不安な心


「フィーネ」


 久しぶりにニコラスと顔を見合わせた気がした。ここ最近の彼はずっと朝早く出かけていき、夜遅く帰ってくる。同じ屋敷にいるというのに、こうまで会えなくなるものかとフィーネは不思議に思った。


「なんでしょうか、ニコラス様」

「今度また、パーティーがあるんだ。だから、私と参加して欲しくてね」


 そうそう、レティシアたちも参加するんだよという何気ない言葉に、フィーネはニコラスからそっと目を逸らした。


「フィーネ?」

「いいえ、何でもありませんわ。楽しみですね」


 優しく微笑んで見せると、ニコラスは安心したように頷いた。


「よし、そうと決まったらさっそく新しいドレスを仕立てよう。前回は私がいろいろと選んだからな。今度はどんなのがいいか、きみの要望もぜひ聞かせ欲しい」


 ニコラスは嬉しそうに話を進めていき、すぐに仕立屋を呼ぼうと背を向けた。フィーネは思わずニコラスの腕に縋りつくようにして引き留めていた。


「どうしたんだ、フィーネ」


 ニコラスが驚いた様子で振り返った。


「あの、」


 フィーネは自分でも、なぜニコラスを引き留めたのか、よくわからなかった。


「私、レティシア様と非常によく似ていて、とても驚いたんです」


 ニコラスは目を瞠り、だがすぐに自分もそうだと頷いた。フィーネは彼のその表情の変化を少しも見逃すまいと、じっと見つめていた。


「ああ。私も、驚いた。世の中には自分と同じ顔の人間が三人はいるというが、本当だったようだな」


 ニコラスは、本当にそう思っているようだった。


「……前世で、もしかしたらお会いしていたのでしょうか」


 ニコラスの腕を掴むフィーネの指先が、かすかに震えた。それに気づかず、ニコラスはゆっくりと首を振った。


「いいや、会ったことはないな。フィーネは何か知っているかい?」

「……いいえ、私も知りません」

「そうか。もしかしたらきみの遠い親類だったかもしれないな」


 フィーネはそうかもしれませんねと手を離した。

 俯いてしまった彼女に、ニコラスが心配したように顔を覗き込む。


「どうしたんだ、フィーネ。どこか具合でも悪いのか?」


 フィーネは顔を上げて、ニコラスを見つめた。その吸い込まれそうな瞳に、ニコラスは思わずどきりとする。


「私、不安なんです。あなた様の心が、離れてしまいそうで」


 フィーネの縋るような表情にニコラス様は目を丸くして、ふっと笑った。


「馬鹿だな、フィーネは。私がきみを手放すはずないだろう」


 ニコラスはそう言ってフィーネを腕の中に抱きしめた。フィーネは泣いてしまいそうな自分を隠すように、彼の胸に顔をおしつけた。


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