第3話 偶然の遭遇

・太一

「よぉ、これから何するよ?」


高校で知り合った友人の太一がつまらなそうに俺に尋ねてきた、そんなこと俺に聞かれても困るのだが。


・「ん~、流石に格闘ゲームで100連戦してれば飽きて来るわな。だが、言っておくが俺の勝ち越しだからな?今週中に晩飯おごれよ。」


晩飯の件を言い出したのは太一だ。

だから必ず守ってもらおう!


・太一

「解ってるって。」


少し不服そうに答える太一。

世の中は甘くないのだ。


・太一

「しかしお前って無駄に強いよな。」


自慢じゃないがこの格闘ゲームはアーケード版でも得意で、地元のゲーセンでの戦績はかなり上位に食い込んでいる、俺の数少ない自慢の一つである。


・「何おごってもらおうかなぁ。」


ただで食べる飯ほど美味い物はない、太一とはちょくちょく晩飯を掛けて色々と勝負していた。


・太一

「そう言えばこの前さ、TVで上手そうなラーメンの特集やってたぞ。」


ラーメンか、、、

良いかもしれないな。


・「その情報詳しく。」


・太一

「ちょっと遠出になるが○○県の○○って店のラーメンが美味そうだったな、シンプルな醤油ラーメンだったが妙に気になった。」


食べ物に関してこいつの勘は鋭い。

今まで外したことが無いのだ。

何か特殊能力でもあるのか?


・「よし、行くか!」


・太一

「今から?マジで?」


思い立ったら即行動、それが俺のモットウだ。

現在の時間は深夜1:30。

うん、我ながら無計画だな。


・「いいじゃん、ドライブついでに行こうぜ。その県なら途中で○○湖があるからそこで寝れば良いだろ?夜の湖って静かで落ち着くんだよね。」


俺はシーバスとかをよく釣りに行く。

他にも湖で色々と狙って夜に行ったりするのだ。

満月や新月、波の具合とか調べて行く位だ。


・太一

「夜の湖か、あまり好きではないな。」


・「まぁ人それぞれだからな。」


実はこの太一と言う男、結構有名な神社の息子だったりする。あまり水辺は行きたくないと日頃から言っていた、だから無理強いは出来ない。


・「んじゃ明日の朝にでも行くか?」


俺には霊感は無い。

霊的な何かに巻き込まれた事もない。

だが太一は色々あるらしい。

詳しくは話してくれないけどな。


・太一

「ん~、寝る場所を高速のインターとかにしてくれるなら今から向かってもいいぞ。」


やはり水辺は嫌らしい。

だが友達の頼みは聞かなきゃな。

俺一人が楽しんでも意味が無いし。


・「よし、んじゃ行くか!」


・太一

「コンビニによって色々と買ってこうぜ。」


太一の同意も得られたので早速向かう事にした。

目指すは3県隣の○○県。

目的は美味いラーメンを喰って帰る事。


・太一

「いいね、テンション上がって来た!」


無計画の旅はこれが初めてではない。

太一が寝ている間に富士山の麓まで行った時もある。

目覚めてからのこいつの一言が面白いのだ。

富士山の時は『壁がある』だったな。

こいつが先に寝たら今回も何かしら仕掛けてやるか。


俺達は車に乗り込みコンビニに向かう。

買い物をしてるとドンドンテンションが上がる。

無駄に食い物を買い込んで車に戻った。


・「ラーメン食いに行く手言ってるのにこんなに食いもん買うかね?」


・太一

「残ったら帰って食べれば良いじゃない。」


今日から4連休、明日も泊まる気だな?

