神様と約束する方法
村乃枯草
プロローグ
九月に入った最初の日曜日、空はよく晴れている。墓地に並ぶ日本式の墓の灰白色が明るく見える。
「母さん、来たよ」
瓜実顔をした一人の少年が「葦名家代々之墓」と記された墓の前に立った。墓を参る人はまばらで二メートル以上間隔が空いているのだが、少年は周囲に合わせてマスクをつけている。
少年は墓石の上から水をかける。
古くからの墓も多くある中、その墓はまだ真新しい。墓の右側にある代々物故者一覧は、先頭の夫婦の行に妻の名前が刻まれているのみ。享年三十九歳。没年は令和元年。二年前のことだ。
「今年はまだまだ大変だよ。先生から話があったけど、コロナの予防接種は、僕たち子どもには年内にまわってくるか分からないんだって。あ、忘れてた。父さん達『働く世代』も、予防接種はもうちょっと待たされるって。こうなったら感染しないように気をつけるしかないね」
少年は、墓石に聞こえるように呟きながら座り込む。その声に周囲の蝉の声が混じる。少年はガスライターで線香に火を点け、墓石の前に立てる。
「僕は元気に生きるよ」
少年は呟きながら厳かに手を合わせた。
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