第128話呪い会議③

「ふむ……そうだった……クロウの祖母は、キャロライン叔母上だったな……」

「は、はい……そうでございます……ですが、王女が降嫁する際は王族の登録は全て抹消されるはずです。ですので私は王族専用の図書室には絶対に入れないと……」

「いや、キャロライン叔母上が生きていらっしゃるのなら、私がその登録を戻すことは可能だ。一日限りの再登録をしよう。ミュー、キャロライン叔母上を明日にでも城へ連れて来てもらえるか?」

「いえ、その、そんな、あの……祖母はその高齢ですし……私には王族専用の図書室など分不相応で……」

「高齢だが叔母上はアクティブで今でもとっても元気だったはずだが? それに趣味も昔から変わらず乗馬だとクロウ前侯爵が嬉しそうに夜会で話していたなー。それに私が幼い頃キャロライン叔母上は元気過ぎて、嫁の貰い手が中々見つからなかったのだと父上がぼやいていたのを思いだすよ。年を召してもそれは変わらぬようだ。クロウ、そなたにはしっかり王家の血が入っている、堂々と図書室に入室して良いぞ、ハハハハ」


 今図書室入室が確実となり、真っ青な顔になっているバーソロミュー・クロウの祖母キャロラインは、前王の三番目の妹だった。


 キャロラインは幼いころからお転婆で有名な王女だった。


 馬術が得意で、城から勝手に抜け出しては両親を心配させ、剣を振り回しては騎士たちを困らせる……


 年頃になってもそんな様子は変わることなく、【暴れん坊王女】とあだ名がついたためか、婚約者が中々見つからず行き遅れになりそうな時に、ミューの祖父であるバルキュール・クロウが盗賊に襲われている所を、遠乗りに出かけていたキャロライン王女が見つけ助け出した。


 そしてキャロラインのその勇ましい姿に惚れちまったバルキュールが、結婚したいと猛アタックを開始した。


 最初は自分よりも弱いバルキュールの事を、歯牙にもかけていなかったキャロライン王女だったが、余りにもしつこく、そして頓珍漢なアプローチを繰り返すバルキュールに少しずつ心を開き、いつしか気に入り傍に置き、そして恋仲になった。


 キャロラインの結婚の決め手は「あの者は生きて息をしているだけで私を笑わせてくれる」だったらしい。


 このロマンスは国中で有名で【暴れん坊王女の恋物語】という小説まで出版されたほどだった。


 そう、バーソロミューは残念な感じに育っているが、クロウ家は意外と有名な一家なのだ。


 キャロライン王女の血を色濃く受け継いだ子供は残念ながら生まれず、出来た息子はバルキュールそっくりだったらしい。


 特に粘着質な性格は息子のバルテレミーにはよーく引き継がれている。


 ミューの上の兄であるバルテールナーも、残念ながら同じ気質だ。


 そしてもう一人の兄のバートロジーだけは、キャロライン王女の血が少しだけ流れたのだろう。


 どうにか騎士になり今はそれなりの職に就いているらしい。


 ただし……


 アルホンヌとクラリッサが覚えていない程度の実力の騎士である。



「フフフ……探し物には人出が多い方が良いですもの……ミュー、宜しくお願い致しますわね」


 ニーナに笑顔でお願いをされてしまっては、ミューはもう頷くしかない。


 行きたくないが生きたいのなら行くしかない。


 ミューはそう覚悟を決めた。


 だが、室内にいる周りの者の視線がめっちゃ怖い。


 先ず、ベランジェや、チュルリ、チャオは、入りたかった王族専用の図書室に、ぽっと出の、それもグレイスを虐めたミューだけが、ニーナと一緒に入れることが羨ましくって妬ましくって仕方がない。


 そしてシェリル。


 シェリルはミューの父親である現クロウ侯爵のバルテレミー・クロウに若い頃から散々アプローチされていたため、キャロライン王女の恋バナを聞いて、しつこいのは血筋だなーと、こめかみに怒りのおしるしが出ていた。


 なのであのしつこさを思いだし、ついついミューの事も冷たい視線で見てしまう。


 そして殺しそうなほどにミューを睨んでいるのは、ニーナラブのファブリスだ。

 

 自分こそがニーナの補佐だと自負しているファブリス。


 新参者でありながら、ニーナに「ミュー」だなんて愛称で呼ばれているミューが気に入らない。


 とっちめてやりたい! そう思っていた。


 そうファブリスは、ミューに対してライバル心を持っていた。


 ニーナ様の補佐一位の座は譲らない。


 そう思っていたのに、また此処でもミューは抜け駆けするようだ。


 許せない!


