ベンダー男爵とベンダ-大公
第142話司祭たちの再教育
ニーナは今、大聖女神殿に来ていた。
一緒に来たメンバーは、ベランジェ、チュルリ、チャオの研究組。
その中で残念ながら仕事のあるブラッドリーは泣く泣く、いや本当に泣きながら呪い課へと戻って行った。
そして勿論ニーナを愛してやまないファブリス。
それから元大聖女のシェリル。
国王でありニーナを母と慕うアレク。
そして王の元補佐官であり、今はニーナの補佐であり、瞬足が自慢のミュー。
それからミューの祖母であるキャロライン元王女は、司祭の教育の邪魔になってはいけないと、心細そうにしているミューの背中をパンパンと軽く叩き屋敷へと戻って行った。
その後姿をミューが名残惜しそうに見ていたのは、言うまでも無いだろう。
ニーナに元気を出して貰おうと、国の重要人物達も皆一緒に大聖女神殿へやって来たのだが、ニーナは未だに先程の図書室の事を引き摺っていてしょぼんとしている。
そんな中、これだけのメンバーを前に、大聖女神殿の司祭たちは震えながら勢ぞろいしていた。
その後ろには聖騎士達が神妙な面持ちで鞘だけを腰に差し、王であるアレクとは視線が合わないように俯いている。
ニーナに剣を向けた後、大聖女神殿にはアレクからのお叱りの厳しい文書が届いた。
聖女を蔑ろにし、自分たちの仕事を疎かにしていた司祭たち。
そして本当の正義を忘れ、聖騎士として神に仕える聖女たちを守るよりも、司祭たちを優先し、彼らの都合で動かされていた聖騎士たち。
ニーナに言われた通り、聖女の力を借りずに国の守りの為に祈りを捧げ、自分たちの力のみでこの国に結界を張り、如何に愚かなことをしでかしていたのか、そしてその過ちに気付くようにと強制労働をさせられた彼らは、聖女たちのその大変さを、経った数日で実感し、ヘトヘトになっていた。
如何にこれまで修行を疎かにしていたかがそれで分かるという物だ。
そして聖騎士たち。
彼等の剣は未だに天井に刺さったままだ。
そう、自慢の剣は残念ながら抜けないでいた。
どうにか天井から引き離そうと頑張ってみたが、ぶら下がって見ても、二、三人で引っ張って見ても天井から抜けることはなかった。
ニーナが魔法で固定してしまった事は聖騎士たちは気が付いていない。
ただし、司祭の指示で剣を向けてしまった相手が、可愛い姿であっても鬼のように恐ろしい人物であることは分かっていた。
あの剣が抜けない限り自分たちは許されることはない……騎士たちはそうも思っていた。
そして今現在の大聖女神殿では、王が中心の席に座るのではなく、あの小さな鬼のような少女が部屋の中央の席に着き、その横に王と大聖女のシェリルが付いている。
それもとても機嫌の悪そうな、その鬼の少女のご機嫌を、どうにかいい方向に持っていこうと、王とシェリルが気を使っているようにも見える。
だが少女は下を向き、先日見せたキンキンに冷え切った笑顔さえも今は浮かべておらず、表情がとても硬い。
もしや未だに怒っている?
いや、たった数日の祈りで、疲れ切っている自分たちを見て呆れているのかもしれない……
ベランジェ様たちも、少女と同じようにご機嫌斜め……というか、ガックリと肩を落としているように見える。
まさか……なんの成果も出せなかった自分たちを見て、あきれ果てているのだろうか?
