第25話、何事も慣れである
「ふうん……。君って面倒見がいいって言われない?」
「言われるわね。確か、あなたにも言われたことがあるわ、アッシュ」
「そうだっけ?」
アッシュはとぼけた。私の横でソワソワしているのは、フードをとったシウメ。恒例となっている図書館でのお話タイム。例によって王子は、メアリーを連れて奥の本棚に入って本探し。
なお、今回はペルラも同席している。
アッシュはシウメを見た。
「キミ、可愛いね」
「……ど、どうも」
つい、と視線を逸らしてしまうシウメ。
「ダメよ、アッシュ。シウメには恋人がいるのだから、誘惑してもあなたにはなびかないわ」
恋人という発言に頬を朱に染めるシウメ。アッシュは肩をすくめた。
「それは残念。大人しい娘は好みなんだが」
「人形と結婚したら? お似合いよ」
私の言葉に「辛辣ー」と彼は苦笑した。
ただいま、シウメを人の目にさらすトレーニング中。
まだ外でフードを外すのには慣れないという彼女。教室では被ったままだというが、いつまでもそれでは困るので、騒がれず、適度に人のいる図書館で慣れさせようという魂胆。
シウメは人とお話するのは苦手。オマケに猫背になっているから矯正。
ここ最近、私は、放課後となればシウメのもとを訪れて、教育を行っている。私のもとによくペルラがやってくるので、彼女も一緒だ。
「水色の髪っていいですよね」
ペルラはシウメの髪を見て言うのだ。
「ほら、私は普通に茶色であまり目立たないというか……」
彼女は基本ドストレートなので、褒めるところは正直に褒めていた。シウメは落ち着かず視線を彷徨わせている。
「本当に素敵よね」
まだうまく話せないシウメに代わって、私は言う。
「信じられる? こんな綺麗な髪をやっかんで、虐める奴がいたらしいのよ」
「え? そうなんですか? それは許せないなぁ」
ペルラは簡単に同情する。正義感の着火しやすさが半端ない。
「まったくもって乙女の髪を悪く言うなど信じられません。そんな奴は私が制裁してやりますよ!」
などと、ポジティブなことを口にしていた。
レッスンその……いくつか忘れた。友人を作ろう――病んでる子の共通点として、独りでいがち、ネガティブに考える過ぎるきらいがある。
もちろん、独りが好きという場合もあるが、とかく孤立していると悪い方に考えがちだ。それを和らげる程度の付き合いはあったほうが暴走しないで済む場合も多い。
私は、それとなく視線を周りへと流す。
フードを外し、前髪もばっさり切ったシウメは、やはりと言うべきか周囲から注目を浴ていた。
もとがいいからね。身近に可愛い娘が現れれば気になるのは当然だ。
外見は整った。あとは会話力だ。シウメは人が苦手なところがあって、当然ながらコミュニケーション能力は低い。会話のネタもなく、うまくしゃべれないせいで、余計に話せないという悪循環。
間違いを恥ずかしいと思っているのよね、彼女。
だから萎縮してしまう。言い間違いや吃音が恥ずかしい、間違えないようにしないと、と空回りするのがよろしくない。
間違えても平気、そう思うことが大事だ。別に間違えたって死にはしない。
「さて、じゃあ、続きを始めるわよ。シウメ、魔法属性について、簡単に説明してちょうだい」
「は、はい、アイリス様」
シウメは魔法の参考書を開く。向かいの席に座るペルラがノートを広げた。シウメの発声練習と、ペルラの知識教育を同時にこなすという一石二鳥なプラン。私、天・才!
・ ・ ・
シウメは少しずつ自信をつけて言っていると思う。
ペルラがいい子だというのもあるのだけれど、会話が得意でないシウメに合わせてくれるから、彼女も少しずつ話すことに慣れていった。
さすがに吃音がすぐに改善とはいかない。けれど、得意の魔法関係になると、少し饒舌になるのよねぇ。
オタク特有の早口というやつかしら。まあ、シウメの意中の相手は、同じく魔法オタクのメランだから、ある程度話せるようになれば、以後はうまくいくでしょうよ。
そんなこんなをしているうちに、シウメがすっかり私に慣れてくれた。私が彼女にも話がしやすい魔法関係の話題を選ぶことも、多少の話しやすさもあるのでしょうけど。
「お姉ち……あ、アイリス様」
シウメが赤面した。今『お姉ちゃん』って言いかけた?
そういえば、シウメには姉がいたんだっけか。子供の頃、流行病で亡くなったと聞いた。もし彼女が生きていたら、シウメももう少し前向きな子になっていたかしらね……。
「シウメ」
私は、彼女を呼び寄せた。首をかしげつつ近くにきたシウメを私は問答無用で抱きしめた。
「……!」
「私も、あなたのような妹がほしかったわ」
前世では一人っ子。現世では弟がいます。なお、この弟が異世界転生組で、ちっとも可愛くないんだけど!
それはさておき、シウメが慕ってくれるのはうれしいけれど、心の底からだと思っていいのかしら?
というのも、シウメが私に従っているのは、『私に害したら、メランが死ぬ呪い』のせいではないか?
本当のことを言ってしまえば、そんな都合のいい呪いなどないのだけれど、そうとは知らないシウメは、渋々私に従っていたはずだ。
今は普通に接しているけれど、呪いのせいで猫被っているのではないか、と思えなくもない。
何せ、彼女は愛するメランのためなら、文字通り何だってする女だからだ。友好的な仮面を被り、メランの呪いが解かれるまで、フリをしている可能性もあるのだ。
でも、その割には呪いの解き方とか、メランへの呪いを解いてください的な話や相談を受けたことがない。彼の安全を確保するために、それとなく切り出すとか、普通はやりそうなものだけれど……。
呪いは嘘ってバレてるのかな? それとも、本当に私を慕っていて、彼女が私に手を出すことはないから呪いなんて意味がないと開き直ったのかも。
うん、まあ、聞かれないなら、そのままでいいか。保険はかけておくものだ。それが発動しないで済むのにこしたことはない。
「アイリス様、失礼します」
私付きのメイドのモニカがやってきた。
「取り込み中、失礼いたします」
「構わないわ。何かあった?」
「アイリス様に御来客があります」
はて、そんな予定あったかしら? モニカがいつにも増して緊張しているのを感じた。
「どなたかしら?」
「オルトリング王陛下が、お忍びでこちらに。アイリス様との面談を御希望されております」
国王陛下きたーっ!!
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