第63話アラン頑張る!
闇ギルド長のカルロに連れられてやって来たのは、王都一人気の肉屋だった。
その肉屋からは店先で肉を焼いているジュウジュウと良い音が聞こえ、そして食欲をくすぐる香りが漂ってくる。
それにコロッケや、カツなどの揚げ物の香りもほんわか漂い人を引き寄せている。
そんな人気店だと頷ける肉屋の店員は一人二人ではない、見える限りで五人はいる。
きっと店内にはもっと沢山の店員がいる事だろう。
それだけで繁盛店だという事が分かる。
「よう、オーナーはいるかい?」
「これは、カルロ様、いらっしゃいませ。はい、オーナーは奥におりますよ、今ご案内いたしますねー」
一人の店員がニコニコ顔でカルロとベンダー男爵家御一行を店の中へと案内する。
シェリーはアレだけ屋台で肉を食べたのに、良い香りに誘われきょろきょろとしているが、涎を垂らさないだけ淑女として成長していると大目に見よう。
きっとこの様子では帰りは肉やコロッケを買う事になるだろう。
お財布の紐がゆるゆるのファブリスも、そして姉可愛さに甘々なニーナも、それを止める気はなかった。
肉屋の事務所内にある応接室へと皆通された。
先程の従業員がお茶を出し、「少々お待ち下さい」と言ってそのまま店主を呼びに行った。
ニーナ達はゆっくりとお茶飲む。
露店市で買い食いをしていた為、喉が渇いていた。
けれどシェリーはそんな事より応接室まで届く香りに夢中の様だった。
「あー、私、将来お肉屋さんになろうかなー」
「まあ、お姉様、素晴らしい夢ですわね。フフフ……ドラゴンのお肉はとーっても美味しいのですのよ」
「本当ー! じゃあドラゴンさんのお肉屋さん作るー。ウフフ、そしたら毎日食べ放題だねー」
「シェリー、お肉屋さんは売る側だぞ、自分が食べたいなら肉屋にする必要ないだろう。それにこの前はプリン屋になるって言ってたじゃんか」
「あ、そうか! お兄様の言う通りだねー。じゃあご飯食べる屋さんになろうかなー」
三兄妹のほんわかした話に皆顔が緩む。
けれどシェリーの言う ”ご飯食べる屋さん” は毒見係のことでは? とカルロだけはちょっと思っていた。
そしてそんな話をしていると、店のオーナーがニコニコしながら部屋へ入って来た。
カルロと気軽な挨拶をし、その友人一行に見えるニーナ達にも挨拶をした。
そして今日は急にどうしたのかとカルロに話しかけた。
「この青年が魔獣を売りたいと言っていてね。良かったらお前の店で買い取って貰えないかと思ったんだよ」
「ええ、ええ、カルロさんのお知り合いでしたらこちらも勉強させて貰いましょう。それでその肉とは? どこにあるのですか?」
アランは緊張からか一つ咳払いをし、魔法袋と簡易魔法袋を取り出した。
この中にはベンダー男爵領の森で仕留めた魔獣がたっぷりと入っている。
アランは取り敢えず簡易魔法袋の中身をオーナーに見てもらう事にした。
「こ、コレは!」
オーナーは中身を見る……前に魔法袋に先ずは驚いていた。
カルロも言っていたが、普通の生地で魔法袋など普通は作れない。
アランの姿はお忍び王子。
つまり王子様の世にも珍しい持ち物。
受け取った肉屋のオーナーの手が震えていたのも仕方がない事だろう。
「あー……中にはマナバイソンやカリュドーン、それに鳥やウサギの魔獣も入っている。簡易魔法袋なので鮮度は少し落ちているかも知れないが、味は私が保証する。毎日美味しく頂いているからな」
素直なアランは、本当の事をそのままオーナーに伝えた。
そしてその言葉を受け、恐る恐る中を確認したオーナーの目が輝く。
カリュドーンやマナバイソンは中々手に入らない代物だ。
是非買い取りたいと思った。
それにしても……とオーナーは驚く。
簡易と言いながらこの魔法袋は性能が良い。
肉の鮮度も申し分ない。
この肉屋には魔法が掛けられた保管倉庫があるのだが、よっぽどこの簡易魔法袋の方が保存機能が高いだろう。
出来ればこの魔法袋ごと引き取りたいとオーナーは思った。
そしてそんな事をオーナーはうーむと考え、言葉を口にした。
「カリュドーンは金貨50、マナバイソンは30、他はそれぞれ金貨一枚でどうでしょう。勿論一体に付きのお値段です」
アランはそこで魔法袋に何体魔獣が入っているか自分が知らなかった事に気が付いた。
これまで魔法袋への魔獣詰め込み係はファブリスだった。
困ったアランはニーナに視線を送る。
だがニーナはニコリと微笑むだけ、そして詰め込み係りのファブリスに視線を送れば、こちらも笑顔を返すだけでアランの意図には気付かない様子だった。
そんなアランの態度を見て、オーナーには値段が低過ぎて渋っている王子に見えたのだろう。
上客を離すまいとオーナーは頑張った。
「で、では、カリュドーンは55、マナバイソンは35でどうでしょうか?」
「えっ?」
「それと、もしこの魔法袋をお貸し頂けるのでしたら、もう少しお勉強させて頂きます!」
「えっ、え〜と……」
魔法袋貸して良いの?
とニーナに視線を送ればまた笑顔だ。
そうここはアランに任せられている。
アランの判断で契約しなければならない。
アランはグッと息を呑み、オーナーに向かい合った。
「簡易魔法袋は、長持ちしないので、こちらの魔法袋なら貸し出しても良いですよ……」
「えっ?! こ、こ、こんな高価な魔法袋をお貸し頂けるのですか?!」
「はい、カルロ殿が証人になって下さいますし、魔法袋の方にはグリズリーが入っていますので、丁度いいかと……」
「グリズリー?! グリズリーですって?!」
オーナーは大きな声を上げ立ち上がると、プルプルと震えだしてしまった。
アランは知らなかったが熊魔獣のグリズリーの肉は滅多に出回らないらしい。
オーナーの目の輝きが益々凄い物になる。
それは初めての屋台に並んだ時の、大きな肉に狙いを定めたシェリーの様だった。
「あ、でも毛皮は私に戻して下さい。ニー……ゴホンッ、我が家のお針子が使いますので」
「は、はい! 勿論です!」
王都一の肉店に来た事が幸いだった。
普通の肉屋ならグリズリーなど買い取れなかっただろう。
カルロはあのセラニーナが、普通の肉を売りに来た訳ではないだろうと予想していたのだ。
ニーナが普通ではないと知るカルロの機転。
それにアランの頑張りにより、ため込んでいた魔法袋の肉は無事に売り払うことが出来た。
ただし、まだまだベンダー男爵家には魔獣がたっぷりとあるのだが、それを売りに来るのは次回になるだろう。
アラン王子の頑張りは、これにて何とか無事に終わったのだった。
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