返事をしたのは、デイゴンではなくザカライだ。


 質問をしたデイゴンの頭には今「?」が浮かんでいる。


 そう、8歳のニーナがベンダー男爵領を 『私の領地』 だと言い切った。


 それに父親はベンダー男爵ではなく 『ナレッジ大公』だと紹介した。


 疑問だらけのデイゴンは、助けを求めるかのようにまだ惑わされていないだろうオシェイへと自然と視線を送る。


 するとベンダー三兄姉妹の魅力にどうにか耐えていたオシェイは、ニーナの話をきちんと理解出来たようで、デイゴンの視線を受けながら目と口を大きく大ーきく開けていた。


 そしてその様子を見てデイゴンもハッキリ理解した。


 そう、男爵家の息子だと思っていたディオンが大公家の息子だと。


 何故自己紹介で男爵家の子息だと名乗ったかは分からないが、やっぱりこの見た目は高貴な人だったのだ! と納得と同時に驚いていた。


 大公家の子息が自分たちを相手にするだなんて……


 それに何故ディオンが王子であるウィルフレッドや侯爵家の子息であるクリスと友人であったかも分かった気がした。


 そして今度は冷静さを取り戻したオシェイが口を開いた。


 確実に真相を知りたい……オシェイの顔にはそう書いてあるようだった。


「ニーナちゃん、あの、ディオン君は……ナレッジ大公家の息子……で合っているのだろうか?」


 ニーナはオシェイの質問にフサフサなまつ毛が乗るその瞳をパチパチとさせ、驚いてみせる。


 もしかしてお兄様ったら自己紹介をせずに友達を作ったのかしら?


 男の子の友情って本当に不思議ですわねー、とそんな頓珍漢な感想がニーナには浮かんでいた。


 そして兄の誤解を解くためにと張り切るニーナの顔には、誰もが魅了される程の輝かしい笑顔が浮かんでおり、意図しないところで少年達の顔を真っ赤にさせながらオシェイの質問にきっちりと答えた。


「ええ、私達三兄姉妹はオシェイ様の仰る通りナレッジ大公家の子供ですわ。皆様どうぞお見知りおきを……」


 驚きすぎて心臓が止まりそうになったオシェイとデイゴン。


 それはニーナの言葉を聞いてなのか、それともその笑顔を見たからかは分からないが……


 大変な友人が出来てしまった。


 ただそれだけは理解出来た二人なのだった。





☆☆☆





こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

危なかった……下書き四話ほどが明日(8/31)投稿になったままでした……恐ろしいことじゃ、恐ろしいことじゃ……本当に気が付いてよかったよー。(;'∀')


デイゴンがダイゴンに変換されてた。

大根……それでもベンダー男爵家の子は喜びそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る