フラれたアイドルを慰めたら、なぜか仲良くなってました

楠木のある

第1話 女性との出会い

「優、これやったら上がっていいぞ」


 店長にそう言われて渡されたのは、スポンジと洗剤だった。


「店長これは一体・・・?」

「見て分かるだろ、スポンジと洗剤だよ」

「それは分かるんですけど、これで何をすれば」


 店長に「ん、」と指さされたのはキッチンの流し台に置いてある、食器だった。


「えっと、洗えって事ですか?」

「せいかーい、じゃあ、それやってねー?」

「はい・・・・・・」


 はぁ、とため息がでる。時計を見るともうすぐで21時を過ぎそうだった。

 しかし、時間が過ぎて行く一方で、食器の数は一向に減っている気がしない。



「はぁ、何時に帰れる事になるのやら」


 黙々と皿洗いをすること30分位、やっと皿洗いを終えたのも束の間もう既に21時を過ぎていたので、急いで帰る準備をした。


「それでは、帰らせてもらいます」

「あいよー、明日もよろしくー」


 その店長の態度に手に持っていた、カフェオレを投げつけてやろうかと思ったが、そんなことをしても何にもならないので、すっと手を下ろす。



「やばいやばい!早く帰らないと」


 22時を回ってしまうとまだ未成年なので補導されてしまうので、走って家に帰る。

 幸い、バイト先からは10分もしない、バイトの履歴書にも、近いからと書いたが、なぜか受かってしまったのだ。



 そして、見慣れた公園の横を通ると、暗くてよく見えなかったが、ブランコに誰かが、座っている気がした。


(おいおい、まさか・・・幽霊とかじゃないよな?)


 恐る恐る、近づいて目を凝らして見てみると、1人の女性が、ブランコに座っている。

 こんな遅くに何してるんだ?単純な疑問が湧いた。


「あの、こんなところで何してるんですか?」

「・・・・・・・・・」


 思い切って、その女性に話しかけてみたが、反応がない、ずっと黙っている。


「あの、もう少しで22時になるんですけど、」

「・・・・・・・・・」

「なんで黙ってるんですか?」

「・・・・・・・・・」



 何を聞いても答えないので、その場を去ろうとすると


「・・・です」

「えっ?」


 思わず振り向いた。あんなに黙っていた女性が、口を開いたのだ。


「私、お金持ってないです、だから、お金がほしいなら他の人に当たってください」

「は?お金?俺はただ、あなたが心配だから言ってるんです」

「心配・・・ね、そんなお節介要らないわ」


 なんだこの人、だったら最初から黙ってないでそう言えばいいのに。


「すみませんでした」


 少し強めに謝り、その場を去る。すると、1人男が歩いてきた。フラフラしていて、完全に酔っ払いだった。


 その酔っ払いのおじさんが、女性が座っているブランコの前に立つ。


(やっぱり、みんな心配するんだよ、この恩知らずがっ!)


 心の中でそう叫んだ、しかし自分が思っているのとは別で、おじさんがいきなり女性の手を掴んで引っ張っていた。


 暗くても、視力は悪くはないので、顔は見えなくても、何をされているかは分かる。


 心臓がドクンドクンと早くなる。こんな場面には一度も遭遇したことがないので、とても怖い、しかし、今動かなかったら絶対に後悔すると、思い、全速力で、女性のもとへ駆け込む。



「いたいた!、すみません俺のつれが、迷惑をかけて」

「あぁ〜ん?だれだ〜?お前」

「その子の友達です」


 女性はそれを聞いて驚いていたが、「そうなんです」と、話に乗ってくれた。


「だから、その手を離してください」

「チッ、せっかく一発イケると思ったのに」


(いや、心の声ダダ漏れですから・・・)


 男は少しムスッとした声でそう言い、またフラフラと公園から出て行く。


「とんだ変態親父だったな」

「あなた、優しいとか通り越してバカなのね」

「は?バカ?どういう事だよ」


 またこの女は人の善意をなんだと思っているんだ、勇気を出して飛び出したというのに。


「だってそうでしょ?見ず知らずの女なんて、普通は、無視するでしょ」

「それがどんな状況でもか?」

「どんな状況でもよ」


 俺がおかしいとは思わなかった。なぜなら絶対にあの状況で、俺じゃなくても、助けに行く人はいるこの女がおかしい、そう思いたかった。



「とにかくだ、もう帰れよ、さっきみたいな奴がいるんだから、今時小学生でも分かるぞ」

「別にいいじゃない、私がどこに居ようと、私の勝手でしょ?」



 その言葉からは、なぜか悲しみが混ざっていた。


 「あぁっ!もう!お前俺の家来い!」

 「いきなり何を言い出すの?君も体目的?」


 本当だ、いきなり何を言ってるんだ俺・・・・・・



「ちっ、違う!このままあんたを放っておけないだけだ」

「なんで?どうしてそこまでするの?あなたにメリットは?」


 確かにメリットはないし、デメリットの方が多いかもしれない。

 でも、一つだけ言えることがある。


「メリット、デメリットで人助けは、するもんじゃない」


 それを聞いて女性は「あっそ」とひとこと、それを言って立ち上がった。


「家どこ?」

「えっ?結局来るのか?」

「アンタが来いって言ったんでしょ!勘違いしないで、このまま警察の世話になるのが嫌なだけよ」

「そうだな」


 俺は一言そう言って、彼女を自分の住んでるマンションに連れて行く。

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