史上最悪の冒険者たち

八車 敦

第1話 人里に降りた山娘

 今までの人生を五十人もいない山の集落で過ごし、獣を狩ったり果物を収穫したり、なんとも野性味溢れる手段で、その日の食料を確保すると言う人生を送っていた山娘の私が初めて人里に降りたのだが、これでも地方の城塞都市でしかないと言われるゼムダードの城下町を行き交う人波に気圧されていた。

 何とか勇気を振り絞って人に声をかけ(それでも声をかけられたのは優しそうな同年代の女性であったが)、私が山から降りてきた事、働いて稼ぎを得られる場所を探している事を尋ねてみたら、その女性は冒険者のギルドで受付嬢をしているらしく、とりあえず一緒に来てみては?

 と言う、彼女のありがたい言葉に感謝し彼女と一緒にギルドへと向かう事にした。

 道すがら、アミナと名乗った受付嬢から何か手に職を付けているのかと尋ねられ、

・狩猟や山歩きで弓や蛮刀をよく使っていた事。

・野山の生活でそちらの知識が些かある事。

・木を加工し大きな物なら家屋や水車、小さな物なら首飾りや置物を作っていた事。

・動物の皮をなめして防寒具等をつくっていた事。

 を伝えたら、都市内での需要は微妙だけど、それだけ多才なら何かしら仕事は見つかりそうね。と笑顔で返されたので、私もここでようやく一安心する事ができた。

 母は既に亡くなっており、父が先日から老衰で寝込んでいる事が多くなったため、父と弟妹を養う為にも早めに継続的に、私は金を稼がなければならないのである。


***


 冒険者ギルドはやはりその荒々しさとか、非常時の何でも屋と言う扱いなのか街の中心部からは外れた場所にあったが、人の出入りも多く活気はあった。

 掲示板には依頼事が多く貼られており、日の高いうちから酒を飲んでいる冒険者パーティも複数いた。


「駆け出し冒険者向けの薬草採取依頼は時折来るけど今日は先に取られたようね。家の修理依頼も無しと。困ったわね。あなた数日過ごせるだけの路銀はある?」

「家からかき集めたのが百ガメルくらいかな」

「それなら十日は何とかなりそうね。それまでには受注できる依頼も来るでしょう」


 そんな会話をしていると、二階から冒険者パーティらしき一団が降りて来た。先頭の大柄な魔法使い風の男と目が合ったので何となく会釈をする。すると、


「君は弓を得物にしているのかい?我々もパーティ組んだばかりで丁度後衛を一人探していたんだ。良かったら一緒に組まないか?」


 私が背負っていた弓を見てか、やや勢い込んで彼が私にそう声をかけて来た。


「冒険者パーティの勧誘ね。あなた一人で行動するより自由は無いけど、複数人で組めば受けられる仕事も増えるし、お金を稼ぎたいなら加入するメリットはあるわよ」


 男の言葉を補足するようにアミナが頬杖を突きながら私にアドバイスをくれる。


「無理強いはしないが、試しに一緒に依頼をこなしてみてないか?気に入らなければ脱退してもらっても構わないし」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 魔法使いの熱心な勧誘に慌てたけど、アミナのアドバイスを噛みしめて考えると確かに一人で稼ぐよりもメリットはありそうだし、他のメンバーを見れば女性もいるし、何とはなしに心強そうではある。


「じゃあ…。仮にと言う事で一度組んでみましょうか」

「おお!ありがたい。吾輩の名前はルキウスと言う。君は?」

「私はサーシャ」

「サーシャか。よろしく頼む」


 私が名乗るとルキウスは満面の笑顔を私に返してきた。

やや暑苦しい男ではあるけど、対応に悪い気はしないし悪意も感じないからとりあえず信頼はできそうではある。


「アミナ。早速だけど何か依頼はあるかい?サーベルタイガー退治か?ドラゴンの卵の採取か?」

「あなた達だってこの前組んで初めての冒険をしたばかりでしょう?」

「わはは!冗談だ」


 駆け出しの割には中々に豪胆な冗談を言う。私が冷や汗をかいていると、依頼表を探していたアミナが何かを見つけてこちらに提示する。


「ここから二日の行程にある村からゴブリン退治の依頼が来ていたわ。村の近くに十匹強で拠点と言うか集落を作りそうな気配だって。報酬三千ガメルだから、六人で割れば一人五百ガメルね」

「冒険の始まりはゴブリン退治から。と言うしこの依頼受けて良いか?」


 ルキウスが後ろの仲間に尋ねるが異論は出なかった。


「サーシャはここに来たばかりだが、早速現地に向かって大丈夫か?」

「ええ。私も早めに稼ぎを得たいし」

「健脚で行動が早いのは良いな。他のメンバーは道すがら紹介していこう」

「皆さんよろしくお願いします」


 私はそう言って皆に挨拶をした。

 しかし、私はこの時報酬を得たいが為に自分を売り込む事にばかり気を取られていて、大変な事に気づいていなかった。

 それはもう後悔するばかりの事であったが、今の私に気付く由は無かったのである。

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