第20話魔獣退治

「ニーナ! あそこ何かいる!」


 午前中を森の中で過ごし、手頃な魔獣をディオンの剣の教育がてら倒した後、ニーナ達一行はお昼を摂り終え、森の奥へとやって来た。


 そしてその森の奥で、最初に出会った魔獣は ”カリュドーン” と呼ばれる猪型の魔獣だった。


 ニーナはディオンの才能に感心していた。


 ディオンは森の中の様子に一早く気付く。


 勿論ニーナも魔法を使って探査を行えば半径10キロぐらいならば簡単に調べる事は出来るだろう。


 ファブリスだって同じだ、闇の世界で働いていたのだ、ある程度の探査は身に付いている。


 けれどニーナの体力を考えると魔力の無駄遣いは出来ない。


 そしてファブリスは子供二人に意識がいって居る。


 そのためニーナもファブリスも今日は六感のみで対応していたのだが、ディオンは野生の本能と言おうか、その六感が優れていた。


 ニーナが森で倒れていた時も、一番に気が付いたのはディオンだった。


 それにニーナがもしかしたら森にいるのではないかと、そう思い付いたのもディオンだったそうだ。


 今日一日森で一緒に過ごしながらディオンの様子をジックリと見て、そしてニーナ救出時の話をファブリスから聞き、ニーナはディオンには類希なる才能がある事に気が付いた。


 それはファブリスも同じで、もしディオンが暗殺者を目指せば一流の暗殺者になれると言う程のべた褒めだった。


 勿論そんなつもりはないが、それだけの才能があると言う事だ。


 そしてファブリスはその才能を活かす為にも、なるべく早く一流の指導者にディオンの教育を頼みたいと言った。


 暗殺者である自分では限界があるとファブリスはそうも言っていた。


 ニーナもそれに頷き、出来るだけ早く友人に手紙を書かなければと思い至った。




「お兄様、アレはカリュドーンです、とっても美味しいのですのよ。お姉様のお土産に致しましょう!」


 ニーナが美味しいのだと言えばディオンの目が輝く。


 きっとここにシェリーやエクトルが居れば、同じ瞳をした事だろう。


 カリュドーンは群れで行動する為、そこには多くのカリュドーンが集まっていた。


 ディオンに弱点は鼻だと教え、そこを攻撃するように伝える。


 結果ディオン二体、ファブリス三体、ニーナ五体のカリュドーンを倒した。


 コレは売りに出せばかなりの金額になるだろうと、すっかり守銭奴になったニーナは心の中でしめしめとほくそ笑んだ。




「もう私の魔法袋もディオン様の魔法袋もいっぱいですね」


 朝から沢山の魔獣を倒し、今カリュドーンを倒した為、簡易の魔法袋の中はいっぱいになってしまった。


 まだニーナの魔法袋があるが、帰りを考えると余裕が欲しい。


 今日の収穫は充分だろうとニーナが思った時、ディオンが何かに気が付いた。


「ニーナ、アッチに人の気配がする!」


 ディオンが指差した方向は、今以上に森の奥だった。


 耳を澄ませば確かにガサガサと小さな音がする。


 ニーナはディオンとファブリスに合図を送ると、ディオンが示した方向へと走り出した。


 ディオンとファブリスの足は早い、普通に考えれば6歳のニーナでは遅れを取るどころか足手纏いだろう。


 けれどセラニーナの記憶があるニーナは違った。


 体を強化させる魔法を使い先頭で進んで行く。


 そして到着した場所には、蜘蛛魔獣モノリスの集団に囲まれた二人の男性がいた。


「まあ、まあ、まあ! お兄様、モノリスですわ!」

「モノリス? えっ? 蜘蛛なのにリスなの? おっきくて気持ち悪いけど……」

「モノリス……噂に聞くあの危険な魔獣ですか?」


 二人の言葉にニーナは生き生きとして頷く。


 モノリスは毒薬にも麻酔薬にも使える魔獣だ。


 その上、毛や糸も使い勝手が良く、高値で取り引きされる。


 ニーナには沢山集まるモノリスが全てお金に見えていた。


(これだけのモノリスが手に入ったらお兄様だけじゃ無く、お姉様の入学資金も集まりそうだわ!)


 一匹も逃すまいとニーナはニタリと笑った。


「お兄様! この蜘蛛は水に弱いのです。お兄様のお得意な魔法、使い放題ですわよ! 思いっきりやって下さいませ」

「えっ?! 思いっきりやって良いの? 本当に?」

「ええ、ですが帰りの魔力は残しておいて下さいませね。ニーナにお兄様のおんぶは無理ですわよ」

「うん! 分かった!」

「ファブリスは私とお兄様が倒したモノリスをすぐに魔法袋にしまって下さいませ! 魔獣は鮮度が大事ですからね」


 ニーナはファブリスに自分の魔法袋を渡しながらニヤニヤしてしまう。


 その姿にファブリスは魔法袋を受け取りながら少しだけゾッとしていた。


 ディオンは自分の手から水の刃物の様な物を飛ばし、蜘蛛の頭を次々と落として行く。


 気持ち悪い為、心なしか顔が引き攣っている。


 ニーナは水の玉で蜘蛛を包み込み窒息死させた。


 金目の魔獣を目の前にし、ニヤつきながら蜘蛛を倒して行く幼女の姿は、違う意味で周りの人間に恐怖を与えていた。


 蜘蛛から助けられた男性二人が、そんなニーナの姿を見てゾッとしていたのは言うまでもないだろう。ファブリスもだ……


 モノリスを全て倒し、魔法袋に無事収納し終わると、遂にニーナの魔法袋もいっぱいになってしまった。


 次回はもっと魔法袋をもって来なければと、ニーナが帰り道で出会う魔獣(お金)を持ち帰れないことを憂いていると、助けた男性達が話しかけて来た。


「君達、助かった。有難う、礼を言う。命が救われたよ」


 そう言った男性はまだ男性とは言え無いぐらいの若さの青年で、ダークブロンドの髪色に緑色の瞳を持ち、絵本の中から出てきた様な美しい青年だった。


 そしてその青年の傍にいるもう一人の男性は、栗色の髪と瞳を持った、少し頼りなさそうな男性だ。


 二人とも着ている物は上物だが、汚れ、破れボロボロになっていた。


 荷物も殆ど持っておらず、まるで山賊にでもあった後の様だった。


 金色の青年は腰に剣を携えてはいたが、使いこなせてはいない事は先程の様子を見ても良く分かった。


 このまま森へ放置すれば、また別の魔獣に出くわし、命を落す事は確実だろう。


 ニーナはファブリスと目配せの上、二人を屋敷へと誘う事にした。


「旅の方、宜しければ我が家で休まれて行かれませんか? 日が暮れてからこの森に居るのは危険ですわ」


 男性二人は顔を見合わせてホッとした表情を浮かべ頷くと、ニーナ達にまた「有難う」と頭を下げた。


『使用人は皆森の奥で拾われた』


 シェリーから聞いた話が今脳裏に浮かんだニーナだった。

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