あの鬼のように恐ろしい少女のご機嫌がなおらなければ、自分たちに待っている道は……きっと……
死……
司祭や聖騎士達はニーナの顔色を伺い、生きた心地がしないでいた。
「司祭たち……聖女の力を借りず国を守る祈りを捧げてみて、自分たちの行いの何がいけなかったのかは分かったのか?」
そんなアレクの問いかけに答えるため、あの日シェリルとベランジェを閉じ込めようとした司祭が震えながら前に出る。
司祭は今、国王陛下よりも部屋の中心にいるしょぼんとした少女がとにかく恐ろしく、気になって仕方がない。
答える言葉に気を付けなければ、ここにいる皆が処刑されることは確実だろう。
司祭は緊張から口の中が乾いているのを感じ、生きた心地も全くしなかったが、どうにか声を絞り出した。
「は、はひぃ、あにょ……聖女たちの素晴らしさが……この数日で……よ、良く分かりました……我々が如何に愚かだったのかも……その……十分に理解いたしました……」
「ふむ……そうか……その言葉に嘘偽りはないのだな?」
「も、勿論でございます! これからは国を守るため、聖女たちと力を合わせ祈りを捧げていく予定でございます! その気持ちに全く、これっぽっちも、ミジンコほども、嘘偽りはございません!」
うむうむと納得気に頷くアレクの横に座る少女は、司祭の気合いを入れた言葉にも、全く、これっぽちも、ミジンコほども動くことはなく、無反応だった。
信じてもらえていない……
司祭はニーナのまったく表情筋が動かない無表情を見て、焦り出す。
このままではここにいる全員が極刑確実だろう。
陛下が気を使う程の相手……
あの小さな少女はやはり悪魔……いや、神の使いである天使だったのだ。
それを怒らせた自分たち。
何か手を打たねばならい、だが何も浮かばない。
そんな焦りから、代表で出た司祭がちじこまり、冷や汗だらだらになる中、ニーナが何かを呟いた。
「……はどう……か?」
「えっ?」
聞き取れないほどの小さな声。
これは司祭として、神の声が聞こえるかどうかをもしかして試されているのか?
益々不安になり青くなる司祭を救う為なのか、陛下とシェリル様が少女に近づき、耳を捌立てた。
「……は……か?」
少女が呟いた言葉に陛下とシェリル様がうんうんと頷く。
もしかして……「この者達は死刑でどうか?」と少女は二人に問いかけたのだろうか?
代表の司祭だけでなく、この場に居る司祭たちと聖騎士達は、そんな恐ろしい言葉を想像をし、立っているのがやっとになっていた。
「ニーナ様が「セーラの様子はどうですか?」 と聞いておりますわ、セーラの体調はどうなのかしら?」
シェリルの言葉を聞き、司祭だけでなく聖騎士たちまで「ほー……」と息を吐く。
少女の言葉は死刑宣告では無かった。
それだけで少しだけ体に熱が戻った気がした。
「陛下、シェリル様、セーラ様は随分と体調が良くなりました。ニーナ様に頂いたポーションのお陰だと喜んでいらっしゃいました」
答えたのはセーラ付きの侍女の一人で、この前の騒ぎの時にニーナの指示を受けた侍女でもあった。
その声を聞くとニーナの表情に少しだけ笑顔が戻る。
セーラの様子を聞き、安心した、今のニーナはそんな様子だ。
するとニーナは何かを思いだしたのだろう。
席から立ち上がると、ふいっと軽く手を振るった。
すると勝手に部屋の扉が開き、聖騎士たちの剣が部屋へと飛んできた。
その剣は、まるで持ち主の首を狙っているかのように、騎士たちの目の前で宙に浮き、ピタリと止まっている。
ニーナはセーラの無事を確認したことで思考が動き出したのだろう、すっかり忘れていた騎士たちの固定した剣の事を思いだし、ただ返して上げようとしただけなのだが、聖騎士たちは自分の首を狙っているように見えるその剣が、何よりも恐ろしくたまらなかった。
動けば死ぬ。
騎士たちは微動だに出来ずにいた。
「これをお返ししますわ……くれぐれも今後は使い方を間違えないように……」
ニーナの言葉を聞き、聖騎士達は深く深く、海の底よりも深ーく頷いた。
もしまた自分に剣を向けたなら……
その時は首を落す!
ニーナにそう言われている気がした。
聖騎士として、剣の重さを再確認した彼等と、司祭として聖女を守り支える事の大切さを、ニーナの優しい指導で改めて実感した彼らだった。
☆☆☆
おはようございます。白猫なおです。新章始まりました。
ニーナ元気が無いです。それによる恐怖。笑っても恐ろしいが、笑わなくっても恐ろしいニーナでした。(=^・^=)
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