第2話 仲間の紹介

「おおおりゃぁぁぁ!」


 凄まじい気迫と咆哮と共に大剣がゴブリンに向かって振り下ろされる。

 こんな斬撃を食らえば即死は免れまい。

 命中さえすればの話ではあるが。

 あまりにも大振り過ぎるのかゴブリンはその斬撃をヒョイと余裕をもって躱す。


「くそっ!こいつ中々素早いじゃねえか!ぐわっ!」


・アドゴニー(人間・男・戦士 二十一歳)

 パーティ二番目の問題児。

 豊富な生命力と共に卓越した筋力を持ち大剣を得物とする戦士。

 これだけを聞けば優秀に聞こえるが、問題はその絶望的な器用度である。

 大剣をぶんぶんと振り回す様は正に扇風機と呼んで過言ではなく、物語の終盤までほぼ扇風機であった。

 更には敏捷度も高くなく、アドゴニーの攻撃は命中せず反撃を受けまくりで(先のセリフの最後は、大振りを回避された後にゴブリンからの攻撃を受けた悲鳴である)、戦闘開始数巡で気絶と言う事が度々であった。


「戦の神よ。彼に癒しを!」


 アドゴニーの負傷を見て、ドワーフの女の子が癒しの魔法を唱える。

 暖かな光に包まれて傷が見る見る癒えて…。


「おい!動けるか!」


 戦闘の最中、ルキウスが大声で呼びかける。


「ぜ、全快には程遠いが何とか」

「全然治ってないじゃないか!?」

「あれえ?」


・エウロパ(ドワーフ・女・神官戦士 四十五歳)

 器用度、筋力が高く、パーティ内の戦士としては優秀な主戦力。

 問題はゴブリン並の知力による癒しの魔法の回復力の少なさ。

 いくら唱えても傷が僅かに癒えるばかりである。

 更には専業戦士のアドゴニーがまるで役に立たない為、神官の技能よりも戦士の技能を成長せざるを得ず、ますます回復力の低さが目立つようになった。


「だいたい何でゴブリンの接近に気付かなかったんだ!」

「ごめんね~~~」


ルキウスの𠮟責にふんわりとした口調で、ふんわりとした雰囲気の女の子が応える。


・チェルシー(人間・女・盗賊 十八歳)

 盗賊に必須の器用度、知力共に低く、どうして盗賊になったんだ!と腹立たしくなるような盗賊。

 敵の接近には気付かないくせに自分の敏捷度だけは高いので、周りが傷だらけの中で敵の攻撃を躱し続け、たった一人無傷でいる事も腹立たしさに拍車をかけている。


「敵に足止めの魔法で援護を!ってメネリオン!」

「…」

「ああ!流れ矢に当たって気絶している!」


・メネリオン(エルフ・男・精霊使い 百七十八歳)

 敏捷度、知力、生命力全てがエルフのほぼ最低値と言うエルフ界最大の役立たず。

 特に生命力の低さは致命的で、戦闘が始まったらいつの間にか倒れている。と言う事もしばしばである。


「あなたこそ魔法で援護できないの!?」

「悪いな。さっきの魔法で弾切れだ」

「ええ!?」


・ルキウス(人間・男・魔術師 二十歳)

 パーティ最大の問題児。

 知力は人間の最高峰レベルであり、魔法使いには無駄な程の筋力も誇り、ある一つの能力を除けば、器用度敏捷度生命力も人間の平均よりも高いと言う凄まじく有能な冒険者である。

 そう、一つの能力を除いては。

 なんと精神力が驚異の一桁!

 こんな精神力では、眠りの雲や魔力付与、魔力の矢を一発唱えただけで弾切れである。

 事実、この戦闘の前に見張りのゴブリン三匹に向けて眠りの雲を唱え、バタバタと行動不能にした事で彼の今日の仕事はおしまいであった。


 そんな尖りまくった能力を持つ仲間達の戦闘をフォローしながら私は弓を引き絞る。


「ギィッ!」


 見事ゴブリンの胸を深々と射貫いて仕留めた事を確認すると、次の目標に向けて立て続けに矢を射る。こちらも頭部に見事命中し二匹目を仕留めた所で、残りのゴブリン二匹をエウロパとチェルシーが苦労して撃破した。

 因みにこの時点でアドゴニーはゴブリンからの打撃をもろに受けて気絶していた。


「ふう。こちらは気絶者二人で何とかゴブリンの集落壊滅と」

「あと一人倒れていたら逆にこっちが全滅だったよ」


 ルキウスの言葉にエウロパが疲労困憊と言った風情で応える。

 チェルシーはと言うと、戦場でのんびりしながらぱたぱたと手で風を扇いでいた。

 確かにギリギリの戦いであった。一歩間違えて前衛が倒れていたらなし崩し的に後衛の私達も倒されていただろう。


「エウロパ。アドゴニーとメネリオンを癒せるか?」

「こっちも精神力切れそうで無理」

「私が応急処置できるから、半時もすれば二人とも起きられると思うけど」

「それなら助かる。二人を頼むサーシャ」


 私の言葉に心底助かったと言う表情をしながら、ルキウスはチェルシーと共にゴブリン征伐の証の右耳を切り取り戦利品を探し始めた。


(金を稼ぐ事に急いて失敗したかも…)


 内心で私はそう反芻していた。

 自分の能力を売り込みする事に気を取られて忘れていたが、相手の能力をよく確認すべきであったのだ。

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