超絶資産家に産まれてエリート近衛騎士団に入団したのに、コミュ障キモヲタでハブられてる僕には何も起こったりはしないようです。

@TODUCHI

第1話 コミュ障キモヲタ少年がエリート騎士団にやってきた。

《これまでの人生が大きく変わる出来事。》            


そんな出来事が起きたなら、きっと僕は大きな一歩を踏み出し何かが変わると信じていた。いつか、いつか、いつか・・・・・・・16年が過ぎた。何も起こらないまま僕は家を追い出された。


  

「こ、ここ、この度はお引立てい、頂き、ありがとうございます。」


「・・・・・・・・・」


コミュ障な僕が決死の思いで前口上を述べたにも関わらず、カリカリと書き物をしている手は止まること無く続いている。僕は頭を下げた姿勢で返答を待つことにした。


僕の前から数メートル先の机でなにやら書き物をしている「若い女性」が今回僕にとある手紙をくれた人物で、この国 エグルストン皇国の第二皇女 エグルストン・ロンバルド・エリザヴェータ様(16歳)である。


《エグルストン皇国 多数の国が存在するこの大陸に於いて周辺国に睨みを利かせる強国。そしてその中にあってエリザヴェータ皇女は傍若無人な皇女として知られている。》


王侯貴族を前にしての振るまいも、言葉遣いや礼儀作法などの教育も受けていない身なので、いや違う。キモヲタ男なのだからこうしてひたすらお声が掛かるのを待つしかないのだと、自分に言い聞かせながら待ち続けた。


5分ほど過ぎたころだろうか「バシ!」と勢いよくインクの付いたペンが足元のあたりに投げつけられた。


「いつまで無言で突っ立っているの、気持ちの悪い。氏名と用件をさっさと述べなさい!」


どうやら初対面から不興を買ってしまったようだが了承が出たので自己紹介をしていいはずだ。僕は目を合わせ無いよう顔を上げ氏名と用件を告げた。


「も、申し遅れました。近衛騎士招喚通知(ラブレター)をいたた、頂き本日参内致しました ロイ・マクエルであります。お、お目通りに伺いました。」


僕にとっては精一杯な爽やかスマイルで答えた。


「気持ち悪いわね。・・・・自己紹介は正確に言いなさい。ハウンズ・ロイ・マクエル。ハウンズ家の係累であるとの紹介が抜けているわね。やり直しなさい。」


間髪を入れずの返答に少し戸惑う。(落ち込む)しかし「近衛騎士招喚通知」はこの御方からのものだ、僕の身辺にも詳しくて当然ともいえる。一息置いて答える。


「も、申し訳ございません・・・・この度の招喚を受諾したハウンズ家からは出家しての入団を命じられました。でしゅの、ですので家名を名のることが出来ません。」


《ハウンズ家 一国の領地に匹敵する管理地域を周辺国に認めてさせている巨大資産家の一族。各国の重要ポストに一族の人間が就いていることから巷では周辺国の政治を操り私腹を肥やして国家すら牛耳っていると噂されている。》


「カチャ」


皇女の斜め後ろに控える男性から殺気とともに剣の柄を掴むような音がきこえた。

当然だ、どこの誰とも知れない。いや、知れなくなった男が目の前にいるのだ。あまつさえキモヲタ男なので身辺警護にあたる者が警戒をしない訳がない。だがすぐさま制止の手が上げられた。


「・・・そうなのね。ロイ・マクエル。近衛騎士団への入団手続きを了承します。アントニオ。彼を師団長に引き合せて頂戴。」


「・・・承知致しました。」


アントニオと呼ばれた壮年の男性は剣の柄から手を離すと皇女に一礼し、こちらに歩いてきた。殺気を納めていないのは気掛かりではあるが素直に一礼して付いていくことにする。


「しょれ、それでは失礼致します。」


足元に落ちたままのペンを拾い上げ、男性に手渡そうとすると。おもむろに咳払いをしつつ男性は皇女の方を振り返った。


「そのペンは特別に下賜するわ。宝石を埋め込んである高級な品です。大事に使いなさい。」


出家した事を哀れんだのか、癇癪を起こしたことへの詫びか、あるいは下賤(キモヲタ)の者が触れたペンは持ちたくないのか、皇女はそう述べた。見た目かなりの高級品で今の私は家から出されて一文無しも同然だ。有り難く頂いておこう。


「ああそれとロイ。次回からはおもてを上げて私の目を見て話すように。いいわね?」


「!?」「!?」


一瞬思考が停まった。普通王侯貴族との会話は目をふせたまま行う。本来「貴族の信頼を得た者のみ目を合わしての会話が許されているが初対面の相手に許すようなものではない」はずである。決してコミュ障キモヲタだから目を見なかったわけではないのだ!私の横でもう1人固まっている男性がいた。


「・・・・その旨、近衛騎士団長にも伝えますが宜しいですかな?」


「構わないわ。私直々の下命であると伝えて頂戴。」


「承知致しました。ロイだったな、今からの近衛師団に行くから付いてこい。」


エリザヴェータ様なんかカッケー!言葉に詰まって棒立ち状態だった僕にアントニオ氏が扉を開けて話してきた。二人で皇女の執務室から退出するようだ。とりあえず早くでることにしよう。


でもさっきの彼女の言葉が耳から離れない。驚いておもわず顔も見てしまったが・・・。きっと誰しもが彼女の美貌を讃えるだろう。整った顔立ちに黒い艷やか長い髪。黒い大きな瞳。涼やかな口元に凛とした声、それに僕の事をじっと見つめて・・・。


『バタン』


扉が閉まって自分とアントニオが執務室から退出した形になった。アントニオが閉めたのだろうが見惚れてしまってポーっとしていたので助かった。きっとマヌケで気持ち悪い顔をしていたはずだ・・・。


「なにをニヤニヤしている?気持ち悪いぞ、貴様。」


デスヨネー。妄想多くて気持ち悪いの自覚あります。心底嫌そうな顔で言わないで下さい。ヘコミますから・・・。


「よいか?エグルストン近衛騎士団といえば華麗にして勇猛果敢、壮麗にして質実剛健。諸国にも知られたエリート近衛騎士団だ。自分に向いていないと感じたならすぐに早目に可及的速やかに入団を辞退することだ。」


最初の様な嫌味でも茶化しでもない、真面目な口調でアントニオはそう言った。・・・・表情でわかる、この人はきっといい人なんだろう。本気で心配してくれてる。・・・・・と思う。


「だ、だいざ、大丈夫です。な、なんてたなんとか頑張りなめ頑張りますきゃますから・・・。」


・・・大事な言葉はいつもの様に噛み噛みだった。アントニオも呆れたような哀れなような顔で、でも最後は「ぷっ」と吹き出した。


「先ずは落ち着いて会話ができる様になるといいな。」


ソレが出来たら僕は多分ココに騎士団来ていませんよ?《容姿醜悪、意志薄弱、会話も碌に出来ないゴミクズロイ》それがハウンズ家から下だされた僕の烙印なのだ。


そしてそれは当たっている。僕の周りの人間はいつだっていい人達で、冷たくて、辛辣で、冷静だった。


僕にとっては現実(リアル)は優しくも暖かくもなく、どこまでも厳しいのだ。家を出てもきっとそれは変わらない。当たり前のことなのだ。あれれ~なんか目から汗が出そうだぞ〜。

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