親父は刑期を終えた後も、家には帰ってこなかった。

母親に捨てられた僕は、

じいちゃんとばあちゃんのいる僕の生まれた家に戻っていた。

決して居心地のいい場所ではなかったけれど僕に選択する自由はなかった。

学校に行っても仲の良かった友だちとは気まずくなりよそよそしい会話ばかり。

気を使っているのか、気を使われているのか。

僕もそんな生活に慣れてしまっている。

じいちゃんに隣町の私立の中学に行くかといわれた。

負担はかけられない。じいちゃんたちだって肩身の狭い思いをしてる。

親父は刑務所を出てカツ丼と醤油ラーメンを食べたのかな。

親父の罪状は殺人ではなく傷害致死だけど、

普通の人にとってはどちらも「人殺し」。

直接の原因は親父にはなく喧嘩の仲裁に入っただけ、

と言ったところで何の意味もない。

刑期を終えた日、じいちゃんもばあちゃんも迎えには行かなかったらしい。

僕にはその日さえ教えてもらえなかった。

母さんのことが話題になることもなかったけれど、

ばあちゃんが何やらブツブツ言っているのを僕は知っていた。

「そんなこと言ってもしかたねえだろう」

そう言っているじいちゃんの顔がうかんだ。

もちろん僕は直接聞いたことはない。

僕をあちこち連れまわしたあげく捨てていった母さんだけど、

僕には嫌悪や怒りの感情はなかった。

「気にかけてくれる子とかいなかったの」

「みんな無意識に家に縛られている」

「都会とは違うんだね」

「都会は都会で何かに縛られている」

「そんな感じがする」

「都会には僕と似たような子がいるよね」

「僕と同じで、知らず知らずのうちに壁を作っている」

「ATフィールドで」

「かなり強固な」

「みんな知らん顔していても、敏感に反応しているんだ」

「かかわる気はないのに、すごく気にしてる」

「ねえ、ラーメンどうだった」

「豚骨は好きだけど、背油が重いね」

「昔は醤油ラーメンだったの」

「チャーシューも存在感があった」

「もっと肉々しくて、噛みごたえがあって」

「そうなんだ」

「あそこ雑誌に載って急に有名になったから行ってみたかったの」

「残念だった」

「ちょっとね」

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