第七節の4 『P.A.プライベート・アクトレス』

『P.A.プライベート・アクトレス』(九八年一〇~一二月)脚本・野依美幸


「生まれ変わっても、私でいたい……」

 ビルの屋上にある看板を、向かいのビルの屋上で読んでいる、小早川志緒(榎本加奈子)。看板にはその文言と、笑顔の女優、永沢さゆり(萬田久子)の笑顔。志緒は、続いてつぶやく。

「生きるべきか死ぬべきかそれが問題だ。……そんなことで悩むなんて、ハムレットってやっぱりバカね」

 彼女が底抜けの楽天家だということを、まず示しておいて、そんな彼女を日青プロダクションの社長、二階堂義孝(岩城滉一)がスカウトする。息もつかせず、赤坂泰彦のナレーション。

「Perfume of love.I saw a child playing the river.(注)天才的な演技力を持つ少女、小早川志緒、セブンティーン(テロップでは「十七歳」)。実は彼女、清純派女優、永沢さゆりの隠し子である。彼女が演じるステージは、テレビや映画ではなく、現実世界。依頼を受け、報酬と引き替えに個人的なある人物を演じる、女優。少女がセーラー服を脱ぎ捨てたとき、人は彼女をこう言う。プライベート・アクトレス」

 もう、このナレーションだけで、話が分かってしまう、密度の高いオープニングなのだが、とにかくそういうわけで、志緒は毎回、現実のある人物を演じ、それが結果として、事件の解決につながる、という構成になっている。

 代表的な回を挙げてみると、「P.A.3(つまり第三話)もうひとりの自分」辺りはいかがだろうか。

 放課後の、誌の朗読会ですっかり退屈している志緒に、二階堂から電話が入る。指名した依頼人は響野鈴香、一七歳(水川あさみ)。詩のサイトで出逢った、海人(井澤健)という男子とメール交換をしていてデートに誘ったが、イメージが違いすぎるので代わりにデートしてくれ、と。そんなの自分で行けば? という志緒に、鈴香は顔の、ひどいやけどの痕を見せる。

 しかし、待ち合わせのミュージカル会場に、海人は来ない。メールの内容から、海人は鎌倉にいる、と察して向かった志緒は、そこで万引きをしている青年と遭う。それが杉浦海人だった。海人はごりごりの受験生で、予備校の校長である父(大竹まこと)の、広告塔になっている。追い払われる志緒。

 鈴香に責められた志緒は、予備校に行ってみるが、海人の態度から、彼が、鈴香の知っている海人ではないことを察知する。志緒の母、さゆりは、メールの内容から、発信者はかなり年上の、芸術家、と断定する。

 手がかりを求めて、志緒は再び杉浦邸へと向かう。「あなた、東大へ行って、官僚にでもなるつもり?」「それも悪くない。別にやることもないし」「死んでるんだね、あなた」「え?」「生きてても、死んでるってこと。そうやって一生、生きて行くんだね。親の顔色うかがいながら」。そこで志緒は、海人には画家の祖父、遊人(天本英世)がいることを知る。療養所で長いこと寝たきりの遊人は、鈴香(つまり志緒)に逢って喜ぶ。

 一方、海人は予備校で、模試の最中、時限爆弾を起動させる。彼は、父の広告塔になっている自分にうんざりしていたのだ。例によって赤と青の線があるが、まあまあスマートに解決され、志緒は、海人と父に、祖父の話を語る。ようやく親子、祖父と家族の絆が結ばれ、海人は亡くなった祖父の代わりに、本物の鈴香へ逢いに行く――。

 ここで紹介した土九のドラマの中でも、この作品はずば抜けて、主人公、志緒と母親、さゆりとの仲が良く、ドラマのバランスも良いし、内容も濃い。

 最終話、新人俳優に扮した志緒が、任務を終えたとき、さゆりは志緒を女優にさせたがったが、志緒は断わる。

「今、こうして、私はここに生きてる。それだけで充分よ。P.A.が好きだから。P.A.やってる今の自分が好きだから。今のママが好きだから。そんで、今の二階堂さんが好きだから。今のまんまがいちばんいいの」「生まれ変わっても私でいたい?」「もちろんよ」。

 ウィキペディアによると、榎本加奈子は『家なき子2』での驕慢な憎まれ役が受け、ブレイクにつながったとある。スタッフには大変礼儀正しいそうだが、そうでなければ、同じ土九枠で二本、あるいは三本の主役(『FIVE』を、一応主役に含めて)を演じることはなかった、とほぼ断言できる。スタッフに嫌われて続編がなく消えていった、というのも、よく聴く話だ。

 ちなみに、ウィキペディアに載っている設定、ストーリーは、すべて原作(赤石路代のコミック)によるもので、ドラマとは大きく違っている。

 この『P.A.』における榎本加奈子は、明るく好感の持てる役作りで、見ていて気持ちがいい。陰惨な事件もなく、ドラマ全体が明るい、楽しめる一篇である。


*Perfume~――小室哲哉率いるバンド、gloveによる主題歌『Perfume of love』の一節。


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