エビピラフ

 昼ごはんに、エビピラフを食べた。何と説明すればいいのか難しいが、私にとってエビピラフは食べ残してはいけない物なのだ。不思議な話ではない。誰でも一つくらいは、゛思い入れのある物゛を持っているだろう。それが、私の場合エビピラフだったというわけだ。


 ただ、勘違いしてほしくないのは、私はエビピラフが好きなわけではない。むしろ、残してはいけないので、なるべく食べないようにしている。しかしどうしても食べる機会が訪れてしまうことがある。


 何故そのような変わったこだわりを持つのか。自分自身でも馬鹿らしいが、仕方ない理由がある。理由などと大仰おおぎょうな言い方をするが別に大したことないかもしれない。


 始まりは昔、私がまだ幼稚園に入るより前だったから、3歳位のことだろう。


 私の家の両親はそれほど仲の良い夫婦ではなかった。普段は普通なのだが、ことある度に喧嘩をし、暴力沙汰になることもあった。小さな子どもがいる前で。始めは軽い口論から発展するのだが、父は次第に壁や洗濯カゴ等、周囲の物にあたるようになり、物を投げ、やがて母親を直接蹴る等の暴力に発展した。


 そんな子ども時代のある日、夕飯にエビピラフが出てきた。初めて見たエビピラフ――それはとても美味しそうに思えた。


 エビピラフが食卓で並んだ位の頃に、父親が仕事から帰ってきた。その後、父と母がいくつか言葉を交わしたあと口論に発展した。そして、父が感情を抑えきれず、エビピラフが乗った机をひっくり返した。もちろん机上のエビピラフは皿ごとひっくり返り、無残に床へ飛び散った。


 私はそれを一口二口しか食べておらず、もっと食べたかったと思った記憶が今でも鮮明に残っている。幼かった私は床に落ちたにも関わらずそれを食べたが、少し食べた所で母に止められた。その後、代わりの料理が出て来たのだが、エビピラフを食べたかった感情が強く残っていた。そして、大人になった今でもその感情が残っているのだ。


 なので私はエビピラフを見ると、昔を思い出して切ない気持ちになる。これは決して残してはいけない物なのだと無意識に思ってしまう。


 今日は、昼ごはんにエビピラフを食べた。


 あの時の私よ

今日はエビピラフを完食したぞ。

過去の私にそう話しかけた。しかし、この切ない感情は一生消えることはないだろう。

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