第136話カルロさんの子守り②
「カルロおじさん、俺、あの肉食べたい!」
「おお、ディオンは鼻が利くなー、あそこの焼鳥は絶品だぜ、俺も推すほどだ」
「カルロおじ様ー、シェリーはプリンが食べたい。王都にもあるの?」
「いーや、シェリー、プリンはニーナ様だけの特別なオヤツだ。王都には凄い甘〜いオヤツしかないなー」
「ええー?! おっきい街なのにないのー?」
「ああ、だからプリンの事は秘密だ。いずれニーナ様がこの街に広げる予定だからな」
「分かった秘密だね! アイアイサー」
カルロは今、ちびっ子四人(ディオン、シェリー、ウィルフレッド、アンジェリカ)を連れて街へ出ていた。
四人は平民服に着替えさせ、どうにか庶民に……うーん……ギリギリ庶民に見えなくもない状態だ。
ディオンにはアンジェリカと手を繋がせ、シェリーにはウィルフレッドと手を繋がせている。
フットワークの軽すぎるディオンとシェリーがどこかへ行かないようにする為でもあるが、ウィルフレッドとアンジェリカがなれていない初めての街で、挙動不審にならないようにするためでもあった。
だがウィルフレッドとアンジェリカは、無駄に可愛いベンダー男爵兄姉にすっかりメロメロ状態の為、手を繋いだ事で街を楽しむどころではないようだった。
ウィルフレッドとアンジェリカは街の様子を見ることなどせず、シェリーとディオンの顔ばかりを見つめている。
可哀想に……ここにも被害者が……
カルロはベンダー男爵家三兄妹の手によって、知らず知らずのうちに出来ている沢山の被害者たちに同情していた。(心の中では笑ってもいた)
そう今もただ街を歩いているだけだというのに、多くの者がシェリーとディオンに目を奪われている。
カルロは目に見える範囲にあからさまに厳つい護衛を二人つけ、目に見えない所に10人の護衛を付けているが、それでも可愛い二人をどうにかしようと厭らしい目で見てくる者もいる。
そう言う愚かな輩にはカルロが睨みを効かせ威圧を掛けて居た。
カルロも伊達に闇ギルド長を名乗ってはいない。
それもセラニーナとの付き合いがあったのだ、危険な経験も山ほどつんでいる。
城の騎士に護衛されるよりも、よっぽどカルロ一人の方が子供たちを守ることが出来るだろう。
ただしシェリーとディオンの実力を知るカルロには、二人に護衛が必要だとは思えなかったが……
「ああっ! お兄様! 見て見て! ほらあそこー、ドラゴンさんのバッチがあるよー!」
シェリーが指さしたのは宝石店に並んだ美しいブローチだった。
確かにドラゴンを模った絵柄が、丸いブローチの中に描かれている。
ブローチの周りには宝石もたっぷりついていてかなり高価なものだろう。
シェリーは女の子として宝石に目が行った……というよりはドラゴンが好きで目に入った、というべきだろう。
将来シェリーが年頃になった時、ドラゴンの商品を店頭に置けば、シェリーの気を引きたさに貢ごうと多くの貴族の子息が購入してくれそうだ。
カルロはシェリーが学園に入学するときには、それを見越して闇ギルドで商品を販売して儲けようかと、一人大儲けできそうだなと思いほくそ笑んでいた。
「あー、本当だ、ドラゴンさんのバッチ色違いで五種類あるね。赤に青に黄色に緑にピンク、シェリーはどれが良いの?」
「私は、黄色! ペンとお揃いの黄色が良い!」
シェリーが指さした物は黄水晶で出来ていてかなりお高いものだ。
値段表を見てカルロの顔が引きつる。
子供が欲しいと言ってホイッと簡単に買えるような物ではない。
まあ、闇ギルド長のカルロならすぐに買えはするが、ここで甘やかして買い与えて良いのか? とニーナの表情を思い浮かべゾクリとする。
ここは大人としてたしなべるべきだろう……と、そう思った。
「おい、シェリー……」
「じゃあ、せっかくだから皆でお揃いで購入しようか」
「「「えっ?」」」
カルロ、ウィルフッド、アンジェリカの声が揃う。
カルロは勿論ブローチの価値は分かっているし、値段も見えている。
ウィルフッドとアンジェリカも王子と王女だけあって宝石の事には多少は詳しい。
それにやはり二人にも値段がハッキリと見えている。
皆でお揃いと言えば一体幾らになるか……想像がつかない、いや、計算出来てしまう。
そんなものを本当に買うの?
すっごい金額になるよ?!
三人が驚いている間に、シェリーとディオンは皆をひっぱり店内へと入っていた。
「すみません、店頭に飾ってあるドラゴンさんのバッチを下さい」
「はい、いらっしゃいまっひゅぃ!」
ディオンの半端ない笑顔の輝きに、宝石店の店員が思わず息をのむ。
どんな宝石よりも美しい少年の登場に、店内中の視線が一瞬でディオンに集まった。
もう宝石よりもこの子を買いたい!
ディオンを見てしまった客達は、そんな危険な思考を持ち始めていた。
「ど、ど、ど、ドラゴンのブローチのことですね……ど、ど、どちらにいたしましょうか?」
「全部下さい」
「えっ?」
疑問符で返されたディオンは、きっと自分の言い方が悪くって店員に言葉が通じなかったのだろうと、言い直すことにした。
「えーと……全色下さい。青いのだけは包んでもらって、後は皆で付けて帰りますので、そのままで大丈夫です」
「えっ? ぜ、全色……?」
「はい、全色です。青いのだけは包んで下さい、可愛い妹へのプレゼントにします」
「はひゃ、か、か、畏まりました……しょ、少々お待ちくださいませーーー……」
絶対にやんごとなきお方だ……
どこぞの国の王子様に間違いない。
ディオンはここでも王子様スキルを発揮して、店員を困らせていた。
それも本物の王子であるウィルフッドの前でだ。
だがそんな事はウィルフッドとアンジェリカが気にする筈もない。
そう、ウィルフッドとアンジェリカもディオンとシェリーの事を、天使国の王子と王女だと勘違いしたままだったからだ。
こればかりは仕方がないだろう。
ベンダー男爵家の兄妹は無駄に顔が良いのだから……
「店員のおじ様、ドラゴンさんのバッチをもう付けても良いですか?」
美少女のシェリーそう問いかけられた店員は、まだ支払いも終わっていないのにソッコーで頷く。
シェリーは何もしなくっても美少女なのに、ドラゴンさんのバッチを目の前にしたことで、普段以上の目の輝きを見せていた。
キラキラと輝くひまわり色の瞳。
こんな綺麗な瞳で見つめられ、落ちない人間はいない。
もうそのまま持って帰っても良いですよ。
シェリーの魅力にハマった店員は、危なくそう言ってしまう所だった。
ベンダー男爵家兄妹は欲しいものの前では半端ない輝きを発する様だ……
その姿にカルロは一抹の不安を覚えていた。
「おい、ディオン、お前、金はあるのか? このブローチはかなり高価なものなんだぞ……」
「うん、カルロおじさん、俺、お金いっぱいあるんだー」
「えっ? いっぱい?」
「うん、大きな魔獣を売ったお金は家の物だけど、小さな魔獣を売ったお金は自分の物にしていいってニーナに言われてるんだー。だからこの前師匠とたくさん魔獣を売ったし、今日もカルロおじさんの所で魔獣を売ったから沢山お金があるんだよねー。これでやっと魔法袋が軽くなるかな? お金が邪魔で魔獣入れられなくなったら困るからねー」
カルロはディオンの言葉を聞きこの後なんと答えたかは覚えていないが、ニーナの教育が可笑しい事には気が付いていた……
いや、魔獣を一緒に販売したのはアルホンヌだから、アルホンヌの教育というべきだろうか……
とにかく一度この兄妹に金の価値を覚えさせなければならない。
カルロは闇ギルド長として、そう決意していた。
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