第5話 尖りまくった、いや

 麗らかな日差しの心地よい日だった。

 今日も私達はゴブリン退治の依頼を受けて、ゴブリンが住み着いていると言う鉱山に向かって歩を進めていた。


「あれかな~。見張りっぽいゴブリンが見えるよ」


 先行するチェルシーが珍しくゴブリンの姿を捉え、皆に伝える。


「よし。じゃあまずは遠距離から削って…」

 

 ルキウスが作戦を練っている時だった。


「うおぉぉぉぉ!」

「あ!?待て先走るな!」


 興奮したアドゴニーはゴブリンの姿を目に入れると、ルキウスの静止聞き入れず怯む事無く大剣を振り上げ敵に向かって突撃した。


「でぇい!がっ!ぐおっ!」


 が、ブウンと振り回した初撃をあっさり躱されると、数体のゴブリンに群がられて一斉に棍棒の打撃を食らい、戦闘開始早々気絶する。

 だが、前衛が倒れても慌てる者はいない。いつもの事であるからだ。


「眠りの雲よ。彼の物に眠りを!」

「木の精霊よ。身動きを妨げよ!」


 アドゴニーが気絶するまでに稼いだ時間で、ルキウスとメネリオンが魔法でゴブリンを足止めする。メネリオンの魔法の効きが悪く、足止め効果は半々と言った所だが残り十匹程か。


「へへ~ん。こっちこっち♪」


 チェルシーがゴブリンを挑発し、三匹程引き付けて遠くへ駆け出していく。

 そして私とエウロパは盾を構え襲い掛かって来る残敵を迎え撃った。

 グシャッ!

 エウロパは戦棍を振るいゴブリンの頭を潰し、続け様に二匹目を相手取る。

 私は無理に攻めに転ぜず、十分な隙を見つけてから斬撃繰り出し、確実に相手を仕留める。


「まずい!」


 だが、やや相手の数が多過ぎた。一匹のゴブリンが私とエウロパの壁を突破して後衛に突撃する。


「グギィッ!」


 そこへ杖を捨てて両手で盾を構えたルキウスが体当たりでゴブリンを押し戻し、前衛に立ち、後衛を守るラインを作る。


「待たせたな!これで三人壁役だ。今度こそ通り抜けできまい!」

「本当に魔法使いが前衛をやるの!」

「無茶して死なないようにね!あたいもルキウスの方まで手が回せないよ!」

「ああ。魔法は弾切れだしな。後はこうやって壁になるだけだ。防御に専念しておけばそう簡単には吾輩もやられんよ」


「風の精霊よ。彼の者に斬撃を!」


 私たちが敵を抑えている内に、メネリオンが再度後衛からの攻撃魔法で援護する。


「ギャッ!」


 一撃必殺とはいかなかったが、モロに魔法を受けたゴブリンが態勢を崩した隙に私は首を刎ねる。

 二匹仕留めたところで形勢はこちらに傾き、華麗にとはいかないが、泥臭く一匹ずつ確実に倒していき、何とか今回は気絶者一名でゴブリンを全滅させる事ができた。


***


「ゴブリンはどこだっ!」


 意識を取り戻したアドゴニーが大剣片手に勇ましく跳ね起きて吠える。


「もう戦闘終わったよ」


 回復魔法でアドゴニーを癒したエウロパが呆れた様に伝える。


「終わったぁ?戦闘の最中でも俺を回復させろよ!何で終わってから起こす?」

「だって戦線復帰させた所でまたすぐに気絶するだろうし、こっちも戦闘で手が回らないよ」

「戦闘終了して落ち着いてから起こした方が安全だろう?」


アドゴニーの非難にエウロパとルキウスが呆れつつも諭す。


「ふーむ。やはり神官が戦士を兼任していると回復の手が回らんか。後衛専門の神官を探せば俺にも活躍の機会が来るはず…」

「そう言う問題で無くてなあ」

「一人で突っ込まないで前衛でラインを作れば良いだけでしょ」


 ネメリオンも私もやはり呆れてアドゴニーを諭す。


「ゴブリン全滅だね~。奥の鉱山内にいる気配は無いよ~」


 そんな話をしていると、戦後処理と残党の索敵をしていたチェルシーが戻って来た。


「本当か?お前も盗賊としては壊滅的にとろいからなあ。一応全員で隅々まで見回ろう」

「信用無いな~」


 ルキウスの指示の下、私達は隊列を組み直して鉱山へ歩を進めようとした。


「あ?」

「?」


唐突に声をあげたチェルシーに向かって私が訝し気に顔を向けると、チェルシーがヒョイと首を傾ける所であった。


「うわあっ!」


即座に今までチェルシーの頭があった場所に向かって正面から矢が飛んで来たのだ。真後ろにいた私は避けられずに、兜に矢がガキンとぶつかり大きな音を立てる。ダメージは無かったが衝撃で眩暈がして堪らずその場に片膝を付いた。


「ギッ!」

「ギギッ!」


 そこへ、親の仇と言わんばかりの猛烈な勢いでゴブリン達が私達に襲い掛かって来るではないか。


「ほら見ろ!何が全滅だ!まだ残党いるじゃないか!」

「あれ~?おかしいなあ?」

「それと攻撃を避ける時はもっと余裕を持って避けて!後ろにいる私が気付けなかったじゃない!」

「ごめ~ん」

「うぉぉぉ!今度こそぶった斬ってやらあぁぁ!」

「あ!馬鹿!突っ込むなアドゴニー!」


 やはり尖りまくった、いや、どこか抜けまくったこのパーティである。

 そう簡単に依頼完了と安心してはいけなかった。

 疲労した身体を奮い立たせて、私達はもう一度戦闘開始する。

 アドゴニーは当然のようにゴブリンの打撃を受けてもう気絶していた。

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