第16話 賞金稼ぎ その4


 アーリン達を追って俺は森の中を走る。

多少距離が離れていてもワーウルフの嗅覚がすぐに彼女たちを見つけ出した。

木の上に登って観察すると、彼女たちは慎重に東の森を進んでいる最中だ。


 まだ街からは離れていないので、この辺りでは強力な魔物が出てくることも少ない。

強敵はだいたい森の深部に住んでいるのだ。

この辺をうろついているのは小さな昆虫系やゴブリンなどのザコばかりなので心配は少ない。


 賞金稼ぎの戦い方はだいたい二つに分かれる。

一つは圧倒的な武力で魔物を打倒するというやり方。

実力のあるメンバーがそろっているとこれになる。

俺がかつて所属していたチーム・ガルーダもこの戦闘スタイルだった。

戦闘に時間がかからず効率よく稼ぐことができる。


 その一方で罠に誘い込んで魔物を狩るという方法もある。

ほとんどの賞金稼ぎチームはこちらだ。

効率は悪くなるがリスクは少なく、堅実なやり方と言える。

罠にもいろいろあって、それぞれのチームごとに特色があった。


 アーリン達も後者のスタイルで魔物を狩るようだ。

本日はアーリンの復帰初日ということでゴブリンや昆虫系の小物を狩って、勝負勘を取り戻すと言っていた。

三人は魔物の痕跡を辿りながら、慎重に、かつ素早く森の中を進んでいく。

俺が考えていた以上に三人は熟達した賞金稼ぎのようだ。


 チーム・パルサーは森の中を小一時間歩いて目的地へと到着した。

そこは複数の魔物の通り道になっている場所のようだ。

三人は手分けして罠を仕掛けている。

一般的なくくり罠や毒餌どくえなどを使うみたいだ。


 アーリンは目立たない細い糸を樹の間に結び付けていた。

糸にはいくつもの釣り針がぶら下がっていて、そこには毒薬が塗ってあるようだ。

仕掛けに気が付かない魔物が通過すると、針が肌を刺し、知らないうちに体が動かなくなってしまうというトラップである。


 この罠は有効なのだが、いかんせん一回に送り込める毒の量が少ない。

ゴブリン程度なら殺すこともできるだろうが、大型の魔物となると動きを鈍らせるくらいが関の山だ。

おそらく、弱った相手を遠距離攻撃で仕留めるのだろう。


「毒針を自分に刺さないように気を付けなさいよ。ここには優しく介抱してくれるお医者様はいないんですからね」


 ニナがアーリンをからかいだした。

それを受けてメルトアまで悪乗りしている。


「大丈夫か、アーリン。傷口を見せてみろ。今俺が吸い出してやる!」


 あれは俺の真似か? 


「あーん、このGカップの胸に針が刺さってしまいましたぁ」

「ここか? ここなのか? ちゅうちゅうちゅう」


 俺の真似をしたメルトアがアーリンの真似をしたニナの胸に顔をうずめて、毒を吸い出す真似をしている。

こいつら、アホすぎるぞ……。

そんなことをすれば俺まで毒に侵されてしまうだろうが。

だいたい俺はもっとテクニシャンだ!


「もう、ふざけていないでちゃんと仕事をしなさい! それにクラウスさんは真面目だからそんなことはしません!」


 え、すごくしたいんですけど……。


「何言ってるの、男なんてみんな女のおっぱいが大好きなんだからね」


 と、ニナ。


「そうよ、クラウスさんだってアーリンの体を絶対にエッチな目で見ているんだから!」


 と、メルトア。


「そ、そうなのかな?」

「当り前じゃない! 実際のところアンタたちはどこまでいってるのよ? もう一緒に寝たの?」

「そんなこと!」


 恥ずかしがるアーリンにメルトアがさらに切り込む。


「キスくらいはした?」

「それもまだ……」

「ちょっと信じられない! 本当なの?」

「だって、クラウスさんはなにもしないし、私から求めるのも恥ずかしいじゃない」


 アーリンが相手だと、どういうわけか俺も恥ずかしくなってしまうのだ。


「アーリン的にはどうなのよ? キスとかセックスとかしたいって思わないの?」

「だって、まだ知り合ったばかりだし。まあ、キスくらいは憧れるし、もっと触れ合ってもいいかなとは思う」


 そうだったのか!!!!


「つまりまったく興味がないわけじゃないのね?」

「興味くらいなら……」


 それを聞いて安心しまくっている俺がいる。


 メルトアは腕を組んでアーリンに説教を開始した。


「アーリン、もう少し積極的にしたらどう?」

「いきなり何よ?」

「クラウスさんのことが好きなんでしょう?」

「それはまあ……。一目惚れみたいなところはあったけど、付き合ってみたらすごく優しいし、私のことをいっぱい気にかけてくれるし、反応が素直でとってもかわいいの」


 やばい、いろんな感情がまぜこぜになって気が遠くなる。

このままでは隠れている枝から落ちてしまいそうだ。


「メチャメチャのろけるじゃん……。だったら、もっと親密になりなさい」


 いいぞ、メルトア、どんどん煽ってやれ! 

褒美ほうびに余っているベーコンとソーセージを全部お前にやる! 

副賞として100万クラウンを付けてもいいくらいだ!!


「親密って言ったって……」

「私たちは賞金稼ぎよ。いつ死ぬかもわかんないの。できるうちに人生を謳歌おうかしなさい」

「そんなこと……。それに私は死なないよ。アメミットを倒すまでは絶対」


 アーリンは真剣な表情でメルトアを見つめ返す。

メルトアもニナも真面目な顔になった。


「そうだね。それは私も譲れない。家族の魂を開放するんだからね」


 三人の女の子たちは頷きあった。

彼女たちの目標はチームを大きくして、有効な魔道具を買い集め、いつかアメミットの討伐へ行くことだ。


「よし、罠の設置を急ぎましょう。お遊びはこれくらいにして」

「なによ、ふざけ始めたのはニナでしょう!」


 三人は罠を仕掛けて、少し離れた場所へと移動した。


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