第62話王都の街でのお散歩
「ニーナ、ニーナ、次はアレ! 私、アレが食べたーい!」
王都の街へ出たニーナ達ベンダー男爵家御一行は、王都にある露店市を楽しんでいた。
闇ギルド長であるカルロも一緒に来ていて、皆が露店市を十分に楽しんだ後は、ニーナが魔法袋と引き換えに購入した屋敷へと向かう予定だ。
シェリーは美味しい香りのする屋台に引き寄せられる様にあちらこちらで買い物をしては、ベンチに座り味見をする。
装飾品などの店も並んでいるのだが、そちらには見向きもしない。
美味しい物が見つかれば自分の魔法鞄にしまい、今日屋敷に残ったザナ、エクトル、ロイクのお土産にする。
三人にも同じ感動を味わって欲しいと、シェリーは全ての屋台の味を調べる気満々だ。
そしてディオンは、時折すれ違う警備隊に目を奪われていた。
警備隊への憧れとかそう言う事ではなく、ニーナに王都で剣を購入すると言われたため、騎士達の剣が気になって仕方がなかった。
まあ、多少手合わせをしてみたいなと言う気持ちはあったが、流石に街中では無理だとディオンにも分かっていた。
そしてアランは笑顔を浮かべているが、かなり緊張している様だった。
屋台の味を楽しんだ後で、肉屋に行き小さな魔獣を売り付ける予定だ。
アランは交渉が上手く出来るだろうかと、そればかり考えていた。
どうやらまだ小心者の王子はアランの中に住んでいる様だ。
ニーナが魔獣販売をアランに任せた事も、この理由があるからだろう。
アランの心を鍛えたい。
今日の出来事が立派な王子への第一歩になると思っていた。
そしてファブリスとベルナールの表情は対象的だった。
ファブリスは先程の闇ギルドでの出来事があった為、ご機嫌な様子でニコニコとしている。
その為財布管理を任されているファブリスの今日の紐は、ゆるゆるのガバガバだ。
闇ギルドで大量に現金を手に入れたと言う事もあるのだが、何より機嫌が良かった。
今なら趣味の悪い高値の壺でも、シェリーが欲しいと言えば買ってしまいそうな程だった。
そして騎士のフリをしているベルナールは、相変わらず眉間に皺を寄せている。
腰に携えている剣は中身は木刀だ。
それはディオンも同じ事。
ただベルナールはディオンの様に木刀を上手く扱えない。
なので何かあった時の事を考えすぎて、一人緊張が解けないでいた。
そしてニーナと言えば、可愛くて仕方がない姉のシェリーのワクワクしている様子に目尻を下げていた。
それに兄のディオンが剣を気にしている姿を見て、最高の物を探しだし購入しようとも思っていた。
ニーナもまた久しぶりの王都の街中を十分に楽しんでいた。
そんなベンダー男爵家御一行の後ろをついて歩くカルロは、目立ってしょうがない彼らの事を面白おかしく見ていた。
ニーナ達三兄妹はとにかく顔が良い。
そう無駄に顔面偏差値が高い為、とにかく人目を引く。
シェリーが「コレください」と笑顔で屋台の店主に声を掛ければ、一本頼んだ筈の肉が三本になっている。
それにディオンも街中の少女達の注目を集めていた。
ディオンに意図はないのだが、視線が合えば微笑みを返す。
その一瞬でディオンに恋に落ちてしまう少女が、先程から数えられない程いる。
気が付けば、可愛い兄妹を見ようと近付いて来ようとする輩もいたが、全て弾かれていた。
そうそれはニーナによってだ……
先程も邪な考えを持ち、怪しげな笑みを浮かべた男が、ニヤニヤしながらシェリーの背後から近いていた。
だが、気が付けばその男はカルロの視界から消えていた。
ニーナに魔法でどこかへ飛ばされたのだろう。
それにディオンにもだ。
可愛い少年にちょっとちょっかいを掛けようと、逆ナンの様な事をしようとしていた女性は、これまたカルロの視界から消えていた。
鉄壁のディフェンス。
ニーナの前で兄姉を脅かす行為など無理に等しい。
どうやらニーナは、今の家族がとても大切で仕方がないらしい。
あり得ない程の過保護ぶりだ。
多少は危険な目にあって学ぶ事も大切なのでは? とカルロは思うのだが、ニーナはまったくその気が無いようだった。
純粋無垢な二人を汚すものか!
ニーナからはそんな決意まで見て取れた。
そしてアランもやはり人目を引いていた。
どっからどう見ても王子様らしい風貌。
お忍びで来た王子様。
街に初めて出て緊張している王子様。
強面の騎士に守られている王子様。
アランは見るからにそんな様子だった。
お陰で遠巻きにしてアランを見つめる貴族たちも多くいた。
馬車の中からアランを二度見する貴族も居たぐらいだ。
ニーナの馬鹿王子大作戦は行き過ぎていると言ってもいい。
普段ベンダー男爵家に居る時のアランだったならば、これ程人目を引かなかったことだろう。
いかにもな王子様。
その恰好は砂糖に群がる蟻のように人々の注目を集めていた。
そう、ベンダー男爵家御一行はそれだけこの街で目立っていたのだった。
「それではそろそろお肉屋さんに行きましょうか。残りの魔獣も売ってしまわなければね」
「は、はい、ニーナ様、頑張ります!」
アランは握りこぶしを作り気合を入れる。
商談など一度もした事がない。
だからこそやってみたいとアランはそう思っていた。
魔獣の買い取り値段の相場はニーナから教わった。
簡易魔法袋の方の魔獣は新鮮さが落ちるため、それより一割引きの値段になるらしい。
頭の中で今学んだ内容を、アランは復習するようにぐるぐると考える。
「カルロ、では良いお店に案内してくださいませ」
「はい、畏まりました」
そんな傍観者のカルロはニーナと一緒にいられる事が楽しくって、久しぶりに心が躍っているのだった。
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