第17話ニーナの計画発表
「それで……皆は私に何か言いたい事はございませんか?」
これまで使用人の前では上手にニーナのフリが出来ていたと思っていたが、どうやらそれ自体が間違いの様だった。
もうすでにバレているのならばしょうがないと、ニーナは腹をくくって使用人皆からの非難を浴びるのを覚悟した。
けれど使用人たちはポカンとした後、一人一人がニーナに声を掛けてきた。
「私は以前のニーナ様の事も勿論可愛くて大切でしたが、今のニーナ様がこのベンダー男爵家に来てくださったことは、神の思し召しなのでは無いかと思っております……」
「私も同じです……以前のニーナ様も今のニーナ様もどちらも大好きですし、それに今のニーナ様が以前のニーナ様を追いだしたわけではないのに、使用人の私達が責める事は違うと思うのです……」
「俺も同じです……ニーナ様はどんなニーナ様でも好きです」
「おれも……」
使用人たちの言葉に、ニーナは息をのんだ。
非難されこそすれ、まさか歓迎されるとは思ってもいなかったからだ。
「……ファブリス、ザナ、エクトル、ロイク……有難うございます……私は本物のニーナがいつ戻って来ても大丈夫なように、ベンダー男爵家の為に精一杯の事をさせて頂きますわね」
今ニーナはとても感動していた。
うっかりしたら涙が零れてしまいそうだった。
本物のニーナの事が皆可愛くて仕方が無いはずだ。
けれどディオンもシェリーも本物の妹で無くなったニーナを、すんなりと受け入れてくれた。
そして使用人たちもまた、今夜セラニーナをニーナとして受け入れてくれた。
きっと貴族としては素直過ぎるベンダー男爵家の人々は、社交界では生きていくのも大変だろう。
けれどこの温かな人達が、家族を知らなかったセラニーナにはとても大切だった。
ずっと欲しかった家族の愛を、今セラニーナはニーナになって初めて感じる事が出来た。
神の思し召し。
ファブリスのその言葉が胸に染みたニーナだった。
「それではこれから ”ベンダー男爵家立て直し計画” をお話しいたします」
皆に認めてもらったニーナはもう遠慮することはやめた。
ディオンの試験まではあまり時間がない。
ベンダー男爵家を立て直すならば少しでも早い方が良いだろう。
その為ニーナは、ディオン、シェリー、そして使用人たちの前で、これからの立て直し計画を話すことにした。
皆に協力してもらい先ずは最低限のお金を手に入れたい、それから教材や受験費用も用意しなければならないだろう。
今のベンダー男爵家の現状を考えると、ニーナの野望は大きなものだ。
それでもニーナは今の自分ならばベンダー家を変える事が出来る、そう思っていた。
「まず、ベンダー男爵家にはお金が有りません、その事を一番最初に改善しなければならないでしょう」
ニーナの言葉にディオンとシェリーはあまりピンとこないのか、普段はお喋りなはずなのにうんともすんとも言わなかった。
もともとお金がなくても生活が出来ているベンダー男爵家の子供たちはお金に執着がない。
なので二人の反応は当然だとニーナは思っていた。
けれど使用人たちもまた二人と同じようにピンと来ていない様だった。
それもその筈、このベンダー男爵領にいる限り、自分達がお金を手に入れたとしても使い道がないのだ。
ベンダー男爵家にいる使用人達は住めるならば給料もいらないと言って居るぐらいの人達な為、彼らもお金には執着が無い様だった。
貴族には財力が不可欠!
お金がない家は馬鹿にされてしまう。
だからこそどの貴族も借金があったとしても、それを隠そうとし、娘や息子を使い、借金の形に婚姻を結ぶほどだ。
シェリーとディオンは見た目が美しい。
この見た目欲しさに婚姻を希望してくるものは多くいる事だろう。
その際にお金が無いからと、二人が望まない婚姻を結ぶような事になることだけはニーナはしたくはなかった。
私の大切な家族!
ニーナはここにいる家族全員を必ず幸せにして見せると、本物のニーナに心の中で誓っていた。
「皆様、宜しいですか、先ずお兄様は後一年と半年もすれば貴族学校の受験がございます」
ディオンとシェリーには前も話した気がしたのだが、使用人たちと同じように「そうなんだー」と感心しながら頷いていた。
ニーナはそんな事は気にもせず、話を続けた。
「学用品も必要ですし、お兄様が騎士を目指すのならば剣も購入しなければならないでしょう……」
「剣?! ニーナ、俺に剣買ってくれるの?!」
ディオンに頷きながらニーナは話を続ける。
「それにお姉様は学園前にはドレスを何枚も用意しなければなりません」
「ドレス? えっ、ニーナ新しいドレスって買えるの?」
今度はシェリーに頷き返しニーナは話を続ける。
追々シェリーとディオンには、人の会話に途中で入ってはいけないことを教えなければと、ここでもまた心の中に二人に必要なものとして心の中に書き込んでいく。
教養は二人には最重要事項だ。
「それに使用人の皆に給料が払えないままではいけません。貴族家として恥ずかしい行いで、これは一方的に労働力を搾取して居る形になっております……」
顔を見合わせ、困った表情になっている使用人たちにニーナは頷く。
彼らは奴隷ではない、使用人なのだ。
仕事にはきちんと対価を払う。
それが出来なければ貴族として恥をかくのはベンダー男爵家だ。
彼らがいくら要らないと言ってもこればかりは譲る気はなかった。
「という訳でして……まずはお金作りに力を入れます。その為森へと行きたいのですが……ファブリスとお兄様、私と一緒に来ていただけますか?」
「行く!」
「……はい、参ります」
直ぐに返事を返してくれた二人にニーナは頷く。
するとシェリーが手を上げた。
「はーい、ニーナ、あたし……私は?」
「はい、お姉様とザナにもやって頂きたい事がございます」
「なになになにー?」
ニーナはとても良い笑顔を浮かべ頷くと、シェリーへ向かって言った。
「それは大掃除です」と……
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