休みの日はいつもこいつが部屋に居る気がする。

これが可愛い女の子だったらな。


・太一

「楽しみだなぁ。」


何だかんだで憎めない奴なのだ。


俺達の車は高速に入った。

暫く走ってから自動車道に入る。

ここからは一直線だ。

とは言え山の中を走るのでクネクネしている。

たまに追い越していくトラックが地味に怖い。


・太一

「トラック運転手って凄いよな、あんなにデカいのにあのスピードで走るんだぜ?どんだけ運転が上手いんだよって言いたくなる。」


激しく同意である。

俺はバックしている大型トラックを見ると尊敬してしまう、自分だったら絶対に出来ないだろうなと思うからだ。


・「この人たちが日頃から頑張って運送しているから、俺達が贅沢できるんだよな。頭が上がらないよ。」


・太一

「全くだ。」


コンビニで買ったお菓子をバクバク食べながら答える太一、そのお菓子もトラックの運送のお陰だからって解ってる?


・太一

「あ、、、この道って。」


太一が不意に何かに気付いた。


・太一

「この先って○○PAじゃね?」


俺はナビで確認する。


・「ホントだ、良く知ってるな。」


何処に行くのも俺が運転している、だからこいつが地名を知っている事は稀だ。いままでの経験上でこいつが高速のPAを知っているって事は高確率であれなのだ。


・太一

「このPAは有名な場所だな、トイレが危ないって言われているが実際はそうじゃない。トイレ側にあるアレが問題なんだ、その影響が出ているだけだ。お前も覚えて置けよ?体調が悪い時はここに近寄るな。」


出た、太一のアレ情報。

絶対に詳しく教えてくれないが危ないって事は教えてくれる、大抵は体調不良の時とか心が弱っている時に近づくなと教えてくれる。しかし世の中にはそんな事お構いなしで影響を出してくる場所もあるそうだ。


その様な場所には結界が張ってあるらしい。

こいつと居ると色々教えてくれるのだ。

詳しくは教えてくれないけどね。


・太一

「霊感がどうのこうの言っている奴が多いが霊感なんてものはない、感性が鋭いかどうかだ。だから一度その様な怖い経験をしてしまうと感覚が鋭くなる、言ってみれば防衛本能だな。だからお前も心霊スポットとか行くんじゃないぞ?大抵は雰囲気が怖いって場所ばかりだが中には本当にやばい場所もある。どうしても行きたいって場合は必ず俺に言え、殴ってでも止めてやる。」


何とも頼もしい友達である。

でも出来れば殴らずに止めて欲しい。


車はアレなPAを通り過ぎた。

その頃、少し雨が降って来た。

嫌なタイミングだな。


・太一

「なぁ、ちょっとこれ持ってろ。」


唐突に何かを渡された。

何だろうこれ。

不思議と何を渡されたか認識できない。

何だろう新しい遊び?マジック?


・太一

「、、、」


太一が何も言わなくなった。

俺は時に気にしなかった。

でも、少しだけ違和感を感じた。


何となく音量を上げた。

楽しい歌で気を紛らわせたかったのだ。

俺と一緒に居る時に太一が黙る時。

それは主に3種類だ。


・寝ている時。

・怒っている時。

・危険が迫っている時。


太一は俺に何を渡した?


・太一

「クソ!」


突然太一が叫んだ。

そして太一のお経が始まった。


・「おい辞めろよ、ビビって事故っちまうぞ。」


しかし太一には届かない。

太一はお経を続けている。


・「なぁ、マジで辞めて。」


俺の願いは聞き入れてくれない。

こんな太一は初めてだ。


その時ふと気づいた。

気のせいかな?

気のせいだよな?


何で、、、


歌じゃなくて悲鳴が聞こえるの?


・「グッ!」


頭が痛い!

何だ?突然?

頭が死ぬ程いたい!

こんな痛み初めてだ。

右側の頭が割れる様に痛い。


太一のお経は尚も続いている。

俺は運転しながら固まってしまった。

前しか向けない。

太一の方を見られない。


不思議だ、、、。

まるで第三者の視点で見ている様だ。

太一が座ってる。

俺が運転している。


それを、、、上から見ている?


