第21話

魔女の姿が見えなくなったと思うとほぼ同時に、後ろからローズを呼ぶ声が聞こえてきた。



振り返ると、白い竜と背中にのったアリムが見える。



ローズは思わず微笑んで、「ここよ!」と、手を上げた。



「大丈夫か、ローズ!」



心配そう言ってくるアリムの姿はぼろぼろで、今すぐにでも手当てが必要だった。



それなのに、自分を先に迎えに来てくれたアリム。



(ほらね、おばあさま。彼なら信じられると思うの)



「あたしは大丈夫よ」



ボロボロの王子に手を引かれ、竜の背中に乗る。



「とりあえず、洞窟に戻って手当てしなきゃね」



ローズがアリムの傷口にちょんっと触れると「いってぇ!!」と悲鳴を上げたのだった。


☆☆☆


翌日。



朝の早くに洞窟をでた2人は昼頃から周囲の異変に気づき始めていた。



動物の死骸があちこちに散乱し、たまのオアシスには生き物の姿がなくなっていた。



「感染病のせいだ。あの病気は人間でも動物でも関係なく感染する。だから国中が感染するのもきっと時間の問題だ」



アリムはそう言い、ホワイトのウロコをギュッと握り締めた。



早くしないと、妹が死んでしまう。



そんな焦りがにじみ出ている。



「こんなことになってるなんて、あたし知らなかった……」



「塔の中にいたんだ。仕方ないだろ」



「そうだけど……」



ここまで深刻になっているなら、もっとよく説明してくれてもよかったのに。



ザイアンを思い出し、そんな事を考える。



「あたし、やっぱり魔女のおばあさまに愛されてたみたい」



「なんだよ、急に」



「昨日、ザイアック王子に連れて行かれたとき、なんとなくそう思ったの」



「へぇ?」



「あたしね、王の正式な娘じゃないのよ」



「え?」



突然の言葉に、アリムは目を丸くして聞き返す。



「王は女遊びが過ぎる人で、それが原因でできた1人娘。母親は娼婦よ。毎日違う男と寝てる」



「そう……」



「だからあたしが生まれてすぐ,本当に王の娘なのかって疑われてたらしいわ。そしたらね、あたしの体に青いアザがあって、そのアザが王と同じものだったからって事で認めてもらえたの」



「あぁ、あれか」



アリムは、ローズの背中に薔薇に似たアザがあったことを思い出す。



刺青のようなものかと思っていたけれど、あれは生まれつきのものだったらしい。



「王の娘だって認めてもらえたって、周囲の目は冷たかった。王にできた最初の娘が娼婦の子ですもの、当然よね」



その噂は隣国にもあっという間に広がった。



街人には気づかれないようにしてきたが、王室の人間を騙すことはできなかったのだ。



だから……。



「あたしを助ける王子なんて誰もいないこと、最初からわかってた」



指をさされて笑われる娘を手に入れたいだなんて、誰も思わない。

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