恐怖! 殺人オオウナギの夏 ~~未来から来た怪魚ハンター~~
武州人也
第1話 従弟の正体
一月某日、山梨県、
赤く光る球が、青い空より降ってきた。雲離湖のちょうど真ん中に没したそれは、轟音を響かせ、天を衝かんばかりに高らかと水の柱を立てた。
ボートにでも当たっていれば、きっと惨事になっていただろう。そう思わせるほどに、この空からの贈り物は強烈な衝撃をもたらした。
「雲離湖に隕石落下」
この件はちょっとしたニュースとなったが、それもただ一時のこと。何の被害も出さなかった穏やかなニュースは程なくして、人々の頭からは完全に忘却されてしまった。
この隕石に付着していた微生物が、湖底に潜むある生物に変容をもたらしていたのであるが、そのことに気づく者は誰もなかった。
***
蒸し暑い七月下旬、雲離湖にほど近い戸建てに住む
「久しぶりだなトモ!」
「こんにちはシンくん! 今年もよろしくね!」
矢上家の一人息子である
「トモ、今日はどこ行きたい?」
「そうだなぁ……お爺ちゃんに会いたいかな」
「よしじゃあ爺ちゃんとこ行こう」
リビングでしばらくくつろいだ後、智也を連れて外に出た。智也は晋より二歳下の九歳である。一人っ子の晋にとって智也は弟のような存在で、毎年智也が家に来る度に連れ回して遊んでいる。
ショルダーバッグに最小限の荷物を詰めた晋が目指す先は、祖父のいる小屋であった。晋と智也の祖父である
外に出ると、強烈な日差しが二人を襲った。暑さに反応して、晋の全身からは早くも汗がぶわりと噴き出ている。アブラゼミの鳴き声が耳を煩わせる中、二人は小川沿いの道を歩いた。この道は南側に生い茂る木々が木陰を作ってくれていて、それが暑さを和らげてくれる。
小川と反対側の土地には、雑木林をくり抜いて造成されたソーラー発電所があった。この土地を管理していたおじさんはよく昆虫採集をさせてくれたが、その林がこうして消えてしまうことは、晋の心に寂寥の念を呼び起こした。
智也はその可愛らしいつぶらな瞳をきょろきょろさせて、辺りの風景を眺めている。まるで消えゆく自然をその目に焼き付けておこうと言わんばかりだ。その一方で、晋の視線は専ら智也に注がれている。この弟代わりの少年が変わりゆく雲離湖の風景をどんな心境で眺めているのか……それが晋の関心事であった。
ついさっきから、晋は智也に対して、そこはかとない違和感を感じていた。そういえばさっき玄関で
さらさらと小川が流れ、セミに混じって小鳥やカエルの声が響いている。時たま吹くぬるい風が、草いきれを運び込んで二人にまとわりついた。
そんな中、晋のスマホが鳴り出した。電話がかかってきたのだ。スマホをポケットから取り出した晋は、発信者の名前を見るなり、あまりの驚きにスマホを落としてしまった。
「え……どういうことだよ」
スマホを拾い上げた晋、その画面には、発信者の名前として「智也」の名前があった。
――ありえない。だって智也は今ここにいるのに……
動揺を隣の智也に悟られぬよう、晋はかかってきた電話に出た。
「も、もしもし」
「あ、シンくん? ごめん実は転んで怪我しちゃってさ……そっち行けるの明日になっちゃった。本当にごめん」
晋はろくに返事もできず、気づけば通話を切っていた。真夏の炎天下だというのに、晋の背筋に冷たいものが走り、ぞわぞわと体を冷やしてゆく。
晋はぎこちなく首を回して、智也の方を振り向いた。彼はばつが悪そうに俯いて、難しそうな顔をしている。
怪我をして来られなくなった智也と、今目の前にいる智也、どちらが本物かは明らかであった。
「お前、トモじゃないだろ」
「あー……思ったより早くバレちゃったかぁ……」
「誰なんだお前」
晋は一歩後ずさり、智也と距離を取った。しかし視線はそらさず、それの顔をじっと睨みつけている。
得体の知れない相手を前に、警戒心は最上級に跳ね上がった。恐怖心もあったが、それ以上にこの智也の正体を確かめずにはいられない。
「隠してもしょうがない……僕は城智也さ。未来から来た方の、だけどね」
「未来……?」
「そうさ、僕は君を救うために来たんだ」
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