第14話~夏海サイド~
強引に歩く凌によってピアノ線の一つが壁から引き離されるのを見た。
ピンッと細く小さな音が聞こえてきて、離れたピアノ線が落下する。
そのタイミングでガタンッと大きな音が聞こえてきた。
咄嗟に両手で頭を庇い、中腰になる。
凌が動きを止め、呆然と天井を見上げている。
そちらへ視線を向けると天井の一部が扉のようにして開いていたのだ。
さっきの音はこれが開いた音だったのだ。
天井を見上げ、音の正体を理解するまでほんの数秒の出来事だった。
逃げる暇なんてなかった。
次の瞬間には扉の奥から大きな杭が落下していた。
尖った方を下にして、凌の顔面めがけて落ちてくる。
凌はポカンと口を開けてその様子を見つける。
その時だった。
ドスッ! と鈍い音がして、凌の口に杭が突き刺さっていた。
杭は凌の体を貫通し、床を突き破ってようやく止まった。
「あ……あ……」
壮絶な出来事に立っていられなくなる。
足から、体中から力が抜け落ちてその場に膝をついた。
「うっ……」
光平が口に手を当てて、教室の隅まで走っていく。
なんだこれは。
一体どうなってるの?
ここは普段通っている自分たちの学校で、3年A組の教室で間違いないはずだ。
それなのに、どうして天井に扉なんかがあるの?
こんなこと、普通の人間ができるわけない。
そう考えたとき、ゾクリと背筋が寒くなった。
まるでわけのわからない力に押さえつけられているような気がする。
思えばここで目が覚めたときからそうだった。
あたしたちは全員自分の家で眠っていたはずだったのだ。
14人もいる3年E組の生徒を一斉にここへ連れてくるなんてこと、できるわけがない。
仮に薬で眠らされていたとしても、光平のような大柄の男子生徒だっているのだ。
途中で目が覚めてもおかしくない中、着替えまでさせる理由がわからなかった。
「くそっくそっ!」
光平は壁に自分の額をぶつけて苦痛に呻いている。
「光平、なにしてるの!?」
「うるせぇ!!」
あたしの言葉に光平は怒号で返す。
光平も限界なのだ。
この状況で精神が崩壊しかけている。
自分で自分を傷めつけることで、どうにか自分を見失わずに済んでいるのだ。
あたしは教室の後方へと視線を戻した。
凌が犠牲になったからか、ピアノ線が落下している。
あたしはどうにか自分の気力を奮い立たせて、立ちあがった。
ヨロヨロと灰色の袋へ近づいて行く。
「おい、気を付けろよ!」
光平に言われて頷いた。
幸いにも、もうピアノ線は張られていない。
これで響に近づくことができるのだ。
こんな場所早く脱出してやる……!
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