第29話探しもの
魔獣を倒しながら森の中へと進んでいく。
アランもベルナールも、たった一週間のニーナとファブリスからの教育で、自分達が見違えるほどに成長している事を実感していた。
先ずアランは、腰に携えていた見るからに立派な剣は、これまで飾りに近い状態だった。
けれど今は違う。
ニーナに体に魔力を纏う教育をされてから、剣が体の一部に感じるぐらい身近な物に変わった。
そして騎士教育を幼い頃からそれなりに受けていたアランは、騎士としての基礎があった。
そして剣にも魔力を流せる様になり、動きも軽く、魔獣を倒せるようになった。
(けれどまだまだだ。ディオンの素早い動きには負ける)
そう、剣捌きならばアランの方が上だろう。
けれど動きが読めない魔獣との戦いでは、五つも下であってもディオンには敵わない。
ディオンは自由自在に体を操れる。
ジャンプや身のこなしはまるで獣並みの身体能力だ。
ニーナの話しでは、体に魔力を纏う事に関してはディオンは素晴らしい才能があるそうなのだ。
勇者や英雄になれる存在。
それがディオンらしい。
「アラン、右から魔獣くるよー」
「ああ、任せろ!」
二人は前線で魔獣を倒す。
一緒に訓練をしたお陰で息ぴったりだ。
そしてシェリーとベルナール。
二人はこのメンバーの中央から、少し離れている魔獣を倒す。
「ベルナールさん、あたし、もう五匹倒したよー」
「ううう、負けませんよ、15も歳下のシェリー様に負けたら……」
「やったー! また倒したー!」
「グッ……」
二人は(シェリーは?)楽しく競い合い魔獣を倒していく。
そして後衛はニーナとファブリス。
ニーナは全体を見ながら皆に指示を出し、ファブリスは倒された魔獣をせっせ、せっせと回収していく。
ベルナールの魔法袋はもうすでに一杯で、今はアランの魔法袋に魔獣を詰め込んでいる。
このまま魔獣を倒し続けていたら、すぐにシェリーの魔法袋を借りなければならなくなるだろう。ファブリスにはその勇気が自分にあるかは自信が無かった。
お気に入りの鞄に魔獣の亡骸を入れる……
そんな事をお願いすればシェリーが泣き出すのではないかと心配だったからだ。
それにしても……
今日はやけに魔獣が寄ってくるなとファブリスは不思議でしょうがなかった。
アラン達を見つけた場所である森の奥に来たから魔獣が多く出ることは当然だが、それにしても多過ぎる。
そう思っていると、ニーナの手の平の中が光った。
「まあ、もう時間終了ね、魔法が消えてしまったわ」
「ニーナ様、何か魔法を使われて居たのですか?」
「ええ、一時間ほど魔獣を呼び寄せる魔法を使っていたのよ。聖女時代若手の騎士の訓練の為に良く頼まれていた魔法なの」
フフフと笑うニーナに、ファブリスが心の中で(教えてよー!) と叫んでいた事はこの場の誰も気付く事は無かった。
「さて、少し休憩をしたら荷物の場所へ行きましょう。後もう少し先にアラン達の荷物はあるみたいですわ」
ニーナの言葉に頷き、皆でお弁当を食べる。
シェリーとディオンはお弁当にご機嫌だ。
ここまで迷う事なくアランとベルナールの荷物に向かって歩けているのも、ニーナの魔法あっての事だ。
彼らの荷物からは二人の魔力を少しだけ感じる。
それを追い、森を進んでいたのだ。
ニーナだからこそそんな魔法も簡単にこなせる。
そして休憩を挟みまた森を進む。
体力が心配だったシェリーもベルナールも、今のところ大丈夫そうたった。
興奮している為、自然と体が魔力を使っているのだろう。二人の明日の反動が少し心配だ。
それも特にベルナールの方が心配だ。
なんてたって森歩きには慣れていないベルナール。
その上シェリーと競うように魔法を連発している。
今夜はぐったりと布団に倒れ込む姿が想像が付く。
寝る前に癒しを掛けてあげなくてはとニーナは思っていた。
「あっ! 有りました!」
アランが指差した先にはグッチャリと踏みつけられた鞄の残骸が見てとれた。
そして衣服らしきものも散らばって居て、踏みつけられボロボロに破れていた。
アラン達は逃げる為に荷物を放り投げた様だったが、この様子でそれが成功だった事が分かる。
魔獣達は人間の持ち物に反応し、この場で暫く立ち止まって居たのだろ。
そのちょっとの時間が有ったお陰でアランとベルナールは魔獣から逃げ、ニーナ達と出会う事が出来た。
それが無かったら……今あの鞄の様になっていたのはアランとベルナールだったかも知れない。
訓練前のへなちょこな二人を考えればそれが想像つく。
そしてアランは自分の鞄らしき方へと駆け寄ると、鞄の残骸をどかし、何かを探し始めた。
ベルナールも自分の荷物など見向きもせず、アランの探し物の手伝いを始めた。
そして暫くすると、大切に包んでいたからか、手拭いらしきものの塊が出てきた。
それをアランは必死で解いていく。
「ああ、無事だった……」
アランがその塊から取出し、手にした物は指輪だった。
それはニーナにも見覚えのある物で、大切な友人である ”アラン” に贈ったものだった。
ニーナに愛の告白をしてくれたアランことアランデュカスは、その想いを諦めた数年後、妻を娶り、そして王になった。
ニーナは王になった友人の為に精一杯の魔法を込め、この指輪を贈ったのだ。
それが今、目の前にある。
涙するアランを見ながら、知らずとニーナの瞳からも涙目が溢れていた。
(アラン……貴方が導いたのね……)
アランと森で出会った事は偶然では無かった。
そしてセラニーナがニーナの体に入った事も必然だった。
この出会いでニーナは、今その事に確信を持つことが出来て居た。
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