第3話 反省会
「我々が組んで初めて受けたゴブリン討伐の依頼は、我々に大いなる教訓を授けてくれたと思うんだ」
「ふーん」
最初の冒険から這う這うの体でゼムダードに帰還し、ギルドで報酬を受け取って数日後。
冒険者ギルドの卓に付きながら私はルキウスとメネリオンと話をしていた。
この二人がパーティのブレーンであるらしい。
「具体的にどんな教訓?」
「その1。アドゴニーが役に立たない」
私の質問にメネリオンが指を一本差し出しそう告げる。
「そこまで言う?」
「事実だしな。前回の冒険を見てれば判るが、毎回ぶんぶんと大剣を振り回すだけで、敵にダメージを与えるのを期待するだけ無駄だ。すぐ壊れる壁とでも考えておくべきだな」
「壁って…あんた。この件について私も言いたい事があるんだけど」
呆れた様に呟く私の言葉を遮り、メネリオンは言葉を続ける。
「その2。ルキウスの魔法は当てにするな」
「隣に当人がいるのに言う?」
「吾輩の事だがこれも事実だしな」
「兎に角他の能力値が高いから、何か期待を抱かせる分だけアドゴニーよりたちが悪い。精神力一桁では一日に二回使える魔法の道具程度に考えると良いだろう」
「ほら。精神力が無くなったらパーティの壁になれるように大盾を買ったぞ。これも有り余る吾輩の筋力のおかげだな」
「良かったのかな?魔術師が壁役だなんて」
むしろ筋力が少なかった方が扱いに筋力のいる大盾を持てず、前衛に立たずに済んだのではないだろうか?
「吾輩の様な尖りまくった能力のはぐれ冒険者なんぞ、できる限りの事はやって生存率を少しでも上げないとな!」
爽やかな笑顔でルキウスが力を込めた声で私にそう語りかける。とりあえずは責任感の高い男なのだろう。
「その3。メネリオンは前に出すな」
「自分で言う?」
「流れ弾どころか石でも飛んできてぶつかったりしたら、即座に生死判定ものだからな。生きてさえいればルキウスと違って精霊魔法でいくらでも援護できるから、私を庇ってくれ」
「まあ、後ろからチクチク援護してもらった方が助かるんだけどねえ」
教訓と言うか弱点の羅列を聞いて、さすがに私も頭痛を覚えて来た。
「その4。回復魔法は無いと思え」
「それについても色々と言いたい事があるんだけど?」
「まあまずこちらの話を聞いてくれ。エウロパの役割は負傷を回復魔法で癒す事ではない。アドゴニーの代わりに主戦力で戦う事だ。気絶した仲間をエウロパの回復魔法で復活させたとして、次巡にはまたそれを上回る負傷をして再度生死判定をするはめになるだろう」
「で。アドゴニーの代わりに前衛に出て壁役になって、そしてエウロパの代わりの回復役をする事になったのは誰?」
「それは貴方様でございます」
私の言葉にルキウスとメネリオンが私に向かって深々と頭を下げる。
・サーシャ(人間・女・野伏 十九歳)
異様に尖りまくった他の五人に比べると全ての能力値が平均的で穴が無く、逆に個性が無いとかつまらないとか言われたりするのが癪に障る今日この頃。
元々は後衛の弓士として誘われた筈なのだが、すぐ前線を崩壊させるアドゴニーの代わりに壁役になる事が多くなり、戦士育成所に通って剣や盾の扱いを学んで戦士の技能を得てすっかり前衛が板に付いてしまった。
また、回復役として機能していないエウロパに代わり、大地母神の神殿に通って神官としての技能を授かり、パーティの癒しの役割を担う事になった。
おかげで今では後衛の弓士の影も形も全く無い。
「確か後衛でと言う事でパーティに誘われた筈なのに、私はどうして前衛に立っているのかしら?」
「それは全くもって申し訳ない」
「よくよく考えれば、『気に入らなければ脱退してもらっても構わない』とか言われていたのだから、最初の冒険の後に抜ければ良かったのになぜまだ一緒に冒険しているのかしら?」
「それも全くもって申し訳ない」
「まあ、私も気構えが甘かったし今更後に戻れない所まで来ちゃったしねえ」
最初の冒険を終えて、あまりにも穴だらけのパーティに気が動転した私は、立て直しを図るために帰還したその日に戦士育成所と神殿に足を運んでしまい、それから数度の冒険を既にこなしている。
今考えると、もう少し考えてから行動すべきであったと自分を恨むばかりである。
「サーシャ。君のおかげで我々パーティもうまく回るようになった。まさにこのパーティの核は君と言っていい。それはもう感謝のしようがないくらいだ」
「感謝をこれで見せてくれるのなら考えても良いんだけど」
ルキウスが熱意を込めて言うのを冷めた目で見ながら、私は二人に指でお金のサインを見せてそう呟く。
「それはもちろん、色を付けさせて誠意を見せますので」
ルキウスは揉み手をしながらありがたい事をいってくれた。
おかしい。ついこの前まで私は人との会話もままならない山娘だったはず。
それがいつの間にか随分と擦れてしまっているのではないのか?
アミナの顔をそっと伺う。
「まあまあ。昨日、良いエールが入ったのよ。とりあえず一服でもしたら」
苦笑しながら提供するアミナの好意を受け取り、私はエールを頂いた。
遠くで楽しそうな子供の笑い声が聞こえたある日の昼過ぎの後悔であった。
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