ナビが赤い。

悲鳴が聞こえる。

俺が運転している。

太一が、、、


・「痛ぇぇ!」


視点が一気に元に戻る。

頭痛が増した。

右側だ、右側が痛いんだ。


相変わらず首は動かない。

固定されているんだ。

しかし手が勝手に動く。

お陰でカーブは曲がれている。


頭が、、、頭が痛いんだ。

どれだけ時間が経ったんだ?

もう太一の声は聞こえない。

ただただ悲鳴だけが聞こえる。


痛い、痛い、痛い。


ふと、、、痛みが消えた。


あれ程痛かった痛いが消えた。

悲鳴も消えた。

太一の声も消えた。


でも、そこに居たんだ。

俺の目はまっすぐ前を向いている。

視界の隅から少しづつ、、、


誰かの顔が入ってくる。


少しづつ、、、

髪が、、、

目が、、

顔が、

見え始め、、、


パァーーン!!


隣で大きな炸裂音がした。

太一だ!

太一が手を勢いよく合わせた音だった。


・太一

「大丈夫か!!」


その言葉で我に返る。

一瞬のパニックで運転操作をミスりそうになる。


これが夜中で良かった。

ここが2車線で良かった。

路肩がある道で良かった。

他の車が居なくてよかった。


太一が教えてくれた。

かなり蛇行運転をしながら走っていたらしい、太一はそれでも事故らずに運転していた俺に感謝してくれた。

正直、何が起きたのか解らなかった。


俺は次のSAで車を止めた。

多くのトラックが止まっている。

人が多くいるとホッとする。

SAで本当に良かった。


・太一

「運転してたのがお前で良かった。」


・「何が起きたんだ?」


太一は答えるべきか悩んでいる。


・太一

「出来れば話したくない。

お前に嫌われたくないんだ。」


かなり落ち込みながら太一が答える。

どういう意味なんだろう?


・「そうか、なら無理に話さなくていいよ。本当は知りたいけど無理に聞いて太一に嫌われるのは俺も嫌だしな。」


正直言うと詳しく聞きたい。

でも聞く事で太一との仲が悪くなるのなら聞かない方が良いだろう、俺はこいつとはずっと友達でいたい。


俺達はSAの中に入って落ち着く事にした。

人がいるとホッとする。

明るいとホッとする。

俺はタダで飲める暖かいほうじ茶を飲んだ。

一口ごとに落ち着きを取り戻していく。


こんな気持ちになるのは久しぶりだ。


マジで怖かった。


暫くして車に戻る2人。

太一はずっと何かを考えていた。

俺は何も聞かないで一緒にいた。


・太一

「やっぱ話すわ。」


太一が何かを決意した。


・「お?無理しなくていいぞ?」


・太一

「いや、友達なら話しておきたいと思ってな。この話をしたくなかったのはこの手の話をすると友達が離れていくんだ、信じろって言うのが無理な話だしな。だけど今回の話はした方が良い、俺の事を嫌いになっても良いから今から俺の実家に行こう。」


妙な言い回しで話してきたな。


・「んと、その口ぶりから考えてみると。結構深刻な感じ?」


太一は何も言わずに頷いた。


・太一

「お前に今は2人憑いている。」


・「マジか。」


・太一

「本当にすまない。」


太一が謝ってくる。

いやいや、太一が悪い訳じゃないし。

憑いているって実感が無いから何も言えない。


・「謝るなよ、何が起こってるのか解らないけどお前の言う事なら信じるぞ。俺はどうしたらいい?」


・太一

「笑わないのか?」


太一は恐る恐る聞いて来た。

昔、何か嫌な事があったのか?

だが俺とお前の友情はそんな事では崩れぬ。


・「友達だろ?」


俺の言葉で太一が頷いた。

太一は車から出て誰かに電話をし始めた。

どうやら実家に電話している様だ。

電話をしながら何やらやっている。

車の周りをぐるぐる回った後、車に乗り込んできた。

そして詳細を教えてくれた。


・太一

「いいか?さっきの場所で事故があった、恐らくバスだと思う。俺達は丁度そこに出くわした。」


・「マジで?」


・太一

「ああ、事故が起きたのは今じゃない。だがそう遠い過去の話でもないだろう、たまたま俺達の存在とバスの何かが繋がってしまったんだ。」


そう言って太一は何やら絵を描き始めた。

俺はそれを眺めている。


しかし過去にあったバスの事故か。

そんな事が本当にあるのかね?


