呪い調査隊

第124話ウィルフレッドとアンジェリカ

 リチュオル王国の王であるアレクサンドル・リチュオルには、二人の孫がいる。


 それは息子であり王太子である、レイモンド・リチュオルの子供たちだ。


 十歳になったウィルフレッド・リチュオル王子と、八歳になったアンジェリカ・リチュオル王女。


 二人共アレクが目に入れても痛くないほどの可愛い孫だ。


 ニーナからの襲撃事件……いや、ご訪問があった日の夜。


 アレクはそんな孫二人を自室へ呼びだした。


「ウィル、アン、お前達に私の大切な友人の兄と姉をもてなして欲しい。そして私の大切な友人の兄と姉だから是非仲良くなって欲しい、それと私の大切な友人の兄と姉だから絶対に大切にして欲しい。どうだろう、お願いできるかな?」


 と、ウィルフッドとアンジェリカは祖父であるアレクに、とにかく”私の大切な友人の兄と姉”だと連呼され、頭まで下げられてお願いされた。


 どうして自分達が? と意味が分からず、祖父の横に座る父に視線を送れば、青い顔で「とにかく失礼がないように……仲良くな」とそんな注意を受けた。


 ウィルフレッドとアンジェリカは素直に頷き「畏まりました」と返事はしたが、祖父と父の様子のあまりの不自然さに、有る事を疑っていた。


 そう、これは自分たちのお見合いでは無いか? と……




 ウィルフレッドとアンジェリカにはまだ婚約者がいない。


 王族ならば生まれてすぐに婚約者を決められても可笑しくは無いが、祖父も父もなるべく本人たちの意思を尊重したいと、学園卒業まで猶予を持ってくれている。


 その為二人が夜会や茶会に出れば、婚約者になりたいと、ウィルフレッドとアンジェリカに狙いを定めた、多くの貴族の子供たちに囲まれるのだが、二人共未だにその中から相手を決められないでいた。


 そう、皆ウィルフレッドとアンジェリカに、あからさまなおべんちゃらを使ってくるのだ。


 何を言っても「素晴らしい!」


 何をしても「流石です!」


 何かを褒めようものなら「その通り!」


 と皆がイエスマンになる。


 そんな人形のような相手の中から好きな人を見つけ、結婚をしろなど無理がある。


 だからこれは祖父と父が用意したお見合いでは無いか? と二人は疑ったのだ。


「お兄様、お相手はどなただと思います?」

「うーん……お爺様と父上のあの様子だと……他国の王子か姫かもしれないなー」

「私もそう思いますわ。だって、この国の貴族の子供たちには、全員と言って良いほどお会いしてますものね……」

「でも、どこの国の子供だろうか?」

「そうですわねー。ラベリティ王国は王子様だけですし……確か既に婚約者様もいらっしゃるはずですものね。うーん……友好国のスループット王国の子供は私達とは歳が違いますでしょう?」

「ああ、スループット王国は生まれたばかりの姫しかいないはずだ……そうなると……もっと遠い国の王子と姫かもしれないなー……」

「そうなのですね……ハアー、憂鬱ですわー」

「アン、そう言うな、お爺様の願いだ、二人で上手く乗り切ろう……」

「ええ、そうですわね……」




 そして次の日がやって来た。


 ウィルフレッドとアンジェリカは、朝から使用人やメイドに夜会以上に磨かれ、やっぱりお見合いか……とガックリ肩を落とす。


 今日はつまらない一日になりそうだと、そんな事を考えながら身を任せた。


 そして準備が整うと、城でも自慢の応接室へと向かう。


 だが部屋に相手はまだ来ておらず、ウィルフレッドとアンジェリカが待機して相手を待つことになった。


 この国の王子と姫が待たされる。


 それだけで相手がとても凄い国の人間で有る事が分かる。


 もし凄く性格が悪い嫌な奴だったらどうしよう。


 結婚したくなくても、婚約しなければならなくなるかもしれない。


 それに祖父には何度も大切な相手だと言われた。


 これまでちやほやされて、敬われていた自分達が、上手く立ち回れるのかウィルフッドもアンジェリカも余り自信が無い。


 室内にいる護衛や使用人たちに視線を送れば、皆酷く緊張している様だった。


 きっと祖父に何か言われたのだろう。


 幼い二人は、自分たちの肩にこの国の未来が掛かっているのかもしれない。


 王子と姫としてしっかりしなければ!


