魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります~父が老弱して家が潰れそうなので戻ってこいと言われてももう遅い~新しい家族と幸せに暮らしてます
第30話 番外編 キムのその後【サイド:キム】【ざまぁ】
第30話 番外編 キムのその後【サイド:キム】【ざまぁ】
金も家もない、頼れる身寄りもないキムは、一人夜の街をさまよっていた。
「なんで私だけがこんな目に……。お父様も、アルも、ベラも許せないわ……」
もう三日ほども飲まず食わずでいる。
元居た街にいてはまたいつ石を投げられるかわからないので、今は別の街にいた。
都会にくれば、自分を知る人はいないだろうということで、ある程度賑わいのある街を選んだ。
それに、都会であればなにか仕事にもありつけるだろうという考えもあった。
だが世間はそれほど甘くはない。
キムは根っからの貴族家庭で育ったせいで、家事のスキルなどはてんで身についていない。
使用人やアルにばかりまかせていたツケがまわってきたというところだろう。
よって彼女にできる仕事などはこれっぽっちもなかった。
それに、仮にそれらの仕事ができたとしても、やはり彼女を雇い入れるところは多くはなかっただろう。家も金も、身分も失った彼女は、もはや何者でもないのだ。
身分を証明しようにも、それをする術を彼女は知らない。
とうとう打ちひしがれて、もうこのまま死ぬのかと思った彼女が最後に行きついた先は、娼館だった。
ラドルフがよく利用していたなと思うと、キムは虫唾が走る思いだった。
だが最後の手段と思い、店の前に立った。
「いや……やっぱり……」
だがいくら空腹でも、なかなかその門をくぐることは難しい。
なにせ彼女は箱入り娘だし、なにより貴族としてのプライドがそれを許さない。
「はぁ……」
結局諦めて、元来た道を引き返す。
途中、定食屋の前に立ち止まり、お腹の虫を鳴らす。
そんな彼女を見かねてか、声をかける集団がいた。
「よう姉ちゃん、お腹空いてるのかい?」
キムが声の主を見やると、3、4人の屈強な男たちがそこにいた。
「俺たちもちょうど仕事終わりでよ、よかったらいっしょに食うかい? おごるぜ?」
男たちは見るからに肉体労働者で、いわゆる労働者階級のものたちだ。
キムのような貴族からすると、下々の者にあたる。
しかも彼らは一日中働いていたせいか、煤で汚れ、汗でひどい悪臭を放っている。
そのような者たちと食卓をともにするなど、キムとしては考えもしなかったが、背に腹は代えられない。
この悪臭を二、三十分がまんすれば、娼館なんぞに行かなくて済むのだ。
そう思うだけで、なんだかキムは耐えられそうな気がした。
「そう、よろしくお願いするわ……」
力なくキムは提案を了承する。
「っへっへっへ、よろしくな」
男たちに連れられ、キムは大衆食堂へと入る。
このような食堂を利用することは初めてだったが、久しぶりの食事で、キムは心底満足する。
適当に相づちを打って、男たちの会話をやり過ごす。
中にはセクハラまがいのものもあったが、一食の恩があると思ってなんとか耐えた。
ようやく男たちは酒を飲み干し、店を出ることとなった。
食堂からしばらく歩いたところで、キムは男たちに礼と別れを告げる。
「ありがとう。助かったわ……」
「おっと、お楽しみはこれからだぜ?」
「……え?」
いつしか辺りは人通りの少ない暗い場所になっていた。
男たちがキムを取り囲む。
「どういうつもり……?」
「は? わかってるだろ? この世のどこにタダで飯が食える場所がある?」
男たちは乱暴にキムの腕をつかむと、路地裏に引きずり込む。
「放して……!」
「うるせぇ!」
――ゴン!
男のこぶしがキムの頭蓋に炸裂する。
「おい、殺すなよ? 面倒はごめんだぜ」
「わかってるって……」
気を失った彼女がこのあとどうなったかは、言うまでもない。
◇
翌朝、キムはゴミに埋もれて目を覚ます。
ゴミ以外にも身体には様々な液体が付着している。これはゲロだろうか?
きっとそうに違いない。酔っぱらってこんなところで行き倒れてしまったのだ。
そこに別の酔っぱらいがゲロを吐いていったに違いない。
混濁する意識の中で、ぼんやりとキムはそう思う。
「はぁ……」
手首に爪を押し当て、死んでみるのも悪くはないかと思うも、そうは出来ない。
やれやれと、重い腰を持ち上げるのに、それから50分ほどかかった。
「昨日はなんとか食事だけは出来たけど……」
問題はこれからである。
毎日毎日あの男たちに縋るわけにもいかない。なにせ代償が高くついた。
キムにとってはこれほど屈辱的な話はない。
思い返してもはらわたが煮えくり返りそうな思いだった。
「うぐ……」
腹を抑える。昨日、男たちに行為の最中に何発が殴られた。
首にも痣ができている。殴られたせいで頭もいたい。
もはやどうとでもなれという思いだった。これ以上の最悪はないだろうから。
キムはまた午前中職を求めてさまよったが、昨日以上に感触が悪い。
なにせゲロやらゴミにまみれて寝たせいで、悪臭が前よりひどくなっているし、見た目ももうボロボロだ。
また彼女が足を止めたのは娼館の前だった。
昨日とは事情が違っていた。
もはやキムはやけくそだ。
もう怖いものなんかないと、決意をして娼館の門をくぐる。
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