第117話グレイスの救出!
リチュオル国の王である、アレクサンドル・リチュオルの執務室を出たニーナたち一行は、王専属の補佐官であり自称名探偵のバーソロミュー・クロウの後に続き、王城内にあるグレイスが収監されている牢獄へと向かっていた。
先頭を進むのは、勿論大問題を起こしたバーソロミュー・クロウ。
ここ迄の恐怖で既に見た目がヨレヨレだが、自分の命と、そして国の危機が迫っているため、最後の力を振り絞るかのように早足で歩いている。
その後に続くのは宙を浮く美少女、ニーナ・ベンダー6歳。
大人の体とはどうしても歩幅が違う為、宙に浮きついて行った方が楽だ。
決して城中の注目を集めたくってとっている行動では無いのだが、自然とニーナは注目の的になっていた。
そしてその後ろに続くのがベランジェ、カルロ、シェリル、アルホンヌ、クラリッサ。
ベランジェ以外は体力がある為問題無いが、ベランジェだけはカルロに手を引かれ、ハアハアと苦しそうな息遣いになり始めていた。
まあ階段を上るよりは降りる方が楽なので何とかなるだろう。
ただベランジェが明日筋肉痛で有る事は確実だ。
大切な妻……ではなく、補佐官のグレイスを取り戻すため頑張っているベランジェ。
愛の力は人を強くする。
ベランジェは今まさにそれを体現していた。
そしてそんな鬼気迫る四人の後ろにはアレクが付いていた。
一体何事かと、城で働いているもの達がニーナたち一行を見ては驚き振り返る中、アレクは手を上げたり、視線で合図をしたりと、(なんでもない、何でも無いよー、これ以上刺激しないでねー)と皆に合図を送っていた。
ニーナが本気で怒っている今、これ以上の問題が起きることは、この国を守る王としては許しがたい事態だった。
とにかく笑顔を浮かべ、これは予定通りの行動です! といったそぶりを見せている。
とにかくこれ以上の被害がないようにしなければ、自分の執務室が壊れた事など、国が崩壊することを考えれば、取るに足らない事だった。
そしてそんなアレクの後を、何も分からない近衛騎士達がぞろぞろと付いてくる。
アルホンヌとクラリッサがいれば、王を守るのには何の問題も無いのだが、近衛として王に付き添い自分たちの力で守らなければならない。
それに部屋での物音や、補佐官の顔色、そして王の似非スマイルを見れば、今のこの事態がただ事ではないことは分かっていた。
なのでぞろぞろぞろぞろと、大人数で廊下を歩いていたため、城内で注目を嫌という程集め、目立って仕方がないニーナ一行なのだった。
そしてトイレットペーパーのように長い王城の廊下を歩き、どこまでも続く階段を降りていく。
そしてやっと地下に入り、一番奥深く目掛けて進んでいく。
そう、呪い課も地下奥底にあるが、最強の牢獄もまた、城の地下奥底にあった。
ただしこちらは呪い課がある地下のように、綺麗にはなっていない。
塔が違うという事もある。
そう呪い課は王が推奨する花形課、王の部屋がある中心部の塔の真下にあるが、牢獄は違う。
兵士達が生活する騎士塔の奥深くにある。
だからこそベランジェが、長すぎる廊下や階段を歩きすぎて、ここまで来るだけでヘトヘトになっているのだが、それに比べ宙を浮くニーナには子供であってもそんな疲れなど全く見られない。
とにかくグレイスが無事でいることを祈りながら、ニーナは長い道のりを進んでいた。
そんな中、一番動揺しているのは補佐官だ。
グレイスの牢屋に付けた兵士たちには、グレイスが泣きわめいたり、騒いだり、何かしようものならば、拷問しても良いと指示を出してしまっていた。
もし本当にそんな事になっていたら……
補佐官はその場で磔にされるか、焼き殺される可能性もある。
拷問を働いた兵士たちだって、同じ目に合うかもしれない。
そんなあり得る現実を想像しぶるぶると身震いをしながら、(グレイスきゅん無事でいてーーー!)と、ニーナたちよりもよっぽど熱い思いで、補佐官はグレイスの無事を祈っていた。
とにかく何事もなく無事でいて欲しい、兵士たちもなにもしてくれるなよー!
と、自分が指示したことも棚に上げ、グレイスの心配なのか……それとも自分の命の心配なのか……
とにかく大きな不安を抱える補佐官だった。
そして遂に運命の瞬間が訪れた。
グレイスがいる牢獄の前に間もなく着く!
と、皆が、いや補佐官が滅茶苦茶緊張する中、じめじめした牢獄とはあり得ない程明るい光が、グレイスの居る牢屋からさしてきた。
そう何故か牢屋の扉が全開で空いていて、グレイスの部屋からはいい香りが漂ってくる。
その上、兵士たちなのか、それともグレイスなのか、楽しそうな笑い声も聞こえてくる。
一体何がどうしてそうなっているのか補佐官にはまったく分からなかったが、とにかく命拾いだけはしたはずだと、涙目になりながら牢屋へと着いた。
「補佐官様! えっ?! へ、陛下まで!!」
部屋に入り切れず廊下に出ていた兵士達が、先頭を進む補佐官に気が付いた。
それにこの国の有名人達がぞろぞろとやって来た。
そしてその中で異色を放っているのは、やっぱり幼い美少女のニーナだ。
何と言っても宙に浮きながら可愛らしい笑顔を浮かべ、この恐ろしい牢屋を前に平気な顔をしている。
少女の落ち着き払った姿を見て、兵士たちは何とも言えない気持ちになっていた。
「グレイスは? グレイスはどこだ?」
最初に声を上げたのは、やはりクラリッサだった。
兵士達が見えた瞬間、クラリッサは補佐官を肘鉄で押しのけ先頭に出た。
そして炎の騎士の登場に頭を下げる兵士たちには見向きもせず、牢屋に飛び込んで行った。
その速さは風よりも早かった。
「グレイス!!」
「ふぇえ? ク、クラリッサ様ーー?」
クラリッサ様はグレイスに力一杯抱き着いた。
グレイスがファブリスの指導を受けていなければ、背骨の骨がボロボロになっていただろうという程、力を込めて抱き着いた。
もう二度と目を離すものか!
こんなにも可愛い子を逃がしはしない!
クラリッサはグレイスが無事だったことにホッとし涙を流した。
そして抱き着かれたグレイスと言えば、もう恥ずかしくって仕方がなかった。
憧れのクラリッサ様が自分に抱き着き泣いている。
驚きすぎて全身真っ赤だ。
ドキドキが止まらない。
滅茶苦茶動揺している。
だけどそこは流石グレイス。
クラリッサの頭をなでなでし、落ち着かせることは無意識で行っていた。
グレイスは無事だった。
この事にニーナ一行はホッとし
そして王であるアレクもホッとし
そしてそして補佐官であるバーソロミュー・クロウが一番ホッとしていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます