翻る落ち葉 旧

阿紋

罪状が殺人であっても傷害致死であっても「人殺し」には違いない。

刑期が長かろうが短かろうが他人にとってはどうでもいいこと。

「殺人犯」だろうと言われて「傷害致死」だと言い返したところで

その言葉はむなしく空気の間をすり抜けていく。

その違いに意味があると思っている人はごく一部の人たちだけ。

「罪を償うまで待ってるから」

多分そう言ったときには本当にそう思っていたのかもしれない。

二時間サスペンスでそんな言葉を聞くたびに何か嫌な気分になる。

昔ドーンというアメリカのグループの

「幸せの黄色いリボン」という曲が好きだったけれど、

それは歌詞が英語で意味が分からなかったから。

「幸せの黄色いハンカチ」という映画をテレビ放映で見て、

印象に残っていることといえば主人公が大衆食堂で

醤油ラーメンとカツ丼を注文したことぐらい。元ネタは同じらしい。

僕に「幸せの黄色いリボン」の歌詞の意味を教えてくれたミホちゃんは、

僕のことを励まそうと思って教えてくれたのだろう。

別にミホちゃんのことを悪く思っていたわけじゃないけれど、

ミホちゃんはだんだんと僕から遠くに行ってしまった。

もともと僕は人と仲良くすることが得意ではない。

どういうわけか「幸せの黄色いリボン」という曲だけは嫌いになれなかった。

僕が父さんと暮らしていた田舎の町には、

父さんが悪い人間だと思っている人はいなかったと思う。

仲のいい友達も、親しくしていた人もたくさんいたし。

ただ母さんはもともとその町の人ではなかった。

「何でここにいるの」

僕は母さんと住んでいた都会の古くてせまいアパートで、

母さんにきいたことがあった。

母さんは答えてくれない。

知らない人しかいないのに、

どうして隠れるようにひっそりと暮らしていかなければならないのだろう。

そんな疑問を抱きつつも、

僕も他人の視線ばかりを気にするようになっていた。

引越しばかりしていたけれど、そのことはどこに行っても変わらなかった。

部屋の中には余計なものがなく、どこに行っても同じ風景のまま。

「フツーだったよ」

ポツリとアサちゃんが言う。

「そうなんだ」

「覚えてないの」

アサちゃんが不思議そうに僕の顔をのぞきこむ。

「あたしのことも」

「ミホちゃんに似ていた」

「そうなんだ」アサちゃんはミホちゃんのことは知らない。

「感じがね。印象だけ」

「そうか」そう言ってアサちゃんが立ち上がった。

僕はアサちゃんのおしりを見上げている。


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