第3話 一通の手紙

 それから1週間が経った。広川は、恵子との話は気になりながらも、普段の生活の中に戻ると忘れかけようとしていた。毎日定時で楽しくもない仕事を終えて早く家に帰っていった。その日も、早めに仕事を終えて家に帰るとポストに封筒が入っているのを見つけた。差出人は圓谷広恵だった。封を開けると、はがきと便せんが入っていた。はがきは、英一の49日の追善法要が無事終わったことの連絡だった。そういえばもうそんな時期だったと広川は気づいた。それから便せんが入っていたことには少し不思議に思ったが、開いて読み始めた。


 “空も秋色をおびてまいりましたが、お変わりなくお過ごしでしょうか”


 それは広恵が書いた手紙だった。そこには、恵子が英一の実家に焼香をしに行っていた時に、思い出話と最近の話をしていたら、大学時代のクラブの同窓会が開催される予定で、そこで催し物をするという話になったこと。その話を聞いて広恵が、英一との思い出を振り返りたい思いで、当時の中国語劇を見られたらいいなと軽く話をしたら、恵子がとても乗り気になってくれたこと。その後、恵子が広川にその話をしたら広川の機嫌を損ねたことを恵子から聞かされたこと。広川に無理なことをいって申し訳なかったことが、綺麗で丁寧な文字で書かれていた。


 広川は、途中で目をつぶった。そして当時どんな思いで恵子があの話をしていたのか想像した。手紙の最後にこう書かれていた。


 “あの頃の英一君と一緒にいた生活や時間は二度とは戻ってこなくて、時には寂しくてたまらないことはあります。でも一緒にいた思い出は、ずっと残っていて暖かく感じて英一君がそばにいてくれるような気がします。どうか広川さんも、英一君と一緒にいた懐かしい思い出を、たまには思い出してくれると、英一君も喜ぶと思います。あ、ごめんなさい。こんな話をしてしまい…。最後になりますが、これから寒くなりますので、御身体に気を付けて。どうかお元気で”


 広川は手紙を何度も読み返した。その度に文字がぼやけていった。部屋に戻りベッドにしばらく横たわり天井を見つめていた。


 そして、広川は思いついたようにスマホを取り出してLINEで、恵子メッセージを送った。


 “同窓会の中国語劇の話だけど、運営委員長というわけにはいかないけど、参加させてもらえますか?よろしくお願いします」


 そのメッセージは直に既読になり、恵子からメッセージが返ってきた。


 “もちろんです。本当にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします”


 広川は目元をぬぐい、くすっと笑うと昔の活動ノートを取り出した。不安が胸の中に広がったが、それ以上に英一の顔や当時のメンバーの人たちの顔が浮かんで不安を打ち消してくれた。

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