 と、そう気合を入れた。



 そしてそんな緊張マックスのウィルフレッドとアンジェリカの下に、美しい天使二人がやって来た。


「ウィルフレッド様とアンジェリカ様ですか? 初めましてー、ディオン・ベンダーです。宜しくね」


 ディオンと名乗った少年のこの世のものとは思えないその神秘的な美しさに、ウィルフレッドとアンジェリカは息をのむ。


 部屋の使用人たちも顔を一瞬で真っ赤にし、同じ様に「ふぇえぇぇぇ~」と変な声を漏らす。


 ディオン天使は珍しい亜麻色の髪に美しいオーキッド色の瞳を持っている。


 そう、そこからして珍しい色合いだ。


 ディオン天使付きになった城の使用人達は、既に虜になっているのだろう。


 目がとろーんとして口も半分開いたままで可笑しな顔になっている。


 ウィルフレッドとアンジェリカも、自分たちと同じ人間とは到底思えないディオンの立ち姿に言葉が出ない。


 周りまで輝いて見える。


 二人が挨拶を返すことも出来ず、ただただディオン天使に見とれていると、今度はもう一人の天使が自己紹介をした。


「初めまして、シェリー・ベンダーです。この子は私のお友達のアルノ。仲良くしてくださいね」

「はうっわっ」

「かわっ」


 ウィルフレッドとアンジェリカは、シェリー天使の衝撃的なほど可愛い笑顔を受けて、思わず変な声が漏れる。


 部屋の使用人の中には、天使の笑顔を直視してしまったのだろう、可愛そうに倒れかかっている者もいた。


 シェリーもまた、この国では珍しい珊瑚色の髪に、ひまわり色の明るい瞳をしている。


 この兄妹を見て天使だと思わない人間はどこにもいない事だろう。


 輝きが尋常ではない。


 ウィルフレッドとアンジェリカもまた、一瞬でこの天使二人の虜になった。


 そう、今ウィルフレッドとアンジェリカは自然と鼓動が早くなり、上手く息が出来ない状態だ。


 だが、この国の王子と王女としてどうにか声を絞り出し、挨拶をした。



「は、初めまちって、ウィ~、ウィルフレッド・リチュオルでっしゅ……よ、よろしくお願いしっみゃす」

「は、はじ、はじ、初めまちて~……アン、アン、アンジェリカ・リチュオルでしゅ……よ、よろぴこお願いしましゅ……」


 ウィルフレッドとアンジェリカは、これまでのまだ短い人生の中で、自己紹介をするだけでこれ程緊張したことはなかった。


 そう、とにかく二人の天使の笑顔が眩し過ぎて辛かった。


 でも、ずっと見ていたいと欲が湧く。


 挨拶を受けた二人の天使はウィルフレッドとアンジェリカに近付いて来ると、すっと手を差し出してきた。




「えーと、ウィルとアンって呼んでもいいかな? 宜しくねー」

「ウィル、アン、今日は沢山遊ぼうねー、フフフーン楽しみー」


 そんな嬉しいことを、ディオン天使とシェリー天使に言われ握手まで交わしたウィルフレッドとアンジェリカは、もう一生手を洗いたくないとそう思っていた。


 とにかく無駄に可愛いベンダー男爵家兄妹は、城中の人間を虜にしつつあるようだった。


 彼らの魅力に振り回される被害者がこれ以上増えないことを祈りたいものだ……


 この国の王子と王女であるウィルフレッドとアンジェリカの刺激的な天使二人の接待は、今始まったばかりなのだった。




☆☆☆



おはようございます。白猫なおです。新章始まりました。最初のお話は子供たちです。可愛いです。オッサンの話はもうお腹いっぱいです。

ディオンとシェリーは城の使用人たちに磨かれたため普段の100倍の可愛さです。キラキラ輝いているのはお風呂で磨かれたからかも? ずっと直視するウィルとアンの体調が心配ですが王族パワーできっと頑張ってくれるでしょう。(=^・^=)

この章ではクロウ侯爵家一家が出てきます。登場人物も賑やかになってきました。クロウ侯爵家は名前を間違えそうで怖い……気をつけます。m(__)m

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