第4話~梓サイド~

「みんなおっはよー!」



あたしは元気よく挨拶をしてE組に入る。



その手にはチロルチョコが入った袋を持っている。



「梓おはよ。どうしたのそのチョコ」



「昨日駄菓子の卸売り屋に連れて行ってもらったの。これはみんなにおすそわけ!」



あたしはそう言うとシューズを脱ぎ、教卓の上に立った。



何事かとみんなが集まるのを待ち、チロルチョコをわしづかみにした。



「それー!」



元気な掛け声と共にチョコレートがバラバラとまかれる。



女子も男子も入りまじり、あたしが投げるチョコレートに両手を伸ばす。



それを見ているととても嬉しくて、楽しい気分になれる。



みんながバラバラになっている時でも、持ち前の明るさで一気にその場の雰囲気を変えてしまうのが好きだった。



E組の中では派手なギャルだけどムードメーカーだった。



「ちょっと早紀、なにしてんの」



チョコレートを配り終えた梓は1人机で本を読んでいる小野早紀(オノ サキ)へと近づいて行く。


「え、今本を……」



「あたし、みんなにチョコレート投げてたんだけど、見えなかった?」



あたしはトゲのある声になってしまう。



こうして1人で大人しくしている子がいると、どうして輪の中に入らないのかと思ってしまう。



早紀は咄嗟に本を閉じて「ごめんなさい……」と、小さな声で言ってうつむいた。



「ねぇ早紀。みんなが楽しんでるときには一緒に楽しまなきゃ」



その態度も癪に障った。



まるであたしが意地悪を言っているように見えてしまうから。



「う、うん……」



あたしは早紀の視線に合わせて中腰になった。



早紀はあまり甘いものが好きではないのかもしれないと思いなおし、笑顔を作る。



それでも早紀の表情は険しいままだ。



「早紀って大学進学するんだっけ?」



「うん、一応そのつもり」



早紀はどうにかあたしへ返事をしているが、その視線はキョロキョロと挙動不審で、明らかに誰かに助けを求めていた。



しかし、早紀に手を差し伸べる生徒はいない。



ノリが悪い早紀が悪いのだ。



「もしかして、このまま大学生になるつもり?」



あたしは早紀の前髪を指先で触れていった。



「え……?」



「ちょっと重たいよねぇ? 性格も、見た目も」



あたしはそう言うとニヤリと笑う。



早紀の顔がサッと青ざめるのがわかった。



あたしはハサミを取り出すと早紀の前髪に押し当てた。



「やめてっ!」



早紀は身を引くが、梓は許さない。



「大人しくしてよ!」



思わず怒鳴ってしうと、早紀はビクリと身を震わせて、大人しくなった。



その後はあたしの出番だった。



美容師志望のあたしの腕はまぁまぁだ。



今までだって沢山の友人たちの髪を切ってあげてきた。



どれもいい出来栄えで、みんなしてあたしに感謝してくれた。



早紀はそれを知らず、ただ自分はイジメられているのだと思い、涙を流す。



だけどあたしはそんなことはしない。



そんな幼稚な人間じゃないもの。



「ほらできた!」



ものの5分で早紀の前髪はスッキリ軽くなっていた。



「いいなぁ」



思わずそんな声を漏らす子がいて、あたしは自信に満ちた表情を浮かべる。



「切ってあげようか?」



ハサミを持って移動するあたしの後ろで、早紀はずっと泣いていたのだった。

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