って、おいおいマジか?


・太一

「こんな顔を見ただろう?」


その顔は俺の視界に入って来た奴の顔だ。

何で知ってる?


・太一

「こいつがお前に憑いている、そしてそれに連なる様にもう一人が。恐らくその後ろにもいる筈だ、これから徐々にこちら側に来るはずだ。」


・「こちら側?」


・太一

「お前の視界、つまり意識の中に入り込んだ奴がこちらとあちらを繋げるんだ。今はまだ弱いが増えるにつれて強力になっていく。このままいけば、お前は死ぬ。」


とんでもない事を言われた。

俺が死ぬ?

そんな事、、、


・太一

「俺はお前を死なせたくない、でも俺の力じゃ助けられない。」


まるで死刑宣告だった。

そんな事ある訳ないだろって言いたい。

でも太一の顔を見ればわかる。

本当なんだな。


・「俺は、、、」


・太一

「大丈夫だ、対策はした。」


そう言いながら太一は俺に何かを渡してきた。


・「これってお札?」


紛れもなくお札だった。


・太一

「簡易的なお札だよ、さっきのやつはもう使えないから返してくれ。」


さっき貰った物を見た。

黒い丸くなった物体だった。

あれ、こんなんだったっけ?


・太一

「真っ黒になって丸まってる、これじゃ使えない。さっき渡したのも同じものだ、とても同じものとは思えないだろう?」


マジでか、全然違うやん。

貰った時もお札とは気付かなかった。

本当に同じものだったのだろうか?

そんな風に思えてならない。


・太一

「あの時は既に半分程入ってたからな、お札に見えなかっただろう?」


何も言わずに頷く俺。


・太一

「ちなみにナビから聞こえる悲鳴は俺も聞こえていた、壮絶な事故だったんだろうな。」


もう何が何だかわからない。

少しボーっととしてきたし。


・太一

「強いな、、、。」


太一はまた車から出た。

そして車の周りをぐるぐる回り始めた。


電話もしてるな。

誰と、話してる、のかな?


俺の意識はそこで途切れた。



~次の日~


俺は背中の衝撃で目を覚ました。


・「あ、、、、」


畳が見えた。

周りを見回してみる。

見覚えがある、太一の家だ。


結構大きな神社である。

そこで目を覚ましたのだ。


・太一の父

「もう大丈夫、これを飲みなさい。」


キョロキョロする俺にお茶を差し出してくれた。

いつの間にここに来たんだろう?


・太一の父

「暫くは毎日ここに通いなさい。」


太一の父親はそう言って部屋の奥に向かった。


・「何があったんだ?」


・太一

「大丈夫か?」


太一が話しかけてきた。


・太一

「親父が時間を掛けて処置してくれる。

もう大丈夫だ。」


泣きそうな顔をしながら俺にそう伝えてきた。


少しづつ思い出してきた。

そうか、俺は気を失ったのか。


あの時、ボーっとする意識の中で声が聞こえた。


『つ、ま、、た』


俺は再び太一を見た。

まだ泣きそうな顔をしている。


そうか、、、。


俺は理解した。

理解できてしまった。



それから俺は毎日太一と共に神社に通った。

少しずつ良くなってくると太一は教えてくれた。

毎回、俺にすまなそうな顔を向けながら。


安心してくれ、俺は恨んではいない。

あんな事は予想出来なかった。

だから太一は気にしなくて良いんだ。


不思議と後悔はしていない。

防ぐ事など出来なかった事だから。


でも少しだけ考える時もある。

あの時、ラーメンの話をしなかったら。

朝までゲームをしていれば。


俺は、、、。


死ぬ事にはならなかっただろう。

俺は、後どれだけ生きられるのだろうか?

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