天使と悪魔

@soundselect1

天使と悪魔

(ざわざわと人の集まる声)

通りすがり:なあに?事故?

通りすがりB:そうらしいわよ。しかも双子なんですって

通りすがり:まだこんなに幼いのに。可哀想


~地獄~

素直:ここは?どこ?

エンマ:目が覚めたか、素直

素直:あなた?

エンマ:我はエンマ大王だ

素直:エンマ大王

エンマ:お前は我が助けたのだ

素直:あっ、ありがとう。私生きてるの?

エンマ:いいや、素直。お前はかろうじて魂が残っている。だから笑顔のことも思い出せる。

素直:笑顔、笑顔はどうしたの?

エンマ:さあな。

素直:そんな、笑顔。

エンマ:笑顔が心配か?

素直:当たり前でしょ

エンマ:ならばチャンスをやろう

素直:チャンス?

エンマ:悪魔になり、死んだ人間を1千万人地獄に送れば、また人間にしてやる

素直:人間になれば、笑顔ともう一度会える?

エンマ:ああ。だが、お前の手足には鉄よりも重い拘束をする。この地獄から逃れられぬように。約束を破れば死ぬより辛い事が待ってる。

素直:分かりました。私、約束します。だから、笑顔を悪魔に変えないでください。

エンマ:なら誓え、素直。今日から自分は悪魔だと。もう人を愛する事も出来ない。本当に悪魔になるのだ

素直:はい。誓いますエンマ様。


~天国~

笑顔:ねぇカミサマ、私を助けてくれてありがとう。

カミサマ:お礼などいいのです。当然の事をしたのですから

笑顔:また誰かが死んでしまったの?(天国の音楽が流れる)

カミサマ:行ってきなさい。そして、哀れな人を救ってきなさい。君がその役目ですよ。

笑顔:はい。


~下界~


女性:あれ、私……どうしたんだろ。何やってるの?

女性:あ、そうか。私、死んだのね。

女性:あはは、自分で死ぬなんて馬鹿なことしたわ

女性:ん?この音楽一体…


素直:目を覚ました?

女性:あ、悪魔!?来ないで

素直:あなたは自分で命を絶った。それは思い罪。

女性:ごめんなさい。怖かったの。友達や恋人に裏切られて。それで、こんな価値のない私死ねばいいと思ったの。

素直:残された人の気持ち考えた事ある?どこかにあなたを思う人もいたんだよ

女性:そんな事ない

素直:だったら、あの心配そうに見てる男性は誰なの

女性:山中さん……?何で、私の事

素直:あの人はあなたの事ずっと好きだったんだよ

女性:そんな

素直:でももう遅い

女性:いや、地獄になんて行きたくない!後悔してるの

笑顔:待って!

素直:え?

笑顔:素直?

素直:笑顔、その姿。

笑顔:素直こそ。それって、悪魔になっちゃったの?

素直:そうだよ。笑顔は、天使になったんだね?

笑顔:うん。

素直:そっか、良かったぁ(小さな声で)

笑顔:え?

素直:そう。私悪魔なの。自らそうなったの

笑顔:何でそんな事

女性:同じ顔の天使と悪魔?


素直:さあ私の手を取って。

笑顔:ダメ!

素直:邪魔しないで、笑顔。この人は自分から死んだんだよ

笑顔:そうかもしれない。だけど、本当は死にたくなんかなかったんでしょ?友達に裏切られ、恋人に去られ、自分を失った。もう、生きても無駄だと思った

女性:そう。私、信じてた。だけど、全部嘘だった。信じなきゃ良かった。それも後悔しても仕方ないけど

笑顔:大丈夫。あなたは来世で報われる。私の手をとって

素直:笑顔、綺麗事言わないで

笑顔:カミサマは、どんな人にも幸せは平等に与えられるものって言ってた。だから、この人も幸せになっていい

女性:ありがとう。今度は失敗しないわ、私(天使の音楽が鳴り響く)


素直:笑顔、あなたは優しすぎる。それで人を救ってるつもり?

笑顔:素直。私、死んだ前の事ずっと謝りたかった

素直:やめて!もういい。あと一人、あと一人で、私の使命は果たされるんだから

笑顔:使命?

素直:エンマ様が言ってた。私が一千万人地獄に送ったら、人間に戻すって

笑顔:それ、本当?変だよ。騙されてる。悪魔は一千万人地獄へ送ると、魂を奪われて二度と人間になれないんだよ

素直:私を救ってくれた人なんだよ?

