第6話 アユムとシュウジ

 青い空の下。アリサはベンチに座って焼きそばパンをモグモグと頬張る。


「ま、こう言う事もあるよアユム君。」


隣で肩を落とすアユムにアリサは声を掛ける。


「全っぜんいいとこ見せられなかったじゃないか!」


アユムははぁとため息をつき頭を抱える。

まぁまぁとアリサがなだめる。


「もうゲームの中でいいとこ見せようとしなくてもいいんじゃない?リアルで頑張ろーよ。」


「それが出来ねぇから困ってんじゃん!」


「何いばってんのよ。」


アリサの正論にアユムは再び肩を落とす。


「しかも相手があのシュウジって!あいつなんなの!?勉強も出来て、運動もできて、顔もかっこいいじゃん!ゲームぐらいオレに勝たせてくれてもいいじゃん!?少しぐらいなんか才能分けてくれてもいいじゃん!」


「もー、じゃんじゃんうるさいなぁ。

砂の国の傀儡使いにでもなっちゃったわけ?

落ち着きなよ。」


「くっそー、これじゃあレナにいいとこ見せられない、シュウジにも負けっぱなし、オレの高校生活おじゃんだよ。」


「おじゃんだねぇ。」


アリサが哀愁を漂わせて言う。


「ところでさ。アユムとシュウジ君って中学一緒だったんだよね?」


その質問にアユムは顔を上げる。


「そーだけど?」


「仲良かったの?」


その言葉にアユムは顔をそらす。


「べっつに、そんなしゃべった事はなかったよ。てか向こうは別にオレの事なんて眼中になかったんじゃね?」


「そーなの?」


「知らねーけど」


「なーんか、シュウジ君の事になるとアユムはいつもムキになるよね。」


ムキになってる?オレが?

アリサは焼きそばパンをいちごオレで流し込むと立ち上がった。


「次、移動教室だからもう戻らないと!」


「ああ。」

アユムもそう言われて立ち上がる。


アリサと2人で教室に戻ると、教室にはすでに何人かの生徒しか残っていなかった。


「やっば、急がないと。実験室だっけ?」


アリサがアユムに尋ねる。


「たしかそう。」


アユムは机から化学の教科書を取り出しながら適当に答える。


「予定変更あったぞ。五限目は特別教室Bで英語だ」


そう声を掛けてきたのはまだ教室に残っていたシュウジだった。


「お!ありがと、シュウジ君!」


アリサはにこやかにそう答えると、シュウジはおうと笑顔をむける。アユムはシュウジを睨む。


「昨日はよくもやってくれたな。」


シュウジは一瞬の間の後に、


「ああ、ゲームの事か。そういえば昨日アユムをキルしたのオレだったな。」


くっそ。とぼけやがって。それともほんとに覚えてなかったのかこいつ。


「まぁまぁあんなのゲームなんだから。そんなムキになるなって。」


シュウジは落ち着いた声で言う。


「シュウジ君すごいよねぇ。今やっぱり成績一位なの⁇」


アリサが尋ねる。


「もちろんって言いたいところなんだけど、オレのパーティは今全チーム中成績3位だよ。」


「えー、すごい!私達のチームなんて、、ねぇ?」


「ねぇってなんだよ!」 


わざとらしく話を振ってきたアリサに、アユムは強い口調で返す。


「オレはすぐお前に追いつくぞ!」 


アユムはシュウジを睨んで言う。


「まーた、ムキになっちゃってぇ。」


とアリサが言う。


「黙ってろよ、アリサ。」


アユムは強い口調で言う。それからひとしきりシュウジを睨んだ後、踵を返して教室を出ようする。


「あ、待ってよアユム。次英語だって。化学の教科書持ってどこ行くわけ?」


「あ、やべ」


そんな2人の姿を見て、シュウジはやれやれと呟く。それから二人に聞こえないような小さな声で言った。


「ムキになりたいのはこっちの方なんだけどな。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る