「プータローなんだ」

ヨーコさんはそう言ってイチゴジャムとマーガリンを塗ったコッペパンを

手でちぎって口の中に入れた。

「おいしいでしょう。ここのコッペ」

「しっとりしてて、食感もいいですね」

僕を見てヨーコさんが微笑む。

「はじめて食べたときは衝撃でした」

「あの時はだいぶお腹が空いてたんじゃないの」

「たしかに」

「でも、スーパーで売ってるコッペはヘナチョコですよね」

「ここのコッペ食べたらもう他のは食べられないよ」

履きこんだスニーカーに作業服。

長い髪を後ろで束ねて作業服と同じ色の帽子をかぶっている。

「これは区役所からの支給品」

「区役所に勤めているんですか」

「アサコから聞いてないの」

「聞いてません」

「あたしが区役所勤めのわけないでしょう」

「これはある人のお下がり」

「その人が区役所に勤めてた」

「まあそんなとこ」

そう言ってヨーコさんは牛乳パックから直接牛乳を飲む。

「アサコとは同級生なんだって」

「もしかしたら会ってるかも。子どもの頃はよくアサコと遊んでいたから」

「ほとんど覚えてないんですよ僕は。どのくらい同じクラスにいたのかも」

「気になってたんでしょう。アサコのこと」

「何となくいますよね。クラスに一人ぐらいは気になる子って」

「でも忘れちゃったんだ。アサコは覚えていたのに」

「なかなか思い出せなくて」

「だんだん係われなくなってかいくんです。

転校するたびに。またすぐさよならかって思うと」

「わかるよ。そろそろ行こうか」

僕はゴミをレジ袋に入れて、

ヨーコさんの運転する幌付きの軽トラックに乗り込んだ。

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