笑顔:素直、信じちゃいけない

素直:事故にあう前も、私達分かり合えなかった。双子なのに。

笑顔:違う。素直のこと本当は分かってる。

素直:ねえ、笑顔。私、笑顔のこと、だいっ嫌い……だよ

笑顔:素直っ

素直:またね。次がサヨナラかもね

笑顔:素直!

笑顔:本当は大好きって言おうとしたんでしょ。それくらい、分かるよ。双子なんだもん。



素直:エンマ様、一千万人を地獄に落としたら、本当に私を人間にして下さいますか?

エンマ:当たり前だ。もしかして我を疑うのか?

素直:いいえ、違います

エンマ:本当ならお前を嘘の罪で地獄へ落とすことも出来たが、我はお前を悪魔へ変え、人間になるチャンスを与えた。我はお前の味方だ

素直:分かりました。

エンマ:また死者のファンファーレが聴こえる。あと一人で一千万人になる。行ってこい。

素直:はい


~下界~

通りすがり:余所見運転で事故ですって

通りすがりB:可哀想に。しかも小さな双子同時によ

通りすがり:前にもこんな事なかった?


素直:双子の女の子?私たちと一緒

女の子A:ここは、どこ?どうなっちゃったの?

女の子B:わたし達、確か事故にあって

女の子A:何?この音楽

素直:二人共、残念だったね

女の子B:え、あなた誰?悪魔?

素直:私は悪魔の素直。地獄へ迎えにきたの

女の子A:地獄?そんな。私達悪いことしてないよ

素直:ううん。どちらかは悪い事したはず。だって、見てたよ。喧嘩してたの。さあ、手を取って

女の子B:いや、地獄はいや

女の子A:じゃあ、私が行く

女の子B:え?エイコちゃんダメだよ

女の子A:私が悪かったんだもん。だから私が行く

女の子B:ダメ。行ったらダメ。私が行くもん

女の子A:ワガママ言わないの

女の子B:だって、エイコちゃん好きなんだもん!

素直:決まった?それじゃあ、私の手を取って

笑顔:素直待って!

素直:笑顔、また来たんだね

女の子A:この子は天使?でも悪魔と顔が

笑顔:うん、私達元は双子だったから

素直:また邪魔しに来たの?

笑顔:素直。もう地獄へ落とすのはやめて。こんなの素直じゃない

素直:あのね、笑顔。誰かが犠牲にならなきゃ誰かは幸せになれないの。さあ、早く手を

女の子B:いや!じゃあ私が地獄に落ちる。だって、エイコちゃん困らせたの私だもん。悪いのはわたしだもん。

女の子A:違うよ。私は酷いことしたじゃない。みいちゃんを叩いた。

女の子B:心配してくれたんでしょ。わかってるよ。双子だもん

笑顔:ねえ、素直。この子達、生きてた頃の私達と似てる


~回想~

素直:笑顔、そんな早く走らないで。

笑顔:ほら、早く素直!こっち

素直:待って!ふざけないで!怒るよ

笑顔:大袈裟なんだから。

素直:もういい。笑顔なんて知らない。言うこと聞かないならずっと、だいきら(急ブレーキの音)

通りすがり:きゃああ!子供が跳ねられたわ

通りすがり:ちょっとアンタ、どこ見て運転してんだよ。信号青だったのに!


~回想終~


素直:笑顔……

笑顔:素直は、正しい事言ってた。私が聞かなかった。そのせいで素直まで

素直:違うよ。私が最後まで追いかけてれば笑顔は死ななかった。私のせいで笑顔が死んじゃった

笑顔:ねぇ、素直。仲直りしようよ。もうこんな事やめにしよう

素直:そんな事言われても、私は悪魔だし。二度と人を愛せない

笑顔:素直ったら変なの

素直:え?

笑顔:愛せないって、愛したいって事と一緒じゃん!それは一つの愛の形だよ

素直:笑顔……

笑顔:だから好きって言わなくていい。だって、分かるもん。私たち、生まれてから死ぬまで双子だったんだから。

素直:あはは、笑顔。もう、本当に、大嫌い!

笑顔:えへへ。私も大好きだよ

素直:私、もう思い残す事ない。だって、またこうして笑顔と仲直り出来たから

笑顔:素直

素直:これからもずっと双子だよね?

