トラップ教室

西羽咲 花月

第1話~夏海サイド~

暗い部屋の中、誰かが消し忘れたのかテレビの音が聞こえてきていた。



有名なニュースキャスターが深刻な声で最近起こった事故のニュースを読み上げている。



そして画面は切り替わり、今度は女性キャスターが原稿を読み始めた。



「○○県、○○市で数日前から行方不明になっている佐竹明伸さんについて最新の情報です……」


☆☆☆


体中が痛くて、あたしは目を覚ました。



目を覚ますと同時に頭痛が襲ってきて寝転んだまま顔をしかめる。



周囲を見回してみると、ここがいつもの自分の部屋ではないことがわかった。



でもよく見たことのある景色だ。



冷たいクリーム色のリノリウムの床には、真ん中にオレンジ色の線がひかれている。



それは様々な人たちに踏まれ、すでに随分と剝がれ落ちている。



上半身を起こしてみると、右手が窓で左手には教室が並んでいるのがわかった。



3年E組という表記は毎日のように目にしている。



ここはあたしが通っている学校で間違いないみたいだ。



自分の格好を確認してみると、なぜか制服姿だった。



「なによこれ」



そう言ったのは同じくE組の生徒。



森谷梓(モリタニ アズサ)だった。



梓は金髪に近い髪の毛をクルクルに巻いた、いわゆるギャル系の生徒だ。



E組の中で一番目立つ存在だ。



近くにいたのは梓だけじゃない。



伊原マリや小野早紀といった、E組の生徒のほぼ全員がいるようだ。



あたしは瞬きをして彼らを見つめた。



彼らもまた、瞬きをしてあたしを見ている。



口々に「どうなってんだよ」とか「なんで学校?」と呟くのが聞こえてくる。



徐々に頭痛が治まってきたあたしは、壁に手をついてどうにか立ち上がった。



廊下に寝ていたため、こんなにも体が痛むようだ。



「なんでE組の生徒だけここにいるの?」



そう言って首をかしげたのは大西優香(オオニシ ユウカ)だ。



小柄でかわいらしく、ふんわりとした雰囲気の優香だけれど、今は不安そうに眉を下げて自分の体を両手で抱きしめている。



「響だけいない」



あたしは短く返事をした。



ここにいるのは13人。



E組の生徒は河野響(コウノ ヒビキ)を入れて14人だ。



その響の姿はどこにもなかった。



「どうでもいいよ。もう出ようよ」



梓が大袈裟に息を吐き出し、そして大股に歩きだした。



どうやら昇降口へ向かうらしい。



ここにいてもやることはないし、外はもう真っ暗なようだし、確かに帰るしかない。



納得して歩き出す。



一歩歩くたびに体のどこかに痛みが走った。



他の子たちも梓に続いて歩き出す。



でも……と、胸に違和感が湧きあがってくる。



あたしはいつも通り授業を終えた後、ちゃんと家に帰ったんじゃなかったっけ?



ご飯を食べてお風呂に入って、自分の部屋に戻った記憶がある。



それなのに、どうしてこんなところで目覚めたんだろう?



疑問を感じて首をかしげる。



もう1度周囲を確認してみるけれど、やっぱりここは見なれた学校で間違いないみたいだし……。



「ねぇ夏海」



声をかけられて振りむくと優香があたしの腕を掴んできた。

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