元聖女様は貧乏男爵家を立て直す! 「あなた達しっかりなさいませ、自分の人生は自分で切り開くものなのですよ」
白猫なお
ニーナとセラニーナ
第1話天寿を全う……?
セラニーナ・ディフォルトは今100歳という歳を迎え、天寿を全うしようとしていた。
弟子達が見守る中、セラニーナ・ディフォルトの吐く息は段々と弱く細くなる。
(幸せな人生でしたわ……)
そう人生を全うできたと満足し、眠る様な表情を浮かべながら魂が天に登ろうとしているまさにその瞬間、セラニーナ・ディフォルトの脳内ではこれ迄の人生が走馬灯のように映し出されていた。
セラニーナ・ディフォルトは孤児院に捨てられていた子供だった。
五歳までその孤児院で過ごしていたが、その生活は決して楽な物では無かった。
食事は朝夕の二食のみ。
大きい子供の中には、小さな子供の食事を奪い取る子もいた。
着ている服もボロボロ。
お風呂だって入れはしない、水で体を拭くだけだ。
孤児院は隙間風が入り、雨漏りがするようなおんぼろな建物だったが、そこでの生活で幼いながらも、雨風がしのげるだけでも恵まれている事をセラニーナ・ディフォルトは知った。
そしてセラニーナ・ディフォルトが五歳になると、その見た目の美しさから貴族からの養子縁組の話が持ち上がり、属性や魔力量を調べる事になり、その時聖女の素質が有る事が分かった。
孤児院の院長がきちんとした人だった為、セラニーナ・ディフォルトはその当時有名だった大聖女の下へ運よく修行に出る事が出来たが、他の孤児院の中にはお金目的で子供が身請けされてしまう現実をセラニーナ・ディフォルトはこの時に知った。
自分は恵まれていて、運も良い。
だったらそれを最大限に生かさなければいけない。
孤児院での生活、そして聖女としての教育の中、セラニーナ・ディフォルトはそう強く思うようになっていった。
そんなセラニーナ・ディフォルトは勉強が好きだった。
自分の知識が増える……それはセラニーナ・ディフォルトとって快感に近い刺激が有った。
聖女として生きることを望まれそれに従ったが、出来る事ならば本当は研究者として生きたかった。
けれど孤児だった自分をここ迄この国に育ててもらった恩と、大聖女様の跡を継いだ責任がセラニーナ・ディフォルトには有った。
国を守るのは聖女の務め。
その為、セラニーナ・ディフォルトは自分の跡を継ぐ聖女たちの教育に力を入れ、自らも国中を回り、荒れた地を癒し、人々を治療し、聖女としての仕事に尽力した。
そして国中の孤児院を視察して回り、冷遇を受けている子供たちを助け、孤児院長や職員の不正を暴き、いつしか国民からの絶大な支持を集めるようになっていった。
そんなセラニーナ・ディフォルトにも結婚話が持ち上がった事が有る。
相手は隣国の王子で、セラニーナ・ディフォルトの見た目の美しさと、慈愛に満ちた聖女の活動に心打たれ、王子は婚姻を申し込んだ。
けれどセラニーナ・ディフォルトは結婚をする気はなかった。
ましてや自分は生まれも分からない元孤児だ。
王妃には相応しくはないと、丁重にお断りをした。
勿論始めから王妃になどなる気はまったくなかったが、セラニーナ・ディフォルトが国に残ると聞けば国民は喜び、隣国の民は落胆したそうだ。
それに聖女として生きて来たからこそ、今の自分がある。
セラニーナ・ディフォルトはその事をよく理解し、そして聖女としての自分の在り方を良く分かっていた。
隣国の王子とはその後友人として手紙のやり取りをし、その王子が王となり、亡くなるまでその友情は続いた。
そしてセラニーナ・ディフォルトは、いつしかこの国最年少で大聖女となっていた。
セラニーナ・ディフォルトは後継者たちを育てた後、聖女を引退し、念願だった研究に没頭するようになった。
新しい薬を開発し、庶民でも購入できるようにと安く作れる薬も開発した。
セラニーナ・ディフォルトは聖女から大聖女へ、そして本人の預かり知らぬところで賢者とも呼ばれるようになっていた。
研究に明け暮れる毎日の中で、セラニーナ・ディフォルトは自分の幸せを実感でき、大満足した人生を送ることができた。
そう、本当はこのまま、良い思い出を抱えたまま天に召されるはずだったのだが……
薄れゆく意識の中、セラニーナ・ディフォルトにある声が聞こえてきた。
『おねがいします! 神様たすけて! 聖女様、賢者様、おねがい! たすけて!』
私は聖女セラニーナ・ディフォルト。
今確かにセラニーナは死ぬ瞬間だったのだと思う。
自分の過去が脳裏に浮かび、今セラニーナ・ディフォルトとしての人生に区切りを打ち、この世界との別れの時間が来て、そして天に召されるはずだった。
けれど、そんな中で私にはハッキリと助けを求める声が聞こえてきた。
それはまだ幼い少女の声。
何故死にゆく自分にその声が聞こえるのか……
一体誰が、そして何を助けて欲しいのか……
そして間もなく死を迎えるであろう私にそれが出来るのか……
出来たとして、それからどうなるのか……
まったく想像は付かないけれど……でも助けを求められている以上、聖女として出来る限りの力を貸して上げたい。
セラニーナは最後の力を振り絞ることにした。
天に召され、天界で優雅なひと時を過ごせたらと、そんな夢を描いてはいたが、セラニーナにはまだやるべきことが残されていたのかもしれない……
セラニーナは幼い声がする方へと集中をした。
セラニーナが最後に出来ることは、この声を聞くことなのかもしれない……と、ふとそんなことを思った。
(あなたは誰? どこにいるの? 私に何を助けて欲しいの?)
セラニーナはその声がする方へと、心の声を掛けてみた。
『だれ? かみさま? かみさまなの?』
波長が合うのかセラニーナにだけはその子の声が聞こえて居る様だ。
セラニーナを見守っている弟子たちには動きはない。
きっとセラニーナは眠っているようにしか周りには見えていないのだろう。
(落ち着きなさい、私はセラニーナ・ディフォルト、この国の聖女、私に何を助けて欲しいの? 貴女はどこにいるの?)
セラニーナはゆっくりと彼女に話しかけた。
きっと酷い状況なのでしょう。
彼女の心の声には焦りがある様だった。
『聖女様……よかった。ありがとう……わたし……もう……』
彼女の声が消えそうになっているのが分かった。
か細い、頼りない声を聞き、セラニーナは心の声を張り上げた。
(待って! 今助けるからっ! もう少し頑張るのよっ!)
そう言って手を伸ばせば、ぱちりとセラニーナは目を覚ました。
けれどそこは弟子達が見守る自室のベットではなく、見知らぬ森の中だった。
こうして大聖女……いや、賢者セラニーナ・ディフォルトのその体は、不思議な光で包まれた後、リチュオル国から消え去った。
天に愛され過ぎて神に連れて行かれたのだろうと、見守っていた者達はセラニーナ・ディフォルトの偉業だとまた褒めたたえた。
それはセラニーナ・ディフォルトが、リチュオル国で ”慈愛の神” と崇められるようになった瞬間だった。
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