笑顔:当たり前でしょ。

素直:ごめんね。二人共。私間違ってた。だから、あなた達は天国に行って

女の子A:いいの?

素直:うん。笑顔、二人を天国に連れていって

女の子B:悪魔のお姉ちゃんどうなっちゃうの?

素直:風になったり、お花になったり。気持ちはなくなるけど、きっとそんなに悪いことじゃない

女の子A:素直お姉ちゃん、ありがとう

女の子B:ありがとう

笑顔:素直、本当にありがとう。さあ二人共私の手をとって

女の子AB:うん!(天使の音楽が鳴り響く)

素直:なんて美しい曲なんだろう。今まで気づかなかった。

笑顔:それは素直の心が、美しいからだよ

素直:うん、笑顔も同じだね。


エンマ:約束を破ったのか。素直、信じていたのに裏切ったな

素直:エンマ様!

笑顔:嘘つき、あなたは素直の魂を狙ってたんでしょ

エンマ:いや。本当に人間に戻れるようにチャンスを与えた。それを無駄にした。だから、お前は永久に地獄行きだ

素直:分かりました。地獄へ行きます

エンマ:それでいい

笑顔:素直!だめ!そんな奴の言う事聞いちゃ

エンマ:お前は、もう一人の子供の方か。忘れたのか?生きていた時された酷い仕打ちを

笑顔:そんなの受けてない。素直はずっと私を愛してるって知ってるもん

エンマ:だが、あの時、素直はお前を嫌いだと言っていた。

笑顔:あれは、私が言わせたの。私が、私が悪い子だったから。素直は、叱っただけ。だから、本当に地獄に落ちるべきなのは私。

エンマ:そうか、なら素直の代わりに地獄へおちれるか?

笑顔:落ちれるよ

素直:馬鹿なこと言わないで!私は後悔してない。私を地獄に落として

笑顔:素直、もういいよ。素直はいっぱい我慢してきた。何年も何十年も、私のために、たくさん人を地獄に落として、苦しんだね

素直:だって、私は悪魔だから

笑顔:素直は悪魔じゃない。素直は、素直だよ。

素直:笑顔っ

エンマ:そうか、なら素直の鎖は解こう(金属音)

素直:あ、やめて!笑顔。笑顔は何も悪くないじゃない!約束破ったの私なんだよ!

エンマ:我に魂を捧げるか?

笑顔:はい、魂を捧げます

エンマ:なら我の手を取れ

笑顔:はい

素直:笑顔!!

(笑顔が消える音。沈黙)

素直:笑顔……まだ、言いたいことも言えてないよ

素直:笑顔、だい、すき……だよ(震える声で)



~下界~

友達:ねぇ素直、今日一緒に帰ろうよー

素直:うん

友達:最近、素直どこか遠く眺めてるよね

素直:そうかな?そんな事ないよ

友達:もしかして、恋?

素直:えっ!?ち、違うよ。ただ、何となく空見てると落ち着くし

友達:へえ、あ。ちょっと!

素直:どうしたの?

友達:猫が…もうダメみたい

素直:二匹の猫、きょうだいかな

友達:何だかもう一匹の方を守ってるみたい

素直:あれ、何か聞こえた?

友達:え?別に何も聞こえない

素直:何だか音楽みたいなの聞こえた気がして

友達:きっと、気のせいだよ

素直:うん…。ねえ、この猫ちゃん達埋めてあげよう。ここじゃきっと寒いから

友達:そうだね

素直:ここの近くにお墓があるよ

友達:じゃあその辺りに埋めてあげよう


素直:これで、大丈夫。一人じゃないよ。安らかに眠ってね

友達:もう遅いし、帰ろう?

素直:うん…あれ。また聞こえてくる、あの音楽

友達:本当?私には聞こえないけどなあ。

素直:この辺から聞こえてくるの

友達:だってここ、お墓しかないよ。

友達:あれ?このお墓。石川素直、石川笑顔って書いてある

素直:え?

友達:ほら

素直:本当だ

友達:同姓同名?って、ちょっと気味悪いかも。でも笑顔って誰かな。姉妹なのかな?

素直:笑顔…

友達:あれ、素直?って、泣いてる?どうしたの?大丈夫?笑顔って子、知り合い?

素直:ううん。知らない。だけど何でかな。涙が止まらない。

友達:もう行こう。家族が心配するよ

素直:うん

(天使の音楽が鳴り響く)


終わり





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