第6話 アホぼんよさらば
父が陛下に会いに行き、学院長の協力もあって婚約は解消された。
あの独特な妃教育はやはり息子大好き王妃の独断で行われていたものだった。
陛下は父に無理を言ってまで私を人質よろしく争いに巻き込んだ癖に、当事者二人がこれっぽっちも理解していなかったことを父と学院長がこんこんと陛下が屍になるまで説明したそう。
陛下は父に平謝りしたそうだ。
今回の件に関わった各家から慰謝料を貰い、私の名誉も回復された。そもそも騒いでいたのは彼らだけだったので、直ぐに終息した。
私は何もしていないが、今度は殿下がアホと噂が流れているとか。噂じゃないよ、それ。事実。と言いたいけれど、尋ねられても曖昧に微笑んで誤魔化しておいた。さすがにね。
後日、事情を知ったであろう殿下が、いきなり家に訪ねてきた。
相手が格上だから受け入れるしかないけれど、親しくも無いのにかなり失礼だ。
「申し訳ありませんが、既に婚約は解消されています。妙な噂が立っても困るのですが」
「貴女に謝りたかった」
「何を、ですか?」
ここ重要。
「人の話を鵜呑みにして、きちんと調べなかったことをすまないと思う」
「それで?」
「えっ?」
他のことは悪かったと思っていないようです。
「謝罪は受け入れません。謝罪するべき所はそれだけではありませんから」
陛下はきちんとこのアホぼんに話をしてくれたのだろうか。してないのか、されても理解できなかったのか。
第二王子がどの様な人物かは噂でしか知らないが、これなら王位継承権争いに発展する前に第二王子が王太子で良かったのではないかと思う。
アホぼんは驚いた顔をしているが、私は謝罪を受け入れなくても大丈夫。陛下のお墨付き。
父が陛下からの謝罪は受け取っているし、王子の教育面から考えても本人の自己満足に付き合う必要はないと言われていた。
多分父に言わされたのだと思うが。
今更厳しくしても遅いと思うが、謝罪を受け入れなくていいのは気分がいいのでそのままに。さくっとお帰り頂いた。
私は今まで通り学院へ行き、婚約する前と同じように過ごした。
身分で人を選ぶななどと偉そうに言われたが、まぁ、実際に偉いのだけれども、元々私の友人は侯爵、伯爵、子爵、男爵と幅広い。
中立を保つ家なので、爵位より人柄で選んでいるからだ。
様々な爵位の人と一緒にいる私を見て、アホぼんが驚いているのを見た。失礼な。今すぐその間抜け面を張り倒したい。
私の交遊関係を制限したのはそちら側ですよ。私はアホぼんの好きな事柄を無理矢理暗記させられたのに、私のことは本当に欠片も知らなかったようだ。
アホぼんの隣には気が付いたら側近候補の人たちしかいなくなっていた。
ルイーゼ様は学院で見かけるけれど、クルトル伯爵令嬢は全く見かけなくなった。
知っていそうな子に聞くと、彼女は私が体調不良で休んだあたりから休学していると聞いた。
何か王家からお咎めがあったのかは定かではないが、彼女は直接的には今回の件に関わっていないとも言える。
クルトル伯爵令嬢を気に入って側に置いたのは殿下だし、側近も含めてクルトル伯爵令嬢を好きになるのは彼らの勝手だ。
クルトル伯爵令嬢が彼らの事をどう思っていたのかは分からないが、虐めはルイーゼ様、私が虐めたと噂を流したのもルイーゼ様だ。
私とアホぼんの婚約が解消されただけで、アホぼんにもルイーゼ様にも表立った処分が下っていない以上、彼女だけが何らかの処罰を受けていたらそれはおかしいと思う。
アホぼんは私との婚約を解消して、ますます立場が不安定になっているのに、馬鹿なのか、本当は王太子になりたくないからの行動か。
相変わらず自由に振舞っている。性格を知らないから何を考えているのかもわからない。
もし、心底何も考えていなくて、クルトル伯爵令嬢が第二王子派が用意したハニートラップなら、完全に成功していると思う。それはそれで天晴れ。
私が謝罪を受け入れていないからか、周囲をちょろつくのは本当にやめて欲しい。
私の口が悪い仲間が、小物感が凄いと笑っていたが、同意します。
「アホで小物ね。そりゃ王位継承争いも起きるわ」
仲間その一。
「追加情報で、多分マザコンだと思う」
燃料追加。
「うわっ、きっもっ」
仲間その二。
「大事にするのとマザコンは別ですよねぇ。母親と近親相姦でもなさって、断種で追放されたらよろしいのにぃ」
仲間その三。おっとりした話し方をするが、一番お口が悪い。私は大好きだけれど。
「っていうか、この国の未来もう、やばくね?」
仲間その一。
「他国への留学も視野に入れてパンフレットを取寄せているけれど、見る?」
びっくり顔の仲間その三。どうした。何故そんなに驚く。
他の二人は盛り上がって、私の家に遊びに来ることになった。
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