 バーソロミュー本人の希望では無いのだが、ニーナへの信仰心が厚いファブリスは、ミューがまさかニーナと一緒に王族専用の図書室に入りたくないと思っているなどと気付くことも無く、ただただ憎しみが募っているのだった。


 そしてもう一人、呪い課長のブラッドリー。


 呪い課のアイドル、天使ニーナ様と一緒に探検が出来ると思っていたのに……


 それをミューに横取りされた……


 羨ましくって、憎らしくって仕方がない。


 ついついミューを見る目がきつくなるのは、ファンの心理としては仕方がない事だった。




「クロウよ、キャロライン叔母上はいつ来れるだろうか? 領地ではなく王都にいるのだろう?」

「へっ? は、はい……えーと……王都の屋敷に(残念ながら)おりますが……」

「そうか、では今夜にも実家に戻り、話をして欲しい。ああ、それから私の補佐ではなく、ニーナ様付きになった理由もしっかりと話すように……」

「えっ? で、ですが、その……ニーナ様の秘密は……」

「クロウ……まさかこの国の侯爵家であるクロウ家が、ニーナ様の秘密をどこかへ漏らすとお前は言うのか?」

「ひっ、ひえ、あの……絶対に漏らしません! クロウ家がお漏らしなどあり得ません!」

「フフフ……そうだろう? お前は王の元補佐官であるクロウなのだ、秘密を漏らすことがどういう意味を持つかは良ーくわかっているだろう。家族にもしっかりとその旨を話すように……」

「は、はひぃー」


 ミューは漏らしません! と言いながらも、アレクの圧を感じ違うものが下の方から漏れそうだった。


 実質上王の補佐官をクビになり、この国の秘密を知ってしまった為、ニーナの補佐という形でニーナの仲間たちに見張られている状態のバーソロミュー・クロウ。


 果たしてこの話をどう家族にしたものか……


 下手をして大騒ぎになったら、クロウ侯爵家がお取り潰しになる可能性もある。


 まあミューの勘違いでこの国に危機を与えたので、本来ならば家族全員極刑でも可笑しくはない。


 心優しいグレイスに助けて貰わなければ確実にそうなっていただろう。


 ミューは家族に自分の大失態を話し、そしてクロウ家自体も今後監視下に置かれるであろうことを自分で話さなければならなくなった。


 その上この場に居るニーナファンクラブ一同には完璧に嫌われ、睨まれたままだ。


 胃に穴が開きそう……


 ミューは本気でそう感じていた。



「フフフ……それではキャロライン様がいらっしゃるまではお時間があるのね? でしたら私はアルホンヌとクラリッサの様子でも見て来ようかしら?」

「まあ、ニーナ様、私も参りますわ。少し騎士の方に手合わせもお願いしたいですもの……」

「では、私も、補佐としてニーナ様に良いところをお見せ致します」

「えー、私も行くよー、グレイスがあっちに行っているはずだもんねー」

「はいはいはーい、僕も行きまーす。アルホンヌ様とクラリッサ様がどれぐらい強くなったか見たいでーす」

「俺も行きます。へへへ、疲れてる騎士様方に、美味しいお茶でも出して上げたいからなー」

「では、皆で参りましょう。フフフ……楽しみですわねー」


 こうしてミューがキャロラインの許可を取りに行く間、ニーナたちは騎士たちを虐めに……ゴホンッ、応援に行く事になった。


 果たして死ごき部の教官ニーナを前に、城の騎士達がどれ程耐えられるか……


 騎士たちのご冥福をお祈りしたいと思う。



☆☆☆



おはようございます。白猫なおです。(=^・^=)

明日は死ごき部の話に移ります。ちびっ子四人のお話はその後でした。m(__)m

そしてミュー殿は遂にご実家に戻ります。ちびっ子の後でお婆様登場します。あっちこっち行きますが宜しくお願い致します。(笑)

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