怪物

空木トウマ

第1話

彼がその池に人を連れてきたのは今日が初めてではなかった。

池はA県の西側にある南北を走る大きな国道を、G県との県境に接せる5キロ手前で東の小道に入り、さらに10分程進んだところに出てくる山林の急な斜面を通らなければならないところにあった。

普通、人が立ち寄る所ではなかった。

それが夜ともなればなおさらだ。明かりも街灯が一本だけ頼りなく照らしているだけでひっそりとして寂しく、不気味な感じだ。

連れてこられた相手は明らかに困惑している。くしゃっという靴が地面に落ちている木の葉や枝を踏みしめる音だけが響いている。見上げると、天気のよい今日は半月が輝いていた。

「なあ、本当にこんな所にお前の別荘があるのかよ?」

 黙って前を歩く彼に相手が言った。

「ああ、もうすぐだから」

 振り返ることもせず彼は言った。

 嘘だった。

別荘など存在しない。目的は相手を池に連れていくことにあるのだ。

「お…なんだあれ…?」

 相手が声を上げた。

その声を聞いて彼は微笑した。

「なんか…光ってる…。あ、月だ。…て、ことはあれ池か?」

「ああ、そうだよ」

思わず笑いそうになるのを押し殺しながら彼は答えた。

「池だね」

もうすぐだ。

彼は思わず身震いした。

池の前に相手を立たせれば…。

怪物に食わせる事が出来る。

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