第6話~夏海サイド~

3階へやってきたあたしたちはまずE組へ向かった。



もちろん、ここが自分たちのクラスだからだ。



先頭を歩いていた凌がドアに手をかけ、次の瞬間顔をしかめた。



「くそっ鍵がかかってる」



考えてみれば当然のことだった。



今は夜中。



教室が施錠されていないほうがおかしいのだから。



「それなら、先に職員室に行った方が良かったのかな」



美久の言葉にあたしは左右に首を振った。



「職員室もきっと閉まってるよ」



冷静に考えれば自分たちに鍵を手に入れるすべはないのだ。



響が教室以外の場所にいればいいが、そうでなければ探すこともできないということだ。



「どうするんだよ!」



光平の苛立った声が廊下に響く。



どうすると言っても、教室以外の場所を探すしかなさそうだけど……。



そう考えた時だった。



ジジッと、あのノイズ音が聞こえてきたのだ。



誰かがハッと息を飲む音が聞こえてくる。



「これからみなさまにはグループに分かれて行動してもらいます」



耳障りな声。



しかし、しっかりと聞いていないといけない。



あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。



みんなも真剣な表情でアナウンスを聞いている。



「3年A組から3年D組の教室には、入れるようになっています。しかし、そこに入れるのは4人ずつ。こちらで名前を呼ばせてもらいます」



完全に指導権を握っているアナウンスに公平の舌打ちが聞こえてきた。



「まず、3年A組に入ってもらう4人です」



スピーカーからカサカサと紙をめくる音が聞こえてくる。



事前に準備していたということだ。



「小野早紀さん」



壁際に立っていた早紀がビクッと体をはねさせて、泣きそうな表情になった。



メガネの奥の目が不安定に揺れている。



「香川夏美さん」



名前を呼ばれ、一瞬息が止まった。



こんなに早く呼ばれるとは思っていなかった。



あたしはもう一度唾をのみ込み、そしてA組の教室へ視線を向けた。



E組からは一番離れているから、A組のプレートは闇の中に沈んでいるように見えて軽く身震いをした。



「長尾凌さん」



凌がピクリと眉をあげた。



しかし、なにも言わない。



「最後は本間光平さんです」



光平の名前を聞いた瞬間、心の中で大きくため息を吐き出してしまった。



こんな意味不明な状況の中、みんなをひっかきまわず光平と一緒に行動しなければならないのが気になるところだ。



名前を呼ばれた光平はさっそくA組へ移動しようとしている。



みんなとの協調性なんて少しも考えていないみたいだ。



「光平、まずは全員の名前が呼ばれるのを待とう」



凌にそう言われて、初めて気がついたみたいだ。



早紀はボロボロと涙を流し始めているし、この先が思いやられる。



そんなあたしの気持ちなどおかまいなしに、名前は呼ばれる。



「3年B組に入る4人を発表します。宮本美久さん、井原マリさん、山口雄大さん、奏秀さん。続けて3年C組に入る4人を発表します。大西優香さん、三好ミチルさん、赤木太一さん、近藤大祐さんの4人です」



そこまで発表されてあたしは首をかしげた。



たしか、さっきのアナウンスでは3年D組までが入れるようになっていると言っていなかったか?

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