第28話ご機嫌なシェリー
「ランランラー、ランランラー、ランララランラランランラー」
ご機嫌で鼻歌を歌って居るのは勿論シェリーだ。
今日は皆で森へと向かっているため、ピクニック気分のシェリーは嬉しくってしょうがない。
それに今朝、シェリーにとって人生で最高に嬉しい事が有った。
それはニーナからのプレゼントだ。
「お姉様、アラン様、ベルナール様、今日は森へ参りますので私からのプレゼントですわ。お受け取り下さい」
ニーナが渡した物は、前回の森へのお出掛けでディオンとファブリスにも渡した簡易魔法袋だ。
アランとベルナールはそれが何であるか直ぐに理解し、ニーナの手作りだと聞いて、尚更驚いていた。
そしてシェリーは魔法袋がどういったものなのかよりも、シェリーの魔法袋にだけ名前以上の刺繡が施されていたことに驚いた。
それはシェリーが見たことの無い、可愛らしい花の刺繡だった。
「コレ……この刺繡……ニーナが付けてくれたの?」
「はい、お姉様の魔法袋には名前だけでなく、お花も刺繡させて頂きました。そのお花は”ひまわり”と申しますの、元気なお姉様にはピッタリだと思いまして……」
シェリーはこれ迄プレゼントなど貰った事は無かった。
いや、ディオンからバッタやカマキリ、カエルなどは貰った事が有った。
けれどこんなにも綺麗で、それもシェリーだけ特別で、名前が入っていて、その上可愛くって、そして大好きな妹からのプレゼント……
人生最高の日を今日迎えたと言ってもいいほど、シェリーは嬉しかった。
「ニーナ、ありがとう! 大大だーい好きだよ!」
「フフフ……お姉様、私も大好きでございますわ」
ニーナをぎゅっと抱きしめるシェリーを皆微笑ましく見つめる。
美少女二人の仲の良い姿は、ここにいる誰もの心と体を癒してくれる。
それぐらいの破壊力があった。
そしてシェリーがニーナを満足するだけ抱きしめると、森へのお出掛けが実行された。
ディオンとファブリス、そしてニーナの魔法袋は、前回の森へのお出掛けで魔獣で一杯になってしまったので、今日新しく魔法袋を渡された三人は、捕まえた魔獣をその中に入れることをまだ知らない。
シェリーはショルダーバッグ型の魔法袋を肩にかけご機嫌だが、これからその中に血を流した魔獣を入れると聞いたらどうなるのやらと、この中でファブリスだけが心配をしていた。
魔法袋を作ったニーナはそれが当然だと思っているし、ディオンはそんな事は気にもしていないだろう。
そしてアランとベルナールは緊張気味でそれどころではない。
ファブリスは先ずはベルナールの魔法袋に魔獣を入れて行こうとそう決意していた。
「お姉様、それにベルナールも、風魔法であの木の実を取れますか?」
ニーナの言葉にシェリーとベルナールが頷く。
シェリーは光と風魔法がつかえ、ベルナールは土と風魔法が使える。
そしてアランは火と闇、そして隣国ラベリティの王族によく出ると言われている珍しい属性の無を持っていた。
その事でニーナの予想は今確信に変わっていた。
「えーと……【ウインドカッター】」
「【ウインドカッター】!」
シェリーとベルナールが呪文を唱えると、無事果物の上辺りを風の刃が捉え、ヒョウタンのような木の実がポロリ落ちて来た。
シェリーはそれを無事にキャッチし、ベルナールはフラフラとしてなんとか掴んだと思ったら、落としそうになってファブリスに助けられていた。
残念ながらベルナールには運動神経と反射神経が余り無い様だ。
「お姉様、お兄様、これはアロテンと申しまして、水をたっぷりと含んだ木の実になります。上の部分をこうやって切り取ると、中に水が入っていて、喉を潤すことが出来ます。もし森で水が手に入らないときはこうやって補充してくださいませ」
「ほえー、あた……私初めて知ったよー」
「俺もー、飲んでみても良いのー?」
飲みたいというディオンに薦める。
ディオンは一口飲むと「うめー! あめー!」と喜んでいた。
それを真似てシェリーもアロテンを口にする。
勿論、美味しいと大絶賛だ。
アラン、ベルナール、ファブリスも飲めば良いのに子供に遠慮してか、ただごくりと喉を鳴らし見守っていた。
そこでニーナが一言……
「ですが……注意点が一つ。アロテンの緑色の木の実は問題ないのですが、ベルナールの抱えている黄色くなった木の実は決して口にしてはいけません」
「えー、そうなの? 黄色も美味しそうだよー」
「ええ、見た目はとても美味しそうですが、中は熟れすぎていて毒になっているのです」
「「毒ー?!」」
「はい、毒と言っても死ぬことはございませんが……一週間ぐらいはおトイレとお友達でいなければならなくなるでしょう。お腹がつまって困っている方には、一口ならば良薬となりますけれどね……」
うふふと笑う、ニーナの真似をしてシェリーとディオンも楽しそうに笑う。
楽しい森でのピクニック……
森へのお出掛けはまだ始まったばかり、今日は長い一日になりそうだとファブリスは思い。
そしてベルナールがそっと黄色いアロテンを魔法袋にしまった事を見届けていた。
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