ダブルクロス 星落とし

@yata08

それぞれの視点……にいみえりかの場合

さようなら



心が軋む。

ワタシの中で何かが溢れて、ワタシの中の何かを飲み込んで

そして何かは別の何かと混ざり合って、ワタシは全く違う別の何かになってしまうんだ


身体が震える


怖い


どうしようもなく


マサくん……助けて

マサくん……やっぱりワタシ、マサくんを食べちゃったのかなぁ

ごめんねマサくん


「おい、新見!」


え?おお……がみさん?

どうして?


「大丈夫か?LINEしたんだぜ?既読もつかないし……」


え?


「いや……そりゃ俺もなかなか既読できないこともあるし、返信も遅れるけどよ……」


どういうこと?心配してくれてるの?

でも、どうしてここがわかったんだろ?

心配してる?そんなわけないでしょ……

都合よく考えるな……


ワタシは

お前は


化け物なんだから!


ワタシの中の何かはワタシが口にできないことを口にしてくれる

ワタシができないことをしてくれる


「大神さん?来てくれたのね?」

「大神くん?会いたかった」

「優作くん、ひどいな、全部コッチから連絡してるんだから」

「ユウくん、ひとりにしないでよ」


ユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくんユウくん


心の中の何かはもう口から溢れ出したんじゃないかな?

そしてまた何かが心の中に溢れて、永遠に止めどなく溢れ続ける


あれ?いつのまに?

気がつけば、ユウくんはワタシのそばにいる

手を伸ばせば抱きしめられるところに


「大神!大丈夫か?」

え?いつのまに?

何?あの女

ああ、確か昨日の……

ユウくん……まさか他の女と一緒に来てたの?



「誰よその女!どうしてワタシだけを見てくれないの?どうしてワタシだけを愛してくれないの?ネェユウくん……どうしていなくなっちゃうのよ!どうして!どうして!マサくん……ワタシを1人にしないでよぉぉぉおおお」


あーやっぱりそーなんだ!

心の中の何かが囁く

「ユウくんも……食べちゃえばいいんだ……マサくんみたいに」


あの女……邪魔だなぁ

邪魔しないでよ!

ワタシはユウくんと一つになりたいの


バシッ!


頬に痛みが走る

怖い!パパ、パパ、パパ、パパパパママを叩かないで!ママママママなんでどうして?ワタシが見えなくなっちゃったの!ワタシを拒否するならいっそみんな……


「エリカ!」

パパパパパパパパマママママママサくんマサくんマサくんマサくん……


「エリカ!聞け!お前は本間雅文を殺しても食ってもない!」

「は?何言ってるのユウくん?ワタシ食べたよ、全部飲み込んで、マサくんはワタシの中で何かになったよ!」


「本間雅文は生きてたんだ」


そう言って何か紙を取り出す


[俺はこんなになっちゃったけど……]

[遠くから見守って……]

[いつかまた2人で……]


どれもこれも書きかけの手紙

ぐしゃぐしゃに丸められた手紙を伸ばしたのだろうか?


全部書きかけの、だけどその後の文章が想像できる手紙


マサくんの字にマサくんの気持ちが見えた気がする

ワタシの中の何かに飲まれた何かが少しだけ動いた


「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘」


ユウくんは色々な事を言う


マサくんは人じゃなくなって、でもワタシを見守ってたって……ダメ!側にいてくれなくちゃ!


マサくんはワタシを心配してたって……ダメ!そんなの聞こえないよ!


マサくんは化け物になってしまったって……あーそういうこと……ワタシの中の何か……これのことね?


「そして……俺が殺したんだ……」


絞り出すようにそう言ったユウくんの顔はとてもとても辛そうだったよ


ワタシの中の何かがワタシの中の何かに弾き出されて行くような……待って!行かないで!

ワタシを今まで守ってくれた何か!


力が入らない……膝から崩れ落ちる様にその場にしゃがみ込む


痛い……

何かに締め付けられてる……


でも……暖かい

ユウくん……大神さん


あれ?今、痛いって思ったよね?

締め付けはさっきより強くなってる

なのにとても……とても気持ちがいい


「すまない……できるだけちゃんと既読する!

すぐに返信できないかもしれないけど、できるだけ早く返信もする!」


え?


ふふふ、なにそれ

なんでいまそれなの?


「前に好きな人がいたって言ったよな?

たぶんもう死んじまったって

でも、もしかしたら生きてるかもしれないんだ」

え?こんな感じでフラれたの?


「でも、それはいいんだ!もう連絡もつかないし……」

え?フラれてないの?


「だけどそれとは別に……」

えぇっ?

「こっちに来てから気になるヤツができたんだ……」

あれ?変則的にフラれ

「でもソイツは死んじまった、化け物になって」

え……マサくんと一緒……大神さんも辛かったんだね、ワタシと一緒で


「でも、もしかしたら生き返るかもしれないんだ、仲間が色々してくれて」

んんんんんん?

くすっ


混乱が激しいよ、大神さん

ついつい笑ってしまった

でも、心の中の何かはいつも間にか形を変えていて、代わりにこんな気持ちが


好き……だけど、それは自分が気持ちよくなるための手段じゃないな……


この人に幸せになってほしい、そんな好き!


「帰ってくるといいね」

ワタシの中の形を変えた何かが口から全てこぼれ落ちた


「お前は……もうちょっと憎まれ口でもきいてくれりゃあよ……」

弱々しいけど笑顔


「でも、負けるつもりはないからね!」

ワタシは多分、今まで生きてきた中で一番の笑顔で返したよ


マサくん、ありがとう

マサくんと一緒だったからワタシは最後の一線を越えずにすんだんだよね?

マサくんの事は忘れないけど、でもこれからは前を向いて歩いていくね?

マサくんの手紙、きっとそう書いてくれてたよね?


ありがとう、さようなら

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る