前のエピソード――【☆】２０２０年４月になって、２０１９年に引っ越したはずの京都の住所に私の名義でAmazonの品物が勝手に送られていた。

「なんでだと思う？　私は気付いたんだ。とあるところに莫大な利益が半永続的に続くことを」

　鋭い眼光を放つ、眼鏡の教授がそう言った。

「……そ、それは、PCR検査キットが足りなくなったのと、あと医療従事者やエッセンシャルワーカーにこれ以上負担を与えないためでは？」

「その通りだ。じゃあ、その奥底を考えてみよう。検査なしで陽性判定ができるようになったら、新型コロナの新規感染者数はどうなると思う？」

「増えますね。PCR検査の結果を待たずとも、人間の判断で陽性判定を行うわけですから。濃厚接触者で、医者の前で『くしゅんっ！』とくしゃみでもしたら陽性判定を受けるでしょうね。例え事実は花粉症だったとしても」

「新型コロナの新規感染者数が増えて、一番喜ぶのはどこだと思うかい？」

「……わかりません。マスクとか販売しているところか、ファイザーとかモデルナ社ですかね」

「もっと奥底をあされ。論理が浅い」

「わかりません」

「ヒントを出そう。コロナに気を付けようと注意喚起を出しているのは、どこの局だい？」

「NHKのわずかな隙間時間……。だけ？」

「濃厚接触者に検査なしで、陽性判定ができて、陽性者数が爆増して、一番儲かるのは『マスメディア』が正解だ。脅威や変化が訪れると、みな、マスメディアの報道を見る。ツイッターだろうと、テレビだろうと。新規陽性者数をみなが知りたがる。安定的に受信料を徴収しているNHKは別だが……。ツイッター見てて分からないかい？　NHKよりも地域密着型のマスメディアのほうが、いち早く、その地域の新規陽性者数を発表しているだろう？　みんな数字が気になって気になってしょうがないんだ。まあ、NHKも例外ではないけど」

「NHKも？」

「NHK、ニュース7に出てくる新規陽性者数の、全国マップを見て、一人でも陽性者数が多かったら、その地域を赤く塗る。『警戒してください』と言わんばかりに。そうすると人間の意識として『異常事態』が起きているんだと強く印象付けられる。赤い地域が日本中を埋め尽くせば埋め尽くすほど、人間は興奮しながら、またはテレビに反応しながら、その報道を見る。コロナ禍になって、NHKニュース7は視聴率がかなり向上したんじゃないかな？　いずれにしろ、コロナの新規感染者数が増えて喜ぶのは『マスメディア』だ。『歴史はスタジオで創られる』というデデデ大王の名言もあるくらいだ」

「でもね……」

　教授は最後に付け加えた。

「『マスメディア』が政治や官僚政策に介入できるわけないんだけどね」

　最後は意外とまともな